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第9話 その後のサーカス4
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「レディースアンドジェントルマン。我がニーゼサーカス団へようこそ!」
ワシはステージへと上がった。
現役を引退したワシにできるのは、全力の挨拶だ。
ゴルドがなんとかすると言っていたのだ。きっとなんとかするだろう。
なんてったってゴルドはワシの息子なのだから。
「本日お客様にお見せするのは夢の時間、始まりは雷から、こんな場所に稲光は起こるのですよ? ではお見せしましょう。サン!」
ワシは素早くステージを去った。
照明係により、サンにスポットライトが当たる。
だが、普段のサンとは様子が違った。
なぜか棒立ちで下を向き、動きが硬い。
「さ、『サンダー』!」
いきなりなんの前触れもなく、弱々しい稲妻が放たれた。
普段の十分の一もない勢いにワシは思わず声を漏らしそうになった。
サンの声が震えていた。あれだけ元気なサンに一体何があったというのか。
そもそも違う。サンの強みは呪文の詠唱じゃないだろう。
サンの強みは武闘家のスキルとして拳から雷を放てることだ。ただの稲妻でなく衝撃波に乗る形がいいのだ。
「あ、あ、えーと」
それが、動きも小さく、普段のカフアのようにおどおどしてしまっている。
一体何があったのだ。アリサがいなくなった動揺のせいか?
いや、それは本番前に気にしている様子はなかった。
「え、えい。やっ!」
動きにキレがない。そして声が張っていない。あれでは観客に届かないではないか。
いつもと違う状況にこんなに弱いのか?
いや、普段はもっと何かあったな。誰かに背中を押されて笑顔で飛び出していた。誰だ? 何やらドーラが吹き込んでいた。ドーラが?
雷も下から突き上げ、まるで燃え上がるような。いやいや、そんなわけあるまい。ドーラはただの火吹き芸をするだけの人間だぞ。
「あ、あの、どうも」
拍手も何も受けず、最後に頭を下げてサンは裏へと逃げるように引っ込んで行った。
こんなことなら何かあっても動じないように、普段からメンタル的に厳しく仕込んでおくべきだったのだ。
元気な姿を見ていて気持ちいいなどと、甘えたことを言っていたのがよくなかったのだ。
全く、あいつもここが潮時か。
観客の間に微妙な空気が流れる中、ワシはサイドステージの真ん中へと向かった。
「おほん。えー、続きまして、炎の使い手」
「おおー!」
「やっぱりここだったんだわ」
「今のは落差をつけるための演出か」
一体何が起きているのか。観客が一気にどよめいた。
ワシはいつも通りの紹介をしているだけだ。カフアはそこまでワシのサーカスでも有名じゃないはず。
ドーラの代わりとして入ったため、まだまだ新入り。知名度もそこまで高くなりようがない。
まあいい。気を取り直して。
「炎の使い手。カフアーズ」
「えっ?」
観客からは口々に疑問の声が漏れ出る。
いや、おかしなことは何もない。
ワシのサーカスの炎の使い手は今ではカフアのはずだ。そして、カフアの出した炎をくぐる者たちが演出を取り囲むのだ。
ワシはあくまで堂々と、端へよけた。
「ああっ」
盛大に地面にぶつかる音がして、ワシは思わず振り返った。
カフアがドジを踏んでその場でこけたらしい。
ライトアップもタイミングが悪く、ステージで倒れ込む姿が照らし出された。
「おい。本当に大丈夫か?」
「ねえ、私たち間違えたんじゃない?」
どこかで何かを勘違いしてしまった、そんな観客たちの囁きが聞こえてくる。
それでもワシはまだ巻き返せると、カフアが立ち上がるのを見守った。
立ち上がるのと同時に、口元を隠し、詠唱を気づかせないという得意技を披露する。火吹き芸を再現するための工夫だった。
