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第35話 着せ替え人形かよ
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「タレカ、これで満足かい?」
「おおっ。いいじゃない」
「そ、そうかな……」
不器用ながら着てみて、茶化すように言ってみたが、案外タレカの反応がよく僕の方が困ってしまった。
やはりタレカはここに来たことがあるのか、慣れたように試着室に案内されて、あれやこれやを着るように指示された。
「いい感じよ。やっぱり私ね。バッチリだわ」
「そういう意味だよね。うん、わかってた」
そんなわけで抵抗感は強いのだが、今は美少女タレカの見た目。あまり意識をしなくとも、それなりにはなるようで、チラチラと周囲の視線を感じる。のぞかれてるわけじゃないからいいんだけどさ……。
「じゃあこれで終わり?」
「待って、これも」
話も聞かずに終わらせようとする僕にタレカはさらに服を持ってくる。
「多くないか? もうすでに結構着た気がするんだけど」
「まだまだ全然よ。最近ほんとに来れてなかったんだから、付き合いなさいよ」
「ここ数日は僕にも責任があるけど、それ以前は知らないぞ」
「そう言わず、ほらほら」
口を動かして時間を稼ぐ作戦はうまくいかず、カーテンがシャカシャカと閉められる。
あまりにもだらだら着替えるものだから、タレカまで個室に乗り込んできて僕の背後に回った。
「……待ってくれ。自分でできる。子どもじゃないんだから」
「まあ最近は多少私の服にも慣れてきたみたいだけど、これは売り物なんだから丁寧に扱わないと」
「……わかってるって。そうじゃなくて、こんな密室で二人きりなんて」
「お風呂だって入ってるじゃない」
「……それとこれとは別だろ。なんかこう、プライベートとそうでないと、って。外でそんな話するなよ」
狭いながらに右往左往するが、まだ買ってもいないものは雑に扱えずタレカにいいようにされてしまう。
くそう。なんだってまたタレカに着せ替えられなきゃいけないんだ。
「何よ。顔真っ赤にして、私じゃないんだから」
「……エロ方面が苦手な自覚はあるのな」
「え、エロとか言わない。別に、そういうことしてるわけじゃないでしょ。そもそも、どうしてひそひそ声なのよ」
「……なんか周りに聞かれたくなくて」
僕の言葉に小首をかしげるタレカ。
堂々としているところは羨ましい。
ただ実際、試着室というのは二人で入るには狭すぎる。更衣室はもう少し広いし、タレカの家はゆったりしている。そんな中、外なのに狭められた場所にいるというのは、どうにも心臓がバクバクする。
「姉妹なのに意識してるって、またそんな話をぶり返すの?」
「ごっこだから。それに、ここまでのことはしないだろ」
「そういうもの?」
少し寂しそうな声を出すタレカだが、僕は断じて首肯した。
「そういうもの」
だが、言葉とは裏腹に服の方は着せられ脱がされ、一人ファッションショーというよりも一人早着替え練習でもさせられているようだった。
その度にタレカは、似合ってるけど少し違う、とか、ちょっと可愛すぎる、とか、色々小声でぶつぶつ呟きながら何かを思案しているようだった。
「あんまり時間がかかると店員さんから声がかけられるんじゃないか? そもそも持って来すぎだろうし、ブラックリスト入りだろ」
「大丈夫よ。多少なら融通が効くわ」
「そんなに通い詰めてるの?」
「あそこに立ってる子は知り合いだもの。他の客ならまだしも、私なら多少見逃してくれるわよ」
本当なのか嘘なのか分かりづらいことを言って、タレカは僕の意見を逃れた。
おのれ……。
「ねえメイト。試しにこの中から一着選んでみてよ」
「僕が?」
「そう。メイトの好みも参考になるかもしれないでしょ?」
