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第22話 手料理力ですか……
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はじめてのお手伝いの結果は散々だった。
「ちょっとゲームでもしてて!」
「あうっ!」
僕の背中がタレカに蹴られるようにしてキッチンから追い出されたのは、一品目を作る手伝いをしようとした時だった。
普通に、人参の皮むきとか、そのレベルのことからやっていたはずなのだが、完成を待つまでもなく僕の居場所は奪われてしまった。
しょんぼり一人ゲームをしていると、次第に料理が並べられてきた。
全ての料理が完成し、テーブルが埋め尽くされたところで、普段の料理であっても格の違いを見せつけられてしまった気がする。
「昨日今日見てて思ったことだけど、タレカって料理上手だよな」
「褒め言葉は嬉しいけど、これくらい一人暮らししてたら誰だってできるようになるわよ。それより、メイトがひどいだけだから」
「ぐはっ」
料理に手をつける前に、僕は心の臓へと大ダメージを受けた。
「ひ、ひどいって、まだ何も作ったところ見ていないのに」
「危ないのよ手つきが。見ててハラハラするというか、そういうレベルなの」
「キッチンに立たせられないほどか?」
「キッチンに立たせられないほどよ」
ガックリうなだれるとタレカは優しく背中を撫でてくれた。
「ほら、冷める前に食べましょ」
「そんなにひどいかなぁ?」
僕は料理時の包丁の持ち方を思い出しつつ箸を進める。
今日の料理は和風。
味噌汁と焼き魚にご飯。あと、おひたしみたいなのが添えられていた。つつましやかな内容だが、薄味ながら出汁が効いていてどれもおいしかった。
この中で関わった問題の品はおひたしだったと思う。作ってないからわからないけど!
「普通に持って切ってただけなんだけどなぁ」
不思議に思いながらパクパク食べ進めるが、納得がいかずに首は自然とかしげてしまっていた。
そんな僕に対し、タレカがあからさまなため息をついた。
「何さ」
「いや、家庭科とかで経験するようなことだと思っていたけど、別に包丁で皮むきができないなら、ピーラーとか使ってもいいのよ?」
「あるの?」
「聞いてくれれば出したわよ」
「いやでも、包丁でも切れてたろ?」
「あのペースじゃ明日になるし、それに、ざっくりいくから指切りそうだったわよ」
ふむ。料理の達人からすると、一挙手一投足がどうも不安定なものとなっていたようだ。
「私の目線から見たらみたいなことを思ってそうだけど、あれは誰が見ても危ないと思うからね?」
「なっ。タレカは心が読めるのか?」
「その不満たらたらな表情を見てたら誰だってわかるわよ」
またしてもタレカは僕にわかるようにため息をつくと、やれやれと首を振った。
「これは、料理を教えないとダメそうね」
不満を漏らしているはずなのに、タレカはなぜだか嬉しそうに笑いつつそんな独り言をこぼすのだった。
これもまた、家族とはできなかったことなのだろうか。
「料理かぁ。苦手なんだよなぁ」
「できるか聞いたときに多分って言ってたしね。できない自覚はあるんだ」
「自信はなかったけど、今日のまさに今、できないという気にさせられたばかりだからさ」
「そう。心を折ることができたのなら本望だわ」
「そんなところに満足してもらいたくないけどね」
自信満々に胸を張るタレカに僕は頭を抱えるのだった。
本当、実力差はわかっていたけれど、わざわざ教えてもらわないと手伝いすらさせてもらえないとは。
「メイト、カレーって作ったことある?」
「バカにするなよ! カレーくらい作れるさ」
「その時はピーラーを使ったんでしょうね。最悪、切って煮るだけでもできるんだものね」
「おう。そうだとも。飯盒炊爨でやったわ」
一瞬なんのことだかわからないように眉をひそめてから、タレカは手を打った。
そして、恐る恐ると言う感じで僕の顔をのぞき込んできた。
「ちなみにそれは現実の話よね」
「誰が別次元の飯盒炊爨でカレーを作るんだよ」
「そう。なるほど。一応最低限の教養はあってあの状態ということなのね」
信じられないとでも言いたげに、タレカはアゴに手を挙げ机を見ていた。
気づくとご飯は食べ終わっていて、料理力トークに熱が入っていたことがわかる。
くそう。こんなにバカにされているというのに、何一つ反論できないくらい自炊能力が足りない。
「まあいいわ。このことは明日にでも考えるとしましょうか。食材の減りも早いし、色々と考えることは山積みね」
「なんかすまん」
「いいのよ別に。私だって助けてもらってる立場なんだし。片付けたらゲームしましょ」
「ん」
そそくさと洗い場へ向かうタレカ。
洗い場にすら入れてもらえないところを見ると、僕は洗い物すらできないと思われているのか?
