上 下
31 / 32

第31話 VSギガンテス

しおりを挟む
 対ニーゼサーカス団。

 サーカス同士の団体戦の最中。

 俺は。

「『ファイアブレス』!」

 最大火力のブレスを吐き出し観客の視線を集め、それからニーゼサーカス団のメンバーを一掃した。

 モーケに操られているせいか、普段の動きのキレがなく、誰も抵抗することなく壁際に吹き飛ばすことができた。

「おのれ、こしゃくな」

「戦いが始まってしまえば、有利を取れると思ったのか?」

「ぐぬぬ」

 言い返せない様子を見ると、どうやら本気でそう思っていたらしい。

 確かに数では圧倒的に劣っているが、無理やり操ってうまくいくほど、ゴルドたちも無個性ではないのだろう。

「しかしあれね。かつては人形使いとして名を馳せた男がここまで落ちるなんてね」

 アリサの言葉に、モーケは突然地面を殴りつけた。

「うるさい! お前たちに何がわかる! ワシの、ワシの何がわかると言うんだ!」

「わからない。俺は何もわからない。俺に対する仕打ちも、今やっていることも俺には理解できない」

「なら黙っていろ! 全てワシが正しいのだ。ワシはまだ本気を出していないだけだ!」

 最初から本気を出せと言いたいところだが、目の前の光景に俺はすぐには声が出なかった。

「うあっ。ああっ!」

 モーケが荒々しく腕を振り上げると、それにつられて一人の女の腕が振り上げられた。

 それは、俺のブレスで吹き飛ばされていたユラーの腕だった。

 無理やり動かされているせいか、鈍い音を立て、聞いているだけで体が痛む。

 そして、服の中を勢いよく探り出すと、一つの小瓶のようなものを取り出した。

「あれはっ!」

 驚いたようなスライムの声。

 と言うことは、あれが先輩の入ったモンスター封印のツボ。

「いいか。ワシはまだ本気を出していないだけだ。調子に乗ったことを後悔するがいい。本当の本番はここからということを思い知るだろう」

 ガハハと笑いながらモーケが腕を振り下ろすと、ユラーも同じように腕を下げた。

 小瓶が手から離れ、地面に当たり、砕け散った。

 モクモクと煙を上げながら、その中身が姿を現す。

 それは、スライムが言ったように今まで見たこともない大きさのモンスターだった。

「さあ、ワシの本気を受けきれるかな?」

 にたりと笑みを浮かべると、モーケは先ほどと同じように腕を振り下ろした。

 と、同時、今度はギガンテスの腕も俺たち目がけて降ってきた。



「『オールブースト』!」

 マイルの支援魔法で全身から力がみなぎる。リルもいるせいか、ドラゴンと戦った時よりもなんでもできそうだ。

 まるで家が降ってきたかのような大きさの拳。

 だが、ドラゴンと比べてもまるで威圧感がない。

 ギガンテスが心から戦おうとしていれば違うのかもしれないが、今は恐ろしいとは思えない。

 俺は降りてくる拳に右手を突き出した。

 ずっしりとした重量感はあるものの、受け止めきれないほどじゃない。

「そのまま左に受け流すんだ」

「了解」

 俺はリルの指示の通りに、ギガンテスの拳を左に投げた。

 大岩が落下してきた時のように、地面は大きく揺れたものの、俺たちに被害はゼロだ。

「何っ! なぜ無事なんだ!」

 一際大きな声が聞こえてくるが、俺は肩に手を置かれ、意識をリルに向けた。

「ドーラは右へ飛び上がれ、そして、ギガンテスの目だけを目指せ。アリサは魔法の準備、ヤングはギガンテスの膝にナイフを投げろ。マイルは可能なら全員に支援魔法を」

「おし。それじゃ。みんな任せた」

「もちろん。全力で氷を放ってあげるから」

「オレはなんで膝に投げるんだ?」

「いいからやるの! ワタシだって全員に支援するんだから。みんなができることをやるってことでしょ。ほら、ドーラ。任せたわよ」

 俺は頷き、全員の顔を見てから走り出した。助走をつけて、できる限り強く地面を踏み込んだ。

 体が持ち上げられるような不思議な感覚を抱き、いつもよりも高く跳び上がったことを実感した。

 すげえ高い。むっちゃヒヤヒヤする。けど、なんだか不思議と楽しい。

 跳び上がったおかげで、操られていながら、ギガンテスが驚いているのもわかった。

「そりゃそうだよな。簡単に潰せそうな大きさのものに、自分の手が投げ飛ばされたんだもんな」

 俺だって同じ立場なら驚くだろう。

 そこまで考えたところで、急にギガンテスは体勢を崩したようによろめいた。

 きっとヤングのナイフが膝に当たったのだろう。

 それ以外にもリルの指示で的確に当ててくれているはずだ。

 にしても浮遊感が続く。

「俺このままずっと上に行けるんじゃないか?」

 とは言え、なかなかギガンテスの顔までブレスが届く距離に至らない。

 リルは先が見えている様子だったが、ここからどうするのか。

 羽が生えてるわけじゃないし。

「今だ! ドーラめがけて魔法を放て」

「……『ブリザード』!」

 リルとアリサの声が俺がいるところまで響いてきた。

 今、俺めがけてって言わなかったか?