「好みねぇ……」
本当に、可愛いとか、綺麗とか、ありがちな感想を抱いてすぐに忘れる僕では、どれがオシャレかわからない。
いくつか並べられた上下の服から、ぱっと見でピックアップしてタレカに見せる。
「これかな」
「やっぱり露出なの? 却下」
「違うって。どこまで行ってもフォローする気ないだろ。もうちょっと僕の意向を汲んでくれよ」
「じゃあ発言を許可します」
「ここは裁判所か」
と言っても、露出が多いことは否定しない。下はミニスカートだし、上は肩が少し出た感じの服だ。ただ、選んだ理由はそこじゃない。
「タレカって足長いから、ミニスカートの方がいいのかなと思ってこれにしたんだよ。足が長く見えそうじゃないか?」
「何? メイトって女子の足をそうやって観察してるの?」
「これ、どれ選んでも僕が罵倒されるやつか。乗ったら最後の罠だったのか」
やられた、と頭を押さえる。すると、クスクスとタレカが笑い出した。
「冗談よ。メイトなりに考えてくれたんだもの。ちょっと恥ずかしくて素直に喜べなかったの。ツンデレってやつよ」
「自分で言うな」
本当、面白いやつだよな。
「しっかし、どうしてこんなに服を見るのさ。ぱっぱと決めてもよかったろうに。それこそ、僕に聞いたりしなくてさ」
「嫌なことが立て続けにあったんだもの。気分転換が大事でしょ」
「なるほど」
タレカの言葉にも一理ある。タレカなりの処世術ってところなのだろう。
そうしてどうやら、ようやく満足のいくものが見つかったらしく、タレカは二セットほど選び取ると、うんうんうなずき出した。
「これ、お願いね」
「おう。あれ、ウィンドウショッピングだったのでは?」
「あ、明日も出かけましょ。それ用よ、それ用」
なんだかもうすでに決まっていたみたいな感じで言うタレカ。計画的な印象だったが、気分転換で思いついたのか?
「いいけど、そんないきなりどこ行くんだ?」
「ちょっと遊園地まで、ね?」
「遊園地……」
遊園地ってちょっとそこまでって感じて行くところだったか?
「おおっ。いいじゃない」
「そ、そうかな……」
不器用ながら着てみて、茶化すように言ってみたが、案外タレカの反応がよく僕の方が困ってしまった。
やはりタレカはここに来たことがあるのか、慣れたように試着室に案内されて、あれやこれやを着るように指示された。
「いい感じよ。やっぱり私ね。バッチリだわ」
「そういう意味だよね。うん、わかってた」
そんなわけで抵抗感は強いのだが、今は美少女タレカの見た目。あまり意識をしなくとも、それなりにはなるようで、チラチラと周囲の視線を感じる。のぞかれてるわけじゃないからいいんだけどさ……。
「じゃあこれで終わり?」
「待って、これも」
話も聞かずに終わらせようとする僕にタレカはさらに服を持ってくる。
「多くないか? もうすでに結構着た気がするんだけど」
「まだまだ全然よ。最近ほんとに来れてなかったんだから、付き合いなさいよ」
「ここ数日は僕にも責任があるけど、それ以前は知らないぞ」
「そう言わず、ほらほら」
口を動かして時間を稼ぐ作戦はうまくいかず、カーテンがシャカシャカと閉められる。
あまりにもだらだら着替えるものだから、タレカまで個室に乗り込んできて僕の背後に回った。
「……待ってくれ。自分でできる。子どもじゃないんだから」
「まあ最近は多少私の服にも慣れてきたみたいだけど、これは売り物なんだから丁寧に扱わないと」
「……わかってるって。そうじゃなくて、こんな密室で二人きりなんて」
「お風呂だって入ってるじゃない」
「……それとこれとは別だろ。なんかこう、プライベートとそうでないと、って。外でそんな話するなよ」
狭いながらに右往左往するが、まだ買ってもいないものは雑に扱えずタレカにいいようにされてしまう。
くそう。なんだってまたタレカに着せ替えられなきゃいけないんだ。