なんて考えつつタレカのことを見ていると、その様子がいつもと違うように見えた。泣いて腫れていた目元がまだ赤いからかもしれないが、それとはまた違うような気がした。
「何を見てるのよ。何か言いたいことがあるなら言ったら?」
「いや、別にそういうのじゃなくて、タレカ疲れてない?」
「何それ。体力マウントってこと?」
「じゃなくて、そんなように見えたってこと。色々変わってるだろうし、無理してないかと思ってさ」
「そう。人がいいわよね」
「なに?」
「いいえ。なんでもないわ。大丈夫よ」
「ならいいんだけど」
ただ、タレカは否定したが僕にはどうしてもタレカの様子が違うように見えるのだ。
本人は自覚していないのか、なんだか表情は眠そうで、目がとろんとしているように見えた。
とはいえ、ゲームくらい止めることでもないだろう。
「ちょっとゲームでもしてて!」
「あうっ!」
僕の背中がタレカに蹴られるようにしてキッチンから追い出されたのは、一品目を作る手伝いをしようとした時だった。
普通に、人参の皮むきとか、そのレベルのことからやっていたはずなのだが、完成を待つまでもなく僕の居場所は奪われてしまった。
しょんぼり一人ゲームをしていると、次第に料理が並べられてきた。
全ての料理が完成し、テーブルが埋め尽くされたところで、普段の料理であっても格の違いを見せつけられてしまった気がする。
「昨日今日見てて思ったことだけど、タレカって料理上手だよな」
「褒め言葉は嬉しいけど、これくらい一人暮らししてたら誰だってできるようになるわよ。それより、メイトがひどいだけだから」
「ぐはっ」
料理に手をつける前に、僕は心の臓へと大ダメージを受けた。
「ひ、ひどいって、まだ何も作ったところ見ていないのに」
「危ないのよ手つきが。見ててハラハラするというか、そういうレベルなの」
「キッチンに立たせられないほどか?」
「キッチンに立たせられないほどよ」
ガックリうなだれるとタレカは優しく背中を撫でてくれた。
「ほら、冷める前に食べましょ」
「そんなにひどいかなぁ?」
僕は料理時の包丁の持ち方を思い出しつつ箸を進める。
今日の料理は和風。
味噌汁と焼き魚にご飯。あと、おひたしみたいなのが添えられていた。つつましやかな内容だが、薄味ながら出汁が効いていてどれもおいしかった。
この中で関わった問題の品はおひたしだったと思う。作ってないからわからないけど!
「普通に持って切ってただけなんだけどなぁ」
不思議に思いながらパクパク食べ進めるが、納得がいかずに首は自然とかしげてしまっていた。
そんな僕に対し、タレカがあからさまなため息をついた。
「何さ」
「いや、家庭科とかで経験するようなことだと思っていたけど、別に包丁で皮むきができないなら、ピーラーとか使ってもいいのよ?」
「あるの?」
「聞いてくれれば出したわよ」
「いやでも、包丁でも切れてたろ?」
「あのペースじゃ明日になるし、それに、ざっくりいくから指切りそうだったわよ」
ふむ。料理の達人からすると、一挙手一投足がどうも不安定なものとなっていたようだ。
「私の目線から見たらみたいなことを思ってそうだけど、あれは誰が見ても危ないと思うからね?」
「なっ。タレカは心が読めるのか?」
「その不満たらたらな表情を見てたら誰だってわかるわよ」
またしてもタレカは僕にわかるようにため息をつくと、やれやれと首を振った。
「これは、料理を教えないとダメそうね」
不満を漏らしているはずなのに、タレカはなぜだか嬉しそうに笑いつつそんな独り言をこぼすのだった。
これもまた、家族とはできなかったことなのだろうか。
「料理かぁ。苦手なんだよなぁ」
「できるか聞いたときに多分って言ってたしね。できない自覚はあるんだ」
「自信はなかったけど、今日のまさに今、できないという気にさせられたばかりだからさ」
「そう。心を折ることができたのなら本望だわ」
「そんなところに満足してもらいたくないけどね」
自信満々に胸を張るタレカに僕は頭を抱えるのだった。
本当、実力差はわかっていたけれど、わざわざ教えてもらわないと手伝いすらさせてもらえないとは。
「メイト、カレーって作ったことある?」
「バカにするなよ! カレーくらい作れるさ」
「その時はピーラーを使ったんでしょうね。最悪、切って煮るだけでもできるんだものね」
「おう。そうだとも。飯盒炊爨でやったわ」
一瞬なんのことだかわからないように眉をひそめてから、タレカは手を打った。
そして、恐る恐ると言う感じで僕の顔をのぞき込んできた。
「ちなみにそれは現実の話よね」
「誰が別次元の飯盒炊爨でカレーを作るんだよ」
「そう。なるほど。一応最低限の教養はあってあの状態ということなのね」
信じられないとでも言いたげに、タレカはアゴに手を挙げ机を見ていた。
気づくとご飯は食べ終わっていて、料理力トークに熱が入っていたことがわかる。
くそう。こんなにバカにされているというのに、何一つ反論できないくらい自炊能力が足りない。
「まあいいわ。このことは明日にでも考えるとしましょうか。食材の減りも早いし、色々と考えることは山積みね」
「なんかすまん」
「いいのよ別に。私だって助けてもらってる立場なんだし。片付けたらゲームしましょ」
「ん」
そそくさと洗い場へ向かうタレカ。
洗い場にすら入れてもらえないところを見ると、僕は洗い物すらできないと思われているのか?
なんて考えつつタレカのことを見ていると、その様子がいつもと違うように見えた。泣いて腫れていた目元がまだ赤いからかもしれないが、それとはまた違うような気がした。
「何を見てるのよ。何か言いたいことがあるなら言ったら?」
「いや、別にそういうのじゃなくて、タレカ疲れてない?」
「何それ。体力マウントってこと?」
「じゃなくて、そんなように見えたってこと。色々変わってるだろうし、無理してないかと思ってさ」
「そう。人がいいわよね」
「なに?」
「いいえ。なんでもないわ。大丈夫よ」
「ならいいんだけど」
ただ、タレカは否定したが僕にはどうしてもタレカの様子が違うように見えるのだ。
本人は自覚していないのか、なんだか表情は眠そうで、目がとろんとしているように見えた。
とはいえ、ゲームくらい止めることでもないだろう。
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