サンと違い、普段から常におどおどしているが、うちに秘めるものは強いカフアだ。
「……『ファイアサークル』、火吹き芸!」
ぼそっと詠唱を終え、口から火を吹いているように見せ、炎の円を空中に作り出す。
「おお!」
「これだよ。これ。やっぱり間違いじゃなかったんだ」
「よかったー。これでもう安心だわ」
珍しく、火吹き芸を見にきた観客が大半を占めていたらしい。
再び、興奮の色合いが戻ってきたことが感じ取れた。
ステージ上では観客に応えるように、火の輪へとサポート役が次々に火へと身を投じ。
「……あっつ」
「……いたー」
「……う、う」
身を投じるはずが、一人二人と突っ込んだものの、ジタバタしたことで、三人目が気が引けているようだった。
「おかしい。味方には効かないはずじゃ」
「そうね。もしかして勘違い?」
「火吹き芸には代わりなかったし、でも、他のもあるはず」
「……『クリムゾンフレア』、火吹き芸!!!」
そして、一際大きな炎を作り出し、カフアたちはその場を後にした。
「あれ?」
いや、ワシがあれ? なのだが。
今のフィニッシュで満足しないというのか。並のモンスターなら驚いて逃げるものだぞ。
それに、他のとはなんだ。観客は一体カフアに何を求めていたのだ。
「そもそも火吹き芸の使いって女の子だったっけ?」
「もっと詳しく聞いておけばよかった」
「噂で来たのは間違いだったか」
何やら気になることを話しているが、まだまだここからだ。ワシたちのサーカスは何もワシが最近目をかけている者たちだけではないのだ。
ゴルドが引き抜いてきた者たちはみな美しい見た目をしており、技も一級品。
今までにいたワシのスカウトや、ベテランよりも技術力のある優秀な精鋭たち。
サンやカフアのような新入りは急な状況変化に対応できなかったかもしれないが、ユラーを始めとした長くやってきた者たちなら全く問題はないはずだ。
「さあ、炎の使い手はどこへ消えたのでしょうか。続きましては土使い。土が熱を吸収するかと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。地面は我々にエネルギーを与えるホットな存在です。ではお呼びしましょう」
ワシはステージへと上がった。
現役を引退したワシにできるのは、全力の挨拶だ。
ゴルドがなんとかすると言っていたのだ。きっとなんとかするだろう。
なんてったってゴルドはワシの息子なのだから。
「本日お客様にお見せするのは夢の時間、始まりは雷から、こんな場所に稲光は起こるのですよ? ではお見せしましょう。サン!」
ワシは素早くステージを去った。
照明係により、サンにスポットライトが当たる。
だが、普段のサンとは様子が違った。
なぜか棒立ちで下を向き、動きが硬い。
「さ、『サンダー』!」
いきなりなんの前触れもなく、弱々しい稲妻が放たれた。
普段の十分の一もない勢いにワシは思わず声を漏らしそうになった。
サンの声が震えていた。あれだけ元気なサンに一体何があったというのか。
そもそも違う。サンの強みは呪文の詠唱じゃないだろう。
サンの強みは武闘家のスキルとして拳から雷を放てることだ。ただの稲妻でなく衝撃波に乗る形がいいのだ。
「あ、あ、えーと」
それが、動きも小さく、普段のカフアのようにおどおどしてしまっている。
一体何があったのだ。アリサがいなくなった動揺のせいか?
いや、それは本番前に気にしている様子はなかった。
「え、えい。やっ!」
動きにキレがない。そして声が張っていない。あれでは観客に届かないではないか。
いつもと違う状況にこんなに弱いのか?
いや、普段はもっと何かあったな。誰かに背中を押されて笑顔で飛び出していた。誰だ? 何やらドーラが吹き込んでいた。ドーラが?
