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第12話 テントに到着

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 俺は森の主の残骸である焼け焦げたツタを持ちながら、サーカスの団員という二人を担ぐリルと共に、未だ森のなかを歩いていた。

「なんでこんなの持ち帰るのさ?」

 俺がふとした疑問を聞くと、何言ってんだコイツみたいな顔でリルに見られた。

 そんな当たり前のことなの?

 だが、俺が冒険者素人と思い出したのか、リルの顔が優しい顔に変わった。

 なんだか馬鹿にされてる気分なんだけど。

「それがないと倒した証明ができないだろう?」

「確かにそうだけど、モンスターって倒したら何も残らないのかと思ってたよ」

「そんなわけないだろう。だとしたらどうやって素材を得るのだ」

「あ」

 確かにそうだ。

「素材だけ残るのもおかしな話か」

「だろう? 死した体が残るからこそ、私たちは素材を使えるのだ。倒したら消えるなどという、そんなおとぎ話のような話があってたまるか。あったら経験値しかもらえないではないか」

 そういうものじゃないの? という言葉をグッと堪え、他の世界だと経験しか得られないよなと思いながら、俺は意外と思いツタを持ち直し、せっせと森の外に向けて歩き続けた。

 隣では二人の人間を肩に担いでいるリルがいる。案外力があるみたいだし、一人で向かっていくのもこれなら納得かな。

 まあ、ツタとの相性は悪かったみたいだけど。

「よそ見してるとモンスターに襲われるぞ」

「そもそもこんなツタ俺たちが運ばなきゃいけないものなの? なければこれ持ったまま襲われることもないと思うんだけど」

 俺とてサーカスをしていたのだし、力にはある程度自信があったが、それにしても重い。

 このまま不意打ちをくらえば、危険なのはリルの指摘通りだろう。

「ほとんどの冒険者は自分で運んでないだろうな」

「じゃあ、俺たちも人に任せようよ。どうすればいいのさ」

「いいや、私たちは自分で持ち帰ると決めている。当分はな」

「どうしてさ」

「ギルドに頼もうと思えば頼めるが、何せ金がない」

「金」

 金欠じゃねぇか。

 本当に大丈夫なんだろうなこの集団。

 人数は少ないわ。金ないわ。さっきまで全滅しそうになってたわ。で心配要素しかないんだけど。

「いいから運べ。そして、とりあえず私たちのテントで一休みだ。疲れただろう? その後は素材を売って今日はパーっとやるぞ」

「はい」

 なんだかいいように使われている気がしないでもないが、俺はせっせとツタを運んだ。



 なんとかモンスターに襲われることなく、リルたちのテントまで辿り着くことができた。

「ふー」

 重かった。休憩なしでどこにあるのかわからないギルドまで運ぶのは骨が折れる。

 森から遠くない距離にテントがあってよかった。

「ご苦労だった」

「え」

「どうした」

「あ、いや。なんでもない」

 なんだろう。胸が暖かい。

 リルの言葉遣いは特別丁寧な印象を受けないけれど、心が温かくなった。

 ご苦労なんていつぶりに言われただろう。

 思えば、最近は罵倒と言う名の叱咤激励しか受けてこなかった。

「おい、本当にどうした。何を泣いている。あれか、案外怖かったか。まあ、そりゃサーカスしかやってなかったら、いきなりモンスターの相手は怖いよな。すまなかった。そんなことも考えずに」

 やばい。いい人だ。俺がこんなに労られていいのだろうか。

 と言うか俺今泣いてるのか。

 いや、そんな感慨に浸っている場合じゃない。

「大丈夫だよ。ちょっと安心して嬉しくなっただけだから」

「そうか。ならいいが、あんまり無理するなよ?」

「うん。ありがとう」

 涙を拭いながら俺は頷いた。

 サーカスにいた頃、気にかけてくれたのはアリサだけだった。

 みな、団長かリーダーに群がり、俺のところにはアリサしかいなかった。

 いや、アリサがいてくれた。

 それをどうだ。俺はアリサを支えられないからと、自分の責任から逃げてアリサを置いてきてしまった。そのくせ餞別はもらって送り出してもらってしまった。もし、次会えたらこれまでの感謝の分たっぷり甘やかそう。きっといくらチヤホヤされていても疲れていることに変わりはないはずだ。

「どうした?」

「ううん。なんでもない」

「そうか?」

 アリサを甘やかすため、自分を甘やかそうと俺はその場に座り込んだ。

 しかし、こんなリルさんの集めた団員は一体どんな人なのだろうか。

「ふわぁあ。よく寝た。あれ、リルさん。何してんすか? と言うか、そいつ誰すか」

 ツタの中に閉じ込められていた男の方が起き出した。

「よく聞いてくれた。コイツはドーラ・バルバドル。お前をツタから助けてくれた男で、このサーカスの新しい団員だ」

「ど、どうも」

 人助けなんてまともにしたことないため、恥ずかしいが、事実は事実だ。

 しかし、俺のことを疑っているらしく、男は怪しいものを見るように見てきた。

「コイツが? リルさんが自分でやったことを他人の手柄にしてんじゃないんすか?」

「そんなはずないだろう」

「と言いつつリルさんお人好しだからなぁ。おい、新入り、オレはセンパイのヤング・ビローだ。ビローさんと呼べ」

「はい」

「おい。あんまり命の恩人に対して無礼な態度を取るのはどうかと思うぞ」

「いいんすよ。新入りにはセンパイがしっかり喝を入れておかないと。なあ新入り。ドーラとか言ったか」

「はい」

 ここら辺はどこも同じなのか。

 あったなぁ。前いたサーカスに入った時も。

「お前の実力がどんなもんか見せてみろ。手加減は要らない」

「本当ですか?」

「ああ、もちろんだ。オレはセンパイだからな」

「やめておけ。お前の手に負えなかった相手を倒したんだぞ」

「いいんすよ。対人戦ならオレの方が経験してるはずなんで。モンスターに強くても勝てますよ」

「いや、そいつは」

「いいぞ新入りいつでも来い」

 なんだか面白いことになってしまった。

 人に向けて攻撃していいなど言われたことは初めてだ。

 しかし、スキル、ブレスの力を試したいとは思っていた。

 一応、確認のため、俺はリルを見た。

「仕方ない。ドーラ思い切りやってしまえ。そいつは言葉ではわからないやつだからな」

「わかった。いいですか? ビローさん」

「来いよ」

 手でビローさんは俺に攻撃を誘っている。

 どうやら本気らしい。いつの間にか臨戦体勢をとっている。

 やるしかないようだ。

 俺は一呼吸置くと、そのままいつものように息を吐き出した。

「あっ」

 ビローさんの動きが止まった気がした。

 そうだった。スキルがブレスに進化したことで威力も増したのだった。

 いつものようにやったせいで、以前の全力以上の火力が出てしまった。

 ダメージは入っていないだろうが、前いたサーカスでも似たようなことをしてしまっていた。

 慣れない相手に全力の火吹き芸を当てるといつも怯ませてしまっていたのだ。

「あの。大丈夫ですか」

 恐る恐る聞くも返事はない。

 俺が炎を吐き切り、姿が見えてからも、ビローさんは呆然としたままピクリともしないままだ。

 これはあれか、怒られるやつか。

 俺もどうしたらいいかわからずその場に固まっていると、無表情のままビローさんは俺に向かって歩き出した。

 あ、これは怒られるやつだ。

 逃げようかとも思ったが、俺は新入り。甘んじて制裁を受け入れようと思った。
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