59 / 68
第59話 巨大ゴーレムの操作者をぶっ飛ばす
しおりを挟む
暗かった洞窟とは打って変わり、蹴破った壁の先はやたらと明るい空間が広がっていた。
子供部屋のようなそこにいたのは子どもくらいの背丈しかない男。ダボダボの白衣を見にまとい、大声を出した後の口を大きく開けたまま固まっている。
動揺してゴーレムの操作をやめたからか、ゴーレムが動く音は聞こえてこない。
どうやら、ヨーリンの言っていたゴーレムを操作する者は近くにいるという予想が当たっていたようだ。
「ふっふふ」
突然、驚いた顔を歪めると、少年風の男が笑い声を上げ出した。
「なんだよ。予想外の出来事が起きて頭がおかしくなったか?」
「いいや。そんなことはない。ふっふふ」
こらえられないとばかりに男は笑い声を漏らす。
「強がる女はいいぞ。はずかしめられ、悔しがる姿はとてもそそられる。そんな妄想をすると。ふっふふ」
「変態が!」
「ガフッふふ」
我慢できず殴ってしまった。多分息の根は止まってない。はず。
だが、最後まで笑うのをやめなかった。今も腹を殴られ気絶しているが表情はとても嬉しそうな笑顔だ。
もしかしたら俺に殴られるのも嬉しいのかも。
いや、これ以上考えるのはやめよう。
「最後はあっけなかったな」
「そうですね……あの、ラウルさん? もう降ろしてくれて大丈夫ですよ?」
「お、おう。悪い」
「いえ」
部屋の熱さのせいか頬を赤く染めながらガラライは俺から降りた。
そんな折、近くからゴーレムが崩れる音も聞こえてくる。
どうやら名も知らぬ男が気絶したことで、ゴーレムが形を保っていられなくなったようだ。
本体は全く張り合いがなかった。しかし、こいつは抜けられない森の脱出方法を知っている様子だった。
これ以上直接触りたくないがどうやって地上まで運ぼうか。
「どうしたんですか?」
「いやな。こいつにどうやって道案内させようかと思って」
「それならいい話がありますわ!」
ヨーリンが話に割って入ってきた。
なにやら異様にテンションが高い気がする。
「なんだよ急に」
「ラウル様が直接触らずにこの男を運ぶ方法です」
「どうやるんだ? ヨーリンが運んでくれるのか?」
「いえ、ワタクシは影なので運ぶことはできません。ただ、ここで少し、先ほどのようにモンスター学を披露させてください」
「うん?」
何か考えがあるのだろう。
俺は黙ってヨーリンの話を聞くことにした。
興味があるのかガラライはワクワクした様子で俺の影を見ている。
「ワタクシたちモンスターというものは、相手を倒した時、力を奪い強くなりますます。それが経験値、成長というものです」
「そんなの俺でも知ってるぞ。人間でもそうだ。まあ、自分の実力を正確に把握するのはスキルの相性もあるし難しいが」
「ええ、その通りですわ。常識です」
「で、それがどうかしたのか?」
「ワタクシと他のモンスターの違いがわかりますか?」
「大魔王だろ?」
「そうではなく!」
大魔王という言葉にガラライがピクリとしたが、説明するのも面倒だ。
とりあえずヨーリンの話に意識を戻す。
「じゃあなんだよ」
俺が聞くとヨーリンはもったいぶるように笑った。
「聞きたいですか?」
「聞かないと話が進まないから聞きたい」
「ラウル様には特別に教えて差し上げましょう。ワタクシは倒した相手をスキルとして扱えるようになるのです」
「相手をスキル化?」
「そうです。試しに先ほど倒したブラッドオクトパスをイメージしてその男に右手を突き出してみてください」
「こうか?」
疑問に思いながら俺は右手を突き出した。すると、手のひらからタコの触手が伸びてきて男を締め上げた。
「うおっ」
驚きで思わず声が漏れる。
「これが、倒した相手をスキルにするってことか」
「そうです。さすがラウル様。ワタクシが言葉で教えただけですぐに使えるようになるなんて素晴らしいです!」
「でも、これ神的に大丈夫なのか? 体の一部がモンスターみたいになってるけど」
「影に大魔王がいるのに今さらだろう」
「それもそうか」
「そもそも邪神を倒した今、大魔王でさえ取るに足らない。貴様に対してしか何かをできないうえ、すでに貴様の一部だ。そんな大魔王のスキルなら、もう貴様のものだろう」
「そうですわ。ワタクシはずっとラウル様のために自分の力を使ってもらう方法を考えていたんです。ここまで長い関係でも信頼していただけないなんて」
「いや、そこまで長い関係でもないだろ」
俺の影がひんやりとしている気がするが、今はそっとしておこう。
何にしても、俺はどうやらヨーリンが俺の影に入ってからのモンスターをスキルとして使えるらしい。
今回のスキルにしろ、神からもらったアルカになるスキルにしろ、俺の体がどんどん別物になっていく気がするが、まあいいだろう。
「さて、これで森を抜けるアテも見つかったしゴーレムも起動しないはずだ。帰るとするか」
「はい……あ、あの」
「どうした?」
そこで言いにくそうにガラライが俺を見上げてきた。なんだろう。
「私はお役に立てましたか?」
不安そうに聞いてくるガラライ。
俺はガラライに対し笑みを浮かべた。
「タコを倒せたのはガラライのおかげだろ? ありがとな」
「ハイ!」
俺の言葉にガラライは元気よく返事をし、心からの笑顔を見せてくれた。
恐ろしやラーブ。荒くれだったやつをここまで変えてしまうとは。
子供部屋のようなそこにいたのは子どもくらいの背丈しかない男。ダボダボの白衣を見にまとい、大声を出した後の口を大きく開けたまま固まっている。