 下を向くと、一瞬で全身にぞわりと鳥肌が立った。

 高さにもそうだが、ものすごい勢いで氷が俺を目指してきている。

「いや、狙い正確すぎだろ」

 どうすればいい。

 いや、なんだ。さっきまでと違う浮遊感。そうか、俺、落ちてるんだ。

 なら。

「使えってことだな」

 俺は二人を信じることにして、アリサの氷を足で受けた。

 冷たさを感じながら膝を曲げ、氷を蹴ってさらに跳び上がった。

 ギガンテスが体勢を崩したこともあり、顔は近くなっている。

 みるみるうちに遠かったギガンテスの頭が近づいてくる。

「うう。苦しい。苦しい」

 スライムやパンサーの言っていることがわかったように、ギガンテスの言葉もわかる。

「お前に恨みはない。だが、今はおとなしくしていてくれ」

 俺は浮き上がる勢いのまま息を思いっきり吸い込んだ。

「『オールブレス』!」



 マイルのオールブーストもあり、俺は難なく着地した。

 まぶたを閉じることも間に合わず、目玉にモロに一撃をくらったギガンテスは、 ダメージのせいか、その場で倒れ込むとモンスター封印のツボへと戻っていった。

「よかった。先輩がみんなに迷惑かける前に無力化された」

 安心した様子のスライムを見て、俺もホッと息を吐き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜

マグローK
青春
 かつて体が溶ける不運に見舞われたぼっち体質の主人公遠谷メイト(とおたにめいと)は、クラスだけでなく学校でも浮いている美少女、成山タレカ(なりやまたれか)と肉体が入れ替わってしまう!  過去の伝手を頼り、今回も本人の願いが歪んだ形で叶ってしまうキセキだと判明。  願いを処理してタレカを元の体に戻るため、メイトはタレカの願いを叶えようと奔走する。  果たして、二人は元の体に戻れるのか!? この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません この小説は他サイトでも投稿しています。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

A hero from the darkness of chaos. Its name is Kirk

黒神譚
BL
異界の神や魔神、人間の英雄が絡み合う壮大なスケールで描かれる本格的ファンタジー。 人間の欲望や狂気を隠すことなく赤裸々(せきらら)に綴(つづ)っているので、一般的に温いストーリー設定が多いWEB小説には似つかわしくない、かなり大人向けの作品です。(「小説家になろう」からの移行作品。) ※本作は本格的なファンタジー作品で単純にBL作品とは言い難いです。ですが主人公は両性愛者で男女にかかわらず恋愛をし、かなり濃厚な関係を持つのでBL、女性向けタグとさせて頂きました。 ●ストーリー 争いの絶えない人類は魔王ドノヴァンの怒りを買い、粛清(しゅくせい)されるが、そこではじめて人類は戦争をやめて協力し合うことができた。それを見届けた魔王ドノヴァンは人類に1000年の不戦を約束させて眠りについた。 だが、人類は1000年間も平和を保てずに、やがて争いを始めるようになってしまった。 時は流れて1000年の契約期間が終わりそうになってから、人類は自分の愚かさを悔やんだ。 世界が魔王に滅ぼされると恐れていたその時、一人の神官が今から30年後に救いの聖者が現れると予言するのだった。

レンタルボディに魅せられて

氷室ゆうり
恋愛
さて、今回は義体、レンタルボディというやつです。体を借りるという意味では憑依に近いですけどちょっと違います。この手のジャンルは何というか、最近あまり見かけませんね。結構好きなのですが…商品として作られた体に魂を入れて異性の体を楽しむジャンルだと思ってもらえればよろしいと思います。結構楽しめますよ? 今回もr18なのでよろしくお願いします。 それでは!

TS陸上防衛隊 〝装脚機〟隊の異世界ストラテジー

EPIC
SF
陸上防衛隊のTS美少女部隊(正体は人相悪い兄ちゃん等)と装脚機(ロボット歩行戦車)、剣と魔法とモンスターの異世界へ―― 本編11話&設定1話で完結。

家族を殺され、毒を盛られたTS幼女は、スキル『デスゲーム』で復讐する

マグローK
ファンタジー
 ダンジョン探索者の荷物持ちをしていたアベ・ジンは、ある日、家族の死体を発見する。 「お前はオレたち組織の汚点だ。だから、綺麗さっぱり消えてもらわないと困るんだよ」 「そうそう。ほんと、残られると目障りだから」 「残念ですが、不要なことに変わりはありませんので」 「力なき者に、居場所は与えられない」  愕然としていたジンへ、パーティメンバー達から、追い打ちをかけるような言葉が飛んでくる。  さらには、信頼していたパーティメンバーに毒を盛られ、ジンは意識を失ってしまう。  目を覚ますと、ジンは、自らの体が少女のものになっていることに気づく。 「私と組んで、人間に復讐しないか?」 「やってやるよ」  怪しげな魔物の神の提案で、ジンは復讐への道を歩み始める……。  これは、元善人の復讐譚。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません この小説は他サイトでも投稿しています。

TS転生したけど、今度こそ女の子にモテたい

マグローK
ファンタジー
秋元楓は努力が報われないタイプの少年だった。 何をやっても中の上程度の実力しかつかず、一番を取ったことは一度もなかった。 ある日、好きになった子に意を決して告白するもフラれてしまう。 傷心の中、傷を癒すため、気づくと川辺でゴミ拾いのボランティアをしていた。 しかし、少しは傷が癒えたものの、川で溺れていた子供を助けた後に、自らが溺れて死んでしまう。 夢のような感覚をさまよった後、目を覚ますと彼は女の子になっていた。 女の子になってしまった楓だが、女の子にモテることはできるのか。 カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

フリーターは少女とともに

マグローK
キャラ文芸
フリーターが少女を自らの祖父のもとまで届ける話 この作品は カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891574028)、 小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4627fu/)、 pixiv(https://www.pixiv.net/novel/series/1194036)にも掲載しています。

処理中です...