見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
上 下
11 / 147

11

しおりを挟む
明日は亮真様のお誕生日でございます。 

信じられませんけれども約一年ほど亮真様とまともに顔を合わせることも出来ておりません。 

はしたないとは思いますけれども幾度も都合を窺わせていただいておりましたが無駄に終わっておりました。

亮真様が私のような不出来な婚約者を恥じて避けてらっしゃるのか、本当に忙しくしていらっしゃるだけなのか、それともほかの理由がおありになるのか。一年も経ってしまった今ではもう深く考えることをあきらめてしまいました。 


―――あとひと月で結婚式ですのに。 

顔も合わせぬまま着々と準備は進められておりますけれども。 

私一人であちらに嫁ぐ身としては、今は不安で仕方ありません。きちんと向こうの御家族に受け入れていただけるだろうかと眠れぬ夜を過ごしております。 


毎年亮真さまはお誕生日の日には身内の方とご友人を誘っておられます。 

私も婚約者になってからは毎年屋敷にお呼ばれされておりますので、今年も招待状を頂きました。 

ずっと亮真様とお話しする機会がなかったので、亮真様の好みが以前と同じかどうか存じ上げませんので、あちらの使用人の方にお願いして亮真様の好みなどをこっそりと確認していただきました。 

 

後日、亮真様は老舗の竹光屋さんの万年筆を好んで使っているようだと教えていただきました。 

竹光屋さんの万年筆は繊細なつくりえすが持ちがよく機能性も優れている為すぐに品切れになってしまうようです。 

急いで竹光屋さんに問い合わせてみますと案の定品切れで、万年筆が届いたのは亮真様の誕生日前日でございました。 

亮真様にお気に召して頂けると良いのですが。 


◇◇◇◇
 

そして今日は亮真様のお誕生日でございます。 

 

招待状に書かれていたのは午後3時からとなっておりましたので、何かお手伝いが出来るかもと少し早めに伺いました。 

屋敷の前に車を止めてもらって玄関先に伺うと、外にまでにぎやかな声が聞こえてきます。 

時間を確認しましたが、指定された15時にもなっておりません。 

呼び鈴を鳴らししばらく扉の外で待っておりますとお義母様が玄関先に出迎えにきてくださいました。 


「ご無沙汰しております。本日は亮真さまのお祝いに呼んでいただきありがとうございます。お義母様お元気でいらしたでしょうか。」 
 

当たり障りのない挨拶を申し上げましたが、お義母様は無言のまま挨拶の為頭を下げた私を見下ろしております。


「あの?お義母様? 」

何か粗相をしてしまったのかしらと不安がよぎりますが、特に思い当たることもありませんのでお義母さまのお言葉を待ちます。 

「12時からと言っていたのに、何をのんきにこんな時間に…とっくに食事も済ませてしまって今は皆さんで歓談をしながらゆっくりしているところなの。 
小雪さん、あなた…亮真の婚約者なのにこんなに遅れてくるなんて…」 

「12時からでございますか?でも頂いたこちらの招待状には15時からと「あらあ小雪さん。なかなかいらっしゃらないから心配して使いを寄越そうかと思っておりましたのよ。ねえ、お義母様?」 

「ええ、そうね。琴葉さんの言うとおりだわ。とにかくお入りなさい。亮真は二階のシガールームにいるわ。」 

そういうと、お義母様は琴葉義姉様と一緒にお茶に向かわれました。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)
恋愛
少女プリシラには大好きな人がいる、でも適当にあしらわれ相手にして貰えない。 幼過ぎた彼女は上位騎士を目指す彼に恋慕するが、彼は口もまともに利いてくれなかった。 やがて成長したプリシラは初恋と決別することにした。 すっかり諦めた彼女は見合いをすることに…… だが、美しい乙女になった彼女に魅入られた騎士クラレンスは今更に彼女に恋をした。 二人の心は交わることがあるのか。

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

処理中です...