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第22話 氷結の洞窟へ

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 アリサ救出のため、氷結の洞窟目指して街を出た俺とマイル。

 注意されておきながら、マイルのいきなりのスタートダッシュに置いていかれそうになり焦った。

 今はなんとか体勢を立て直し、森の中を並走していた。

 手を繋いでくれててよかった。

「氷結の洞窟ってどんな場所なのさ?」

 俺の言葉に、マイルは街を出て初めて表情を曇らせた。

 どうやら、言いにくいことがあるらしい。

 街を出るまでの間も野次馬がはけることはなかった。

 それだけ注目度の高い場所なのだろう

「ゴルドに話を聞くほどだったんだ、何かあるんだろ? 聞かせてほしい。聞いておかないと、対策の考えようもないし」

「そうね。わかったわ」

 それでもマイルは俺の顔を見ないで、真っ直ぐ前だけを見ていた。

 その先に、氷結の洞窟があるのだろうか。

「氷結の洞窟は、昔からある場所なの。ワタシが聞いた理由は、この付近で最も危険な場所だから」

「最も危険?」

「そう。森の主よりも危険よ」

「え」

 森の主よりも危険って、それってどうしようもなくないか?

「どうしてそんな?」

「ドラゴンが住んでいると言われているの」

「待て待て待て。無理じゃん。ドラゴン相手は敵わないよ。やっぱりリルを読んでこよう」

 俺の力を強化するリルがいれば、マイルの力と合わせて、多少勝負にはなるかもしれない。

 しかし、マイルは首を横に振った。

「なら、せめて他の冒険者を」

「忘れたの? ここではワタシたちが一番強いみたいってこと」

「あ」

 そうだった。だからこそ俺の力でも騒ぎになっていたのだ。

「それに、もしアリサさんがドラゴンと遭遇していたら、一刻を争うの。今だって最高スピードで移動してるんだから」

「そう、だよな」

 マイルがこれだけやってくれているのだ。そして何より、無理な相手じゃないからこそ、マイルは俺を信じ、氷結の洞窟まで連れて行こうとしてくれているのだ。

 俺が弱気でどうする。

 強敵なら命が危ないのだ。俺より、アリサの。

「やるしかないな」

「その意気よ」

「でも、氷結って言うからには寒いのか?」

「寒いわ。とても、フクララさん特注の加工で気温差に耐性ができてるから、今の服装で大丈夫だけど、普通の服なら多分身動きが取れないと思う」

「そんなに? この辺はそんなに寒い感じでもないけど」

 植物も生い茂り、鳥の鳴き声も聞こえてくる。

 生き物が生息できないような環境には感じられなかった。

「そもそも、街の人の服装もそんなに厚着じゃなかったし」

「それはそうよ。だって、寒いのは洞窟の中だけだからね。とりあえず、ついたわよ」

「え、ここが?」

 マイルはついたと言ったが、見た目はただの穴だ。

 入り口一帯に氷が張っていると言うこともない。

 ただ暗がりが続いているだけの穴。

「本当にここが氷結の洞窟?」

「そうよ。まだ、アリサさんと会えるまで時間もかかりそうだから、話しながら探索しましょ」

「え、あんまり喋らない方がいいんじゃないの?」

「そうね。他のモンスターが住んでるような洞窟ならそうだったかもね」

 軽い笑みを浮かべながら、マイルは中に入っていった。

 わざわざ関係ないところに寄り道する雰囲気ではないし、本当にここが氷結の洞窟なのだろう。



 中に入ると、確かに氷結の洞窟という名にふさわしい雰囲気だった。

 入り口はなんともなかったのに、中には一面に氷が張っていた。

「どうなってるんだ」

「ワタシも実物は見たことなかった。でも、まだ誰もアリサさんが戻ったのを見ていないなら、噂は本当だったんだと思う」

「噂?」

 俺は周りに氷漬けにされた鳥やゴブリン、果ては森の主の一部だったと思われるツタを見ながら、マイルに聞き返した。

「そう。この氷結の洞窟には昔から語り継がれてきた話があるの」

「話って?」

 思わず聞き返すと、マイルは頷いて語り出した。

「それは、この洞窟に住む生き物の話。悠久の時をこの洞窟で過ごしてきた存在の話」

「ドラゴンが住んでるだけじゃないのか?」

「そのドラゴンの話よ。でも、それだけじゃない」

 マイルは壁に手を触れると、一つ咳払いした。

「見てて」

 そのままマイルは壁を這うように手を動かすと、キンキンと冷えるような音が近づいてくる音がした。

 どんどんとスピードは早まり、やがて目の前まで。

「なっ」

 最後は見えなかった。

 どういうわけか、マイルの手があった場所から反対の壁まで一本の氷がいつの間にか伸びていた。

 その氷は、スルスルとやってきたように壁へと戻っていった。

 そして、氷の中には一枚の硬貨が入っていた。

「こんな風に、この洞窟にはトラップが仕掛けられてるらしいの。ドラゴンにたどり着く前にも色々と試されているのよ」

「でもなんでそんなことを?」

「噂だと、ドラゴンは罠を乗り越え自分倒せるような者を探しているんじゃないかって。でも、誰も倒したことはないからわからないんだけどね」

「なるほど。その謎も解こうってことか。サーカス冒険団として」

「後は、ドラゴンスレイヤーってカッコよくない? そろそろ聞こえてきたんじゃない?」

 確かにと思いながら、耳を澄ませてみると、荒々しい息遣いが響いてくるのを感じる。

 呼吸だけで、今まで遭遇してきたどんなモンスターよりも強いことがわかる。

「これが、ドラゴン?」

「そう」

 緊張しすぎなのか、それともサーカス冒険団なんてやっているからかマイルは至って冷静だ。

 一歩、また一歩をと進むたび空気がピリピリとしてくるのを感じる。

「あれが」

 白いドラゴン。

 城よりも大きそうな体格を持っている。

「アリサ!」

 そして、その近くには氷漬けにされたアリサの姿があった。

 そうだ。俺よりアリサの命の方が危ないじゃないか。

 アリサの氷系魔法の力を持ってしても、氷漬けにされている。

「今回はマイルもいるんだ」

「そうよ。その意気よ。今まではワタシの力に耐えられるかわからなかったから、全力を出せてなかったけど、ドーラになら試せるわ」

「何それ?」

「いいから行くわよ」

「そう、だな。どうせ、アリサから餞別をもらわなければ、リルと会っていなければ、くたばっていてもおかしくなかったんだ。この命、ここで使わないでどうする」

 俺はドラゴンの視線を真正面から受けて立った。

「危ない!」

「え?」
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