動揺してゴーレムの操作をやめたからか、ゴーレムが動く音は聞こえてこない。
どうやら、ヨーリンの言っていたゴーレムを操作する者は近くにいるという予想が当たっていたようだ。
「ふっふふ」
突然、驚いた顔を歪めると、少年風の男が笑い声を上げ出した。
「なんだよ。予想外の出来事が起きて頭がおかしくなったか?」
「いいや。そんなことはない。ふっふふ」
こらえられないとばかりに男は笑い声を漏らす。
「強がる女はいいぞ。はずかしめられ、悔しがる姿はとてもそそられる。そんな妄想をすると。ふっふふ」
「変態が!」
「ガフッふふ」
我慢できず殴ってしまった。多分息の根は止まってない。はず。
だが、最後まで笑うのをやめなかった。今も腹を殴られ気絶しているが表情はとても嬉しそうな笑顔だ。
もしかしたら俺に殴られるのも嬉しいのかも。
いや、これ以上考えるのはやめよう。
「最後はあっけなかったな」
「そうですね……あの、ラウルさん? もう降ろしてくれて大丈夫ですよ?」
「お、おう。悪い」
「いえ」
部屋の熱さのせいか頬を赤く染めながらガラライは俺から降りた。
そんな折、近くからゴーレムが崩れる音も聞こえてくる。
どうやら名も知らぬ男が気絶したことで、ゴーレムが形を保っていられなくなったようだ。
本体は全く張り合いがなかった。しかし、こいつは抜けられない森の脱出方法を知っている様子だった。
これ以上直接触りたくないがどうやって地上まで運ぼうか。
「どうしたんですか?」
「いやな。こいつにどうやって道案内させようかと思って」
「それならいい話がありますわ!」
ヨーリンが話に割って入ってきた。
なにやら異様にテンションが高い気がする。
「なんだよ急に」
「ラウル様が直接触らずにこの男を運ぶ方法です」
「どうやるんだ? ヨーリンが運んでくれるのか?」
「いえ、ワタクシは影なので運ぶことはできません。ただ、ここで少し、先ほどのようにモンスター学を披露させてください」
「うん?」
何か考えがあるのだろう。
俺は黙ってヨーリンの話を聞くことにした。
興味があるのかガラライはワクワクした様子で俺の影を見ている。
「ワタクシたちモンスターというものは、相手を倒した時、力を奪い強くなりますます。それが経験値、成長というものです」
「そんなの俺でも知ってるぞ。人間でもそうだ。まあ、自分の実力を正確に把握するのはスキルの相性もあるし難しいが」
「ええ、その通りですわ。常識です」
「で、それがどうかしたのか?」
「ワタクシと他のモンスターの違いがわかりますか?」
「大魔王だろ?」
「そうではなく!」
大魔王という言葉にガラライがピクリとしたが、説明するのも面倒だ。
とりあえずヨーリンの話に意識を戻す。
「じゃあなんだよ」
俺が聞くとヨーリンはもったいぶるように笑った。
「聞きたいですか?」
「聞かないと話が進まないから聞きたい」
「ラウル様には特別に教えて差し上げましょう。ワタクシは倒した相手をスキルとして扱えるようになるのです」
「相手をスキル化?」
「そうです。試しに先ほど倒したブラッドオクトパスをイメージしてその男に右手を突き出してみてください」
「こうか?」
疑問に思いながら俺は右手を突き出した。すると、手のひらからタコの触手が伸びてきて男を締め上げた。
「うおっ」
驚きで思わず声が漏れる。
「これが、倒した相手をスキルにするってことか」
「そうです。さすがラウル様。ワタクシが言葉で教えただけですぐに使えるようになるなんて素晴らしいです!」
「でも、これ神的に大丈夫なのか? 体の一部がモンスターみたいになってるけど」
「影に大魔王がいるのに今さらだろう」
「それもそうか」
「そもそも邪神を倒した今、大魔王でさえ取るに足らない。貴様に対してしか何かをできないうえ、すでに貴様の一部だ。そんな大魔王のスキルなら、もう貴様のものだろう」
「そうですわ。ワタクシはずっとラウル様のために自分の力を使ってもらう方法を考えていたんです。ここまで長い関係でも信頼していただけないなんて」
「いや、そこまで長い関係でもないだろ」
俺の影がひんやりとしている気がするが、今はそっとしておこう。
何にしても、俺はどうやらヨーリンが俺の影に入ってからのモンスターをスキルとして使えるらしい。
今回のスキルにしろ、神からもらったアルカになるスキルにしろ、俺の体がどんどん別物になっていく気がするが、まあいいだろう。
「さて、これで森を抜けるアテも見つかったしゴーレムも起動しないはずだ。帰るとするか」
「はい……あ、あの」
「どうした?」
そこで言いにくそうにガラライが俺を見上げてきた。なんだろう。
「私はお役に立てましたか?」
不安そうに聞いてくるガラライ。
俺はガラライに対し笑みを浮かべた。
「タコを倒せたのはガラライのおかげだろ? ありがとな」
「ハイ!」
俺の言葉にガラライは元気よく返事をし、心からの笑顔を見せてくれた。
恐ろしやラーブ。荒くれだったやつをここまで変えてしまうとは。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
峻烈のムテ騎士団
いらいあす
ファンタジー
孤高の暗殺者が出会ったのは、傍若無人を遥かに超えた何でもありの女騎士団。
これは彼女たちがその無敵の力で世界を救ったり、やっぱり救わなかったりするそんなお話。
そんな彼女たちを、誰が呼んだか"峻烈のムテ騎士団"
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる