上 下
22 / 51

第22話 手料理力ですか……

しおりを挟む
 はじめてのお手伝いの結果は散々だった。

「ちょっとゲームでもしてて!」

「あうっ!」

 僕の背中がタレカに蹴られるようにしてキッチンから追い出されたのは、一品目を作る手伝いをしようとした時だった。

 普通に、人参の皮むきとか、そのレベルのことからやっていたはずなのだが、完成を待つまでもなく僕の居場所は奪われてしまった。

 しょんぼり一人ゲームをしていると、次第に料理が並べられてきた。

 全ての料理が完成し、テーブルが埋め尽くされたところで、普段の料理であっても格の違いを見せつけられてしまった気がする。

「昨日今日見てて思ったことだけど、タレカって料理上手だよな」

「褒め言葉は嬉しいけど、これくらい一人暮らししてたら誰だってできるようになるわよ。それより、メイトがひどいだけだから」

「ぐはっ」

 料理に手をつける前に、僕は心の臓へと大ダメージを受けた。

「ひ、ひどいって、まだ何も作ったところ見ていないのに」

「危ないのよ手つきが。見ててハラハラするというか、そういうレベルなの」

「キッチンに立たせられないほどか?」

「キッチンに立たせられないほどよ」

 ガックリうなだれるとタレカは優しく背中を撫でてくれた。

「ほら、冷める前に食べましょ」

「そんなにひどいかなぁ?」

 僕は料理時の包丁の持ち方を思い出しつつ箸を進める。

 今日の料理は和風。

 味噌汁と焼き魚にご飯。あと、おひたしみたいなのが添えられていた。つつましやかな内容だが、薄味ながら出汁が効いていてどれもおいしかった。

 この中で関わった問題の品はおひたしだったと思う。作ってないからわからないけど!

「普通に持って切ってただけなんだけどなぁ」

 不思議に思いながらパクパク食べ進めるが、納得がいかずに首は自然とかしげてしまっていた。

 そんな僕に対し、タレカがあからさまなため息をついた。

「何さ」

「いや、家庭科とかで経験するようなことだと思っていたけど、別に包丁で皮むきができないなら、ピーラーとか使ってもいいのよ?」

「あるの?」

「聞いてくれれば出したわよ」

「いやでも、包丁でも切れてたろ?」

「あのペースじゃ明日になるし、それに、ざっくりいくから指切りそうだったわよ」

 ふむ。料理の達人からすると、一挙手一投足がどうも不安定なものとなっていたようだ。

「私の目線から見たらみたいなことを思ってそうだけど、あれは誰が見ても危ないと思うからね?」

「なっ。タレカは心が読めるのか?」

「その不満たらたらな表情を見てたら誰だってわかるわよ」

 またしてもタレカは僕にわかるようにため息をつくと、やれやれと首を振った。

「これは、料理を教えないとダメそうね」

 不満を漏らしているはずなのに、タレカはなぜだか嬉しそうに笑いつつそんな独り言をこぼすのだった。

 これもまた、家族とはできなかったことなのだろうか。

「料理かぁ。苦手なんだよなぁ」

「できるか聞いたときに多分って言ってたしね。できない自覚はあるんだ」

「自信はなかったけど、今日のまさに今、できないという気にさせられたばかりだからさ」

「そう。心を折ることができたのなら本望だわ」

「そんなところに満足してもらいたくないけどね」

 自信満々に胸を張るタレカに僕は頭を抱えるのだった。

 本当、実力差はわかっていたけれど、わざわざ教えてもらわないと手伝いすらさせてもらえないとは。

「メイト、カレーって作ったことある?」

「バカにするなよ! カレーくらい作れるさ」

「その時はピーラーを使ったんでしょうね。最悪、切って煮るだけでもできるんだものね」

「おう。そうだとも。飯盒炊爨でやったわ」

 一瞬なんのことだかわからないように眉をひそめてから、タレカは手を打った。

 そして、恐る恐ると言う感じで僕の顔をのぞき込んできた。

「ちなみにそれは現実の話よね」

「誰が別次元の飯盒炊爨でカレーを作るんだよ」

「そう。なるほど。一応最低限の教養はあってあの状態ということなのね」

 信じられないとでも言いたげに、タレカはアゴに手を挙げ机を見ていた。

 気づくとご飯は食べ終わっていて、料理力トークに熱が入っていたことがわかる。

 くそう。こんなにバカにされているというのに、何一つ反論できないくらい自炊能力が足りない。

「まあいいわ。このことは明日にでも考えるとしましょうか。食材の減りも早いし、色々と考えることは山積みね」

「なんかすまん」

「いいのよ別に。私だって助けてもらってる立場なんだし。片付けたらゲームしましょ」

「ん」

 そそくさと洗い場へ向かうタレカ。

 洗い場にすら入れてもらえないところを見ると、僕は洗い物すらできないと思われているのか?

 なんて考えつつタレカのことを見ていると、その様子がいつもと違うように見えた。泣いて腫れていた目元がまだ赤いからかもしれないが、それとはまた違うような気がした。

「何を見てるのよ。何か言いたいことがあるなら言ったら?」

「いや、別にそういうのじゃなくて、タレカ疲れてない?」

「何それ。体力マウントってこと?」

「じゃなくて、そんなように見えたってこと。色々変わってるだろうし、無理してないかと思ってさ」

「そう。人がいいわよね」

「なに?」

「いいえ。なんでもないわ。大丈夫よ」

「ならいいんだけど」

 ただ、タレカは否定したが僕にはどうしてもタレカの様子が違うように見えるのだ。

 本人は自覚していないのか、なんだか表情は眠そうで、目がとろんとしているように見えた。

 とはいえ、ゲームくらい止めることでもないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

美咲の初体験

廣瀬純一
ファンタジー
男女の体が入れ替わってしまった美咲と拓也のお話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】

S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。 物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

処理中です...