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第36話 魔王の最後の言葉と続く敵

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「今の話を聞く限り、慣れない体だったのだろう。本当によくやるものだ。褒めて遣わす」

 突如震える魔王の頭、俺でも神でもアルカでもない声。

 聞き覚えのある声の正体は、やはり死んだはずの魔王の声だった。

 倒した後、一度確認したがその時は反応がなかった。

 今まで首を持っていても生きている感覚は感じなかった。全く微動だにしていなかった。

「死んだフリくらい余にとっては造作もないこと」

「そうか。変な特技だな。だが、首が繋がってなくてなんで喋れるんだよ」

 今の魔王はすでに頭だけとなっており、とても生きているとは思えない。

 仮に生物なら活動を停止していなければおかしな状況じゃないか。

「余はもう戦うことはできないさ。だが、まだ話くらいはできる。何せ仮にも魔王だからな」

 事実、魔王の傷が回復している様子はない。あくまで最後の力を振り絞っていると言ったところか。

「言いたいことがあるなら早く言ったほうがいいぞ。どうせもう長くないんだろ」

「貴様は優しいのだな。では面白いことを教えてやろう。それは、余もまた魔王を封印するカギの一つにすぎないということだ」

「カギ?」

「そう。余は魔王だが、最上位の存在ではない。余も四天王たちと同じような立ち位置ということだ。余はあくまで魔王であって大魔王ではない」

 ニタリと気持ち悪く笑う魔王の首。

 こいつが魔王軍のナンバーワンじゃないのか?

「それじゃあ死神の言ってたことが間違ってたってのか?」

「死神から情報を聞いたか。ならその情報は正確ではないだろう。死神程度の存在は余までしか認識していないはずだからな。ハッハハハハハ!」

「嘘だろ?」

「嘘なものか。いや、嘘のようなものか。何せ魔王であって大魔王じゃないのだから。まあ、貴様らからすれば信じたくないことだろうな」

 ベルトレットになり代わってまで姿をくらましていた魔王が本物じゃなかった?

 まだ上の存在がいるってのか。

「いや、もしかして大魔王ってのは邪神のことか? 神の言っていたアレか?」

「違う。邪神の封印は魔王を倒したことで解けるようにはなっていない。そもそも魔王は倒したはずだ。大魔王なんて存在、我は知らないぞ」

 ってことは、大魔王とやらは神も認識してない何かってことか。

 おいおいおい。こいつはまずいんじゃないか?

「クックック。神も知らないか。いや、知らないよな! 人間に力を与えるだけの神が知るはずもない。四天王たちを倒さなければ、余の正体を暴くことさえできなかった神が、大魔王様を認知できるはずがないのだ」

 神が魔王を認識する前から存在したモンスター。

 噂に聞いたことがある。太古の時代。人間もモンスターも今よりも強力な能力を持っていたと。

 蘇生魔法はその時代の名残で条件が揃っていれば使える伝説の魔法だと。

 しかし、いくら太古の魔術師でも寿命で死んだものを蘇生することはできなかったらしい。

 そうして、今では太古の魔法はそのほとんどが忘れ去られたと言われている。が、もし仮に今も生きている太古のモンスターが存在したとしたら?

「どうだ? わかってきたか? 今自分たちが置かれている状況を理解したか?」

「神、勝算は?」

「わからない」

「フハハッハ! わからないか。神がわからないか。それはそうだ。見たことも聞いたこともなければ実力を測りようがないからな。興味の湧かないほど小さなモンスターのことなど知る由もないだろう。なぜなら大魔王様が最初に行ったことこそ、余を生み出し自らを別空間に封印することだったのだからな。記録など残っていようはずもない」

「悔しいが魔王の言う通りだ。我々は魔王を脅威と認識してから対処するようになった。それもこの魔王じゃない、他の魔王が邪神によって生み出されてからだ」

「邪神。力を与えてくれたことには感謝しているが、いつぞや封印されていたな。なるほど、余以外にも力を与えていたか」

「それはそうだろう。だが、最初からそれほどのことができるモンスターならば、おそらく邪神が生まれた瞬間から関わっていたのだろう。我々が全く知らないことも頷ける。が、四天王が構築される以前、勇者が現れるより前の太古の時代には貴様を追い詰める実力者もいたんじゃないのか」

「残念だがそんなことは起こらなかった。聞かなかったか? 今までは八芒星がやられる程度だったと。時代時代の実力者、その最前線のレベルが八芒星だったのだ。もし仮に倒したとしてもより強力な四天王が現れる。誰も超えられるはずがない」

「ふっ」

 俺は思わず笑ってしまった。

 八芒星が時代の実力者、その最前線だとわかったからだ。

 警戒していた俺の体も、魔王の言葉を聞いて安心している。

「何がおかしい」

「あの程度で最前線のレベルと抜かしていたのかと思ってな。そりゃ魔王まで勇者の皮をかぶりたくもなる」

「負け惜しみか。大魔王様の実力は余の比ではないぞ」

 俺は負け惜しみを言う魔王の頭を転がした。

 丸い頭は面白いほどよく回る。

「名前すらない魔王の親玉なんて怖くもなんともない」

「そうだな。余は名乗っていなかった」

 魔王は自分の歯をブレーキがわりにしたのか、グッとその場で止まった。

「余はジョーカー・ウランク。エース・シクサルに続くもう一つの切り札にすぎない。余の命も残りわずか。この命が果てる時、余の魔力の爆発と共に大魔王様がふ」

「喋りすぎですわ」

 魔王の頭を踏み潰しながら何者かが突如空から降りてきた。

 ふわりとゆっくり降りてきたように見えたが重々しく魔王の頭を踏み潰していた。

 だが、魔王の頭はまるで最初からそこになかったかのようになんの形跡も残していない。

 俺の足元を確認してみると魔王の体までもどこかへ消えてしまっている。

「初めまして」

 貴族の娘のような裾がふくらんだスカートを身につけた少女は丁寧に俺に頭を下げてきた。
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