「何よ。顔真っ赤にして、私じゃないんだから」
「……エロ方面が苦手な自覚はあるのな」
「え、エロとか言わない。別に、そういうことしてるわけじゃないでしょ。そもそも、どうしてひそひそ声なのよ」
「……なんか周りに聞かれたくなくて」
僕の言葉に小首をかしげるタレカ。
堂々としているところは羨ましい。
ただ実際、試着室というのは二人で入るには狭すぎる。更衣室はもう少し広いし、タレカの家はゆったりしている。そんな中、外なのに狭められた場所にいるというのは、どうにも心臓がバクバクする。
「姉妹なのに意識してるって、またそんな話をぶり返すの?」
「ごっこだから。それに、ここまでのことはしないだろ」
「そういうもの?」
少し寂しそうな声を出すタレカだが、僕は断じて首肯した。
「そういうもの」
だが、言葉とは裏腹に服の方は着せられ脱がされ、一人ファッションショーというよりも一人早着替え練習でもさせられているようだった。
その度にタレカは、似合ってるけど少し違う、とか、ちょっと可愛すぎる、とか、色々小声でぶつぶつ呟きながら何かを思案しているようだった。
「あんまり時間がかかると店員さんから声がかけられるんじゃないか? そもそも持って来すぎだろうし、ブラックリスト入りだろ」
「大丈夫よ。多少なら融通が効くわ」
「そんなに通い詰めてるの?」
「あそこに立ってる子は知り合いだもの。他の客ならまだしも、私なら多少見逃してくれるわよ」
本当なのか嘘なのか分かりづらいことを言って、タレカは僕の意見を逃れた。
おのれ……。
「ねえメイト。試しにこの中から一着選んでみてよ」
「僕が?」
「そう。メイトの好みも参考になるかもしれないでしょ?」
「好みねぇ……」
本当に、可愛いとか、綺麗とか、ありがちな感想を抱いてすぐに忘れる僕では、どれがオシャレかわからない。
いくつか並べられた上下の服から、ぱっと見でピックアップしてタレカに見せる。
「これかな」
「やっぱり露出なの? 却下」
「違うって。どこまで行ってもフォローする気ないだろ。もうちょっと僕の意向を汲んでくれよ」
「じゃあ発言を許可します」
「ここは裁判所か」
と言っても、露出が多いことは否定しない。下はミニスカートだし、上は肩が少し出た感じの服だ。ただ、選んだ理由はそこじゃない。
「タレカって足長いから、ミニスカートの方がいいのかなと思ってこれにしたんだよ。足が長く見えそうじゃないか?」
「何? メイトって女子の足をそうやって観察してるの?」
「これ、どれ選んでも僕が罵倒されるやつか。乗ったら最後の罠だったのか」
やられた、と頭を押さえる。すると、クスクスとタレカが笑い出した。
「冗談よ。メイトなりに考えてくれたんだもの。ちょっと恥ずかしくて素直に喜べなかったの。ツンデレってやつよ」
「自分で言うな」
本当、面白いやつだよな。
「しっかし、どうしてこんなに服を見るのさ。ぱっぱと決めてもよかったろうに。それこそ、僕に聞いたりしなくてさ」
「嫌なことが立て続けにあったんだもの。気分転換が大事でしょ」
「なるほど」
タレカの言葉にも一理ある。タレカなりの処世術ってところなのだろう。
そうしてどうやら、ようやく満足のいくものが見つかったらしく、タレカは二セットほど選び取ると、うんうんうなずき出した。
「これ、お願いね」
「おう。あれ、ウィンドウショッピングだったのでは?」
「あ、明日も出かけましょ。それ用よ、それ用」
なんだかもうすでに決まっていたみたいな感じで言うタレカ。計画的な印象だったが、気分転換で思いついたのか?
「いいけど、そんないきなりどこ行くんだ?」
「ちょっと遊園地まで、ね?」
「遊園地……」
遊園地ってちょっとそこまでって感じて行くところだったか?
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