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第6話 彼女の手料理

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「はい。お待たせ」

 任せておけとの言葉通り、しばらくするとテーブルには料理が並べられていた。

 ちゃっちゃかを作っていた割には、しっかりとしたチャーハンと餃子が並べられた。

 今日は中華の気分なんだろうか。

「これでタレカがチャイナ服だったらなぁ」

「買ってきて着せようか?」

「いや、遠慮しておく」

 あまりにもふざけすぎたようで、僕のあしらい方を覚えてきたらしく、タレカがクスクスと笑ってきた。

 僕は別に女装趣味がないし、今の僕が成山タレカではあるから、あんまり口を滑らせるとよろしくないことになる。

 さて、意識を料理に戻そうか。

 なかなかどうしてうまそうだ。

「さあ、冷める前に食べましょ」

「はーい」

「そのやる気のない返事はなんなの?」

「妹が僕に対してよくする返事。多分、妹の返事はこういう感じだと思う」

「自分の妹が全ての妹の行動を代表していると思わないことね」

「なにっ」

 やれやれといった感じで、息を吐きながら、タレカが手を合わせた。

 僕もそれにならって手を合わせる。

「「いただきます」」

 レンゲ風のスプーンで、僕はまずチャーハンをかき込んだ。

 ほどよくパラパラとしたチャーハンは油分としょっぱさのバランスがほどよく、うん。めちゃくちゃうまい!

「うまっ」

 続けて餃子。

 普段、冷凍餃子しか食わない僕は、羽根付きの餃子をパリパリと言わせながら、ひとつをつまんで口に運ぶ。

 タレからしてなんだか本格的な味がして、いつも家で食っているものとは比べ物にならないくらい

「うまい!」

 思わず二個三個、パクパクと口へ運び、むしゃむしゃと食べてしまっていた。

 そこではっとして、僕はタレカの方を見た。

 ついさっき確認したことだが、今の僕は成山タレカの肉体を借りている。つまり自分の体では無いことを思い出したのだ。

 もしかしたら、あんまりばかばか食べ進めていると、太るでしょ! とか、怒られるかもしれない。

 と、警戒しながら恐る恐るタレカの表情をうかがってみたが、タレカはほっとした表情でなんだか安心したように見えた。

「どうしたんだ? 食べないの?」

「い、いや、食べるわよ?」

 僕の言葉に、タレカは慌てたように箸を取り上げ、餃子をつまんでタレにつけたが、そこで動きを止めたまま僕のことをじっと観察してきた。

 タレカが一向に飯を食おうとしない。

 まさか……

 僕は恐ろしい考えに思い至り、食べていた餃子でゴホゴホとむせてしまった。

「だ、大丈夫? どうしたのよ急に」

「いや、あの……ゴホッゴホッ」

「ほら、水」

 咳き込みつつ、背中を叩かれ、水を飲まされ、少しして僕は息を整えた。

「ふぅ」

「そんなに慌てて食べなくてもいいのに」

「いや、そうじゃなくて、タレカが食べないから、毒か睡眠薬でも入れられてるのかなって思って」

「入れないわよ! 料理が台無しじゃない」

「わかってるんだけど、あんまりにも食べないからさ」

「だって……」

 僕の言葉に、タレカは拗ねたように唇をとがらせた。

「だってなにさ」

「……笑わない?」

 タレカはジト目で僕のことを見ながら恥ずかしそうに聞いてくる。

「笑わないとも。人に笑われる悲しさは僕が身をもって体感してるから」

「それはぼっちとは違うんじゃない?」

「ほら、言った言った!」

 ごまかすように僕が言うと、ふっとタレカの頬がほころんだ。

「あのね。私、手料理を誰かに食べてもらうのって初めての経験だったの。だから、美味しいって思ってもらえるか不安で……」

「さっきから思わず言っちゃってるんだけど?」

「でも、お世辞かもしれないじゃない?」

「お世辞で美味しいって反射的に言えないと思うけどな」

 そこまで言って、僕が誰かの手料理をべた褒めしていることに気づき、僕の顔がみるみる赤くなるのが分かった。

 そんな僕を見て、タレカは満足げに笑った。

「なんだか誘導尋問でもされている気分だ」

「私は不安を口にしただけよ」

「はー。この餃子熱いなぁ」

「はいはい。でもよかったわ。毒とか言うから、吐き出して、お前の飯なんか食えるか! って言われるのかと思った」

「そんなご飯を粗末にするようなことはできないよ」

「そう。安心したわ」

 心底ほっとしたようにタレカは微笑み、やっとご飯を食べ始めた。

「ところで、タレカをタレカって呼んでるけど、これ、外ではどうするんだ?」

「何が?」

 ご飯をむしゃむしゃしながら不思議そうにタレカが聞いてくる。

「さっき、今のタレカは僕みたいな扱いをしたけど、タレカのことはタレカって呼んでる。これって、他の人からしたら変じゃないか?」

「そう?」

「だってそうだろ? 僕たちの間では名前で呼び合っても問題ないけど、外では僕が成山タレカでタレカが遠谷メイト似の謎の女子ってことになるわけじゃん?」

「……」

 タレカは僕の言葉を聞いて難しい表情で黙り込んでしまった。

 ただ、どこかで答えを出さなくてはいけない問題だ。今気づいていたからよかったが、学校に行ってこんな話をしていたら、完全に頭がおかしくなったと思われてしまう。

 そんな僕の不安をよそに、タレカはけろっとした感じで言うのだった。

「別にいいじゃない。外でもこうやって呼んでいれば」

「はあ?」

「何よ。他の人がいるところで女の子を呼び捨てにする度胸もないわけ?」

「いや、そうじゃなくって。僕はそんな罵倒も気にしないけど、タレカが」

「私だっておんなじものよ。腫れ物扱い、知らないフリ。それなら、私たちに都合がいいように動いたほうがラクだわ」

 僕をぼっちぼっち言っていたのが、まるで自虐だったみたいな感じで、タレカはいとも簡単に言うのだった。

 事実、彼女の外との接点は、僕の見えるところではほとんどなかった。

 口数は少なく物静か。そして、しっかりしている印象を受ける。勉強も運動もなんだかんだしているけれど、誰かと特別仲良くしているようには見られない。気づいた時にはいつも一人で過ごしている。

 正直なところ、こんなに話す奴だと思っていなかった。それは、向こうも同じ気持ちなんだろうけど。

「わかったよ。お姉ちゃんの言うとおりってことね」

「そ。じゃあ、お皿片してお風呂にしましょ」

「そーだな。先いいよ。男が先に入るのは嫌でしょ?」

「何言ってるのよ。一緒に入るのよ」

「なるほどね。へいへい」

「少し待ってて」

「わかった……え、はあ!?」

 さも当然のことのように言われ、一瞬聞き逃してしまったが、今、タレカ、とんでもないこと言ったよな?

「一緒に入るのよ。家族なら当然でしょ?」
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