雷も下から突き上げ、まるで燃え上がるような。いやいや、そんなわけあるまい。ドーラはただの火吹き芸をするだけの人間だぞ。
「あ、あの、どうも」
拍手も何も受けず、最後に頭を下げてサンは裏へと逃げるように引っ込んで行った。
こんなことなら何かあっても動じないように、普段からメンタル的に厳しく仕込んでおくべきだったのだ。
元気な姿を見ていて気持ちいいなどと、甘えたことを言っていたのがよくなかったのだ。
全く、あいつもここが潮時か。
観客の間に微妙な空気が流れる中、ワシはサイドステージの真ん中へと向かった。
「おほん。えー、続きまして、炎の使い手」
「おおー!」
「やっぱりここだったんだわ」
「今のは落差をつけるための演出か」
一体何が起きているのか。観客が一気にどよめいた。
ワシはいつも通りの紹介をしているだけだ。カフアはそこまでワシのサーカスでも有名じゃないはず。
ドーラの代わりとして入ったため、まだまだ新入り。知名度もそこまで高くなりようがない。
まあいい。気を取り直して。
「炎の使い手。カフアーズ」
「えっ?」
観客からは口々に疑問の声が漏れ出る。
いや、おかしなことは何もない。
ワシのサーカスの炎の使い手は今ではカフアのはずだ。そして、カフアの出した炎をくぐる者たちが演出を取り囲むのだ。
ワシはあくまで堂々と、端へよけた。
「ああっ」
盛大に地面にぶつかる音がして、ワシは思わず振り返った。
カフアがドジを踏んでその場でこけたらしい。
ライトアップもタイミングが悪く、ステージで倒れ込む姿が照らし出された。
「おい。本当に大丈夫か?」
「ねえ、私たち間違えたんじゃない?」
どこかで何かを勘違いしてしまった、そんな観客たちの囁きが聞こえてくる。
それでもワシはまだ巻き返せると、カフアが立ち上がるのを見守った。
立ち上がるのと同時に、口元を隠し、詠唱を気づかせないという得意技を披露する。火吹き芸を再現するための工夫だった。
サンと違い、普段から常におどおどしているが、うちに秘めるものは強いカフアだ。
「……『ファイアサークル』、火吹き芸!」
ぼそっと詠唱を終え、口から火を吹いているように見せ、炎の円を空中に作り出す。
「おお!」
「これだよ。これ。やっぱり間違いじゃなかったんだ」
「よかったー。これでもう安心だわ」
珍しく、火吹き芸を見にきた観客が大半を占めていたらしい。
再び、興奮の色合いが戻ってきたことが感じ取れた。
ステージ上では観客に応えるように、火の輪へとサポート役が次々に火へと身を投じ。
「……あっつ」
「……いたー」
「……う、う」
身を投じるはずが、一人二人と突っ込んだものの、ジタバタしたことで、三人目が気が引けているようだった。
「おかしい。味方には効かないはずじゃ」
「そうね。もしかして勘違い?」
「火吹き芸には代わりなかったし、でも、他のもあるはず」
「……『クリムゾンフレア』、火吹き芸!!!」
そして、一際大きな炎を作り出し、カフアたちはその場を後にした。
「あれ?」
いや、ワシがあれ? なのだが。
今のフィニッシュで満足しないというのか。並のモンスターなら驚いて逃げるものだぞ。
それに、他のとはなんだ。観客は一体カフアに何を求めていたのだ。
「そもそも火吹き芸の使いって女の子だったっけ?」
「もっと詳しく聞いておけばよかった」
「噂で来たのは間違いだったか」
何やら気になることを話しているが、まだまだここからだ。ワシたちのサーカスは何もワシが最近目をかけている者たちだけではないのだ。
ゴルドが引き抜いてきた者たちはみな美しい見た目をしており、技も一級品。
今までにいたワシのスカウトや、ベテランよりも技術力のある優秀な精鋭たち。
サンやカフアのような新入りは急な状況変化に対応できなかったかもしれないが、ユラーを始めとした長くやってきた者たちなら全く問題はないはずだ。
「さあ、炎の使い手はどこへ消えたのでしょうか。続きましては土使い。土が熱を吸収するかと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。地面は我々にエネルギーを与えるホットな存在です。ではお呼びしましょう」
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