10 / 68
第10話 勇者の黒龍退治
しおりを挟む
確かに山にいる。そして、呑気に眠っているな。
俺はギルドの受付嬢から聞いた情報を頼りに、黒龍が住んでいるという山までやってきていた。
今目の前にいるのは黒い鱗の巨体を持つ龍。間違いなく街に迷惑をかけているというやつだろう。
人さらいの話は本当らしく、龍の周りにはたくさんの女性がいる。
「さて、眠ってるところ悪いが、速攻で片付けさせてもらう」
俺は剣を抜き放ち、龍に剣先を向けた。
こっちは仲間の居場所がかかってるんだからな。迷惑かけやがって。
「殺気がダダ漏れだぞ?」
「いつの間に!?」
突如として、誰だかわからない人影が、俺たちの背後に現れた。
反射的に剣で防げたが、硬い何かで攻撃していたらしく、直撃していれば危なかった。
だが、攻撃も全て防げていたわけではないらしく、左腕に痛みがある。
どうやら今回は片手で戦わないといけないわけか。
相変わらずどこに行ってるんだアルカは。いるなら早くに叩けってんだ。
「少しはやるようだな。今ので誰も死んでいないところを見ると、お前さんたち、ただの冒険者じゃないな」
先ほどまで寝ていた黒龍がいないことを見るに、この人間が黒龍の人間体なのだろう。
仲間とアイコンタクトで無事を確認してから、俺は黒龍に向き直った。
「お生憎様。俺たちは勇者パーティなんでな。いくら黒龍と言えど、ここが墓場になると思うぜ」
「どうだろうな。かわいこちゃんを三人も連れた坊主」
俺との会話が楽しいらしく、俺の仲間をかわいこちゃんなんて言ってるが、注意は完全に俺に向いている。
再びアイコンタクトで全員と確認。
詠唱は終わったようだ。
「やれ!」
「『オールアップ・エンハンス』!」
「『バインド』!」
「『アイスボム』!」
「これで最後だ。『氷結剣』!」
リマがアイスボムを使ったことに合わせて、俺も同じ属性の氷結剣を使った。
動きを封じ、大ダメージを与えた。
身体能力も上がっている。
「やったか?」
冷気のせいで黒龍の姿は見えないが、動きがあるようには感じられない。
これは俺たちの勝ちじゃないか?
「みーんな戦えるのか! いいねぇ。そうこなくっちゃな」
見たところ黒龍に目立ったダメージはない。
人間体なだけで、やはり黒龍らしく、背中のあたりから翼を生やして飛び上がっていた。
「『サンダ』!」
リマの魔法には劣るが、速攻で俺は攻撃をしかけた。
だが、黒龍は見切れるはずもない雷を瞬時にかわした。
最初からほぼ全力を出したというのに、倒せないだと?
さらに、黒龍は雷をかわすためなのか姿が見えなくなってしまった。
「どっか行きやがって。クソが」
「そう思うか?」
「や、やめるです」
「カーテット! どうした」
なんだ? 突然カーテットがしゃがみ込んだ。
一体あいつは何をしたんだ。
「ほらほら、スキだらけだぜぇ?」
「きゃあああああ!」
「リマ! 何が起きている! 報告してくれ!」
「……」
ひどく動揺しているのかリマまで無言で返事がない。
くそう。一体どうなってやがる。黒龍。あいつは一体何をしてるんだ。
「出てこい!」
「いつ隠れたって言ったよ」
「こ、こんなことして恥ずかしくないのですか!」
「ないね。こちとら人間じゃないんで、な!」
三人ともしゃがみ込んだかと思うと、全員がパタリとその場に倒れ込んだ。
どうやら、装備が原型をとどめていないところを見るに、一人ずつやられたってことらしい。
「あと一人!」
「くうぅ!」
俺はなんとかすんでのところで攻撃を防ぎ、体の形は変わらずに済んだ。
だが。
片手では攻撃をまともに防げず、もう片方の手も負傷、剣を持っていられなくなった。
「おや? 戦意喪失かな?」
「ぐあああああ!」
「武器を持てなきゃ勇者もただの人間と同じだなぁ!」
黒龍の言う通り、俺はなすすべなく体当たりで吹き飛ばされた。
ペクターの近くで俺は地面に打ちつけられた。
どうやら本当に気絶しているらしい。
俺もペクターのエンチャント魔法のおかげでなんとか意識を保っている状態だ。
「俺はこの程度か? 俺の本当の力はこんなものなのか?」
ラウルとアルカの二人に頼らなければ戦えないほど俺は弱かったのか?
「いいや、そんなはずない。本物はそんなはずがない。せめて、この場くらいは切り抜けられるはず。余裕の戦いじゃないが、なんとかしないといけないんだ」
「何を言ってる? やられておかしくなったか?」
他に誰も見ていないなら、全力を出しても問題ないはずだ。
そんな内なる声が聞こえてくる。
まるで、俺のものではないような声が。
「はあああああ!」
「そうか、まだ全力を出していなかったのか!」
みるみる力が湧いてくる。
なんだか、思考がスッキリする。
目の前の黒龍が驚いたように目を丸く見開いた。
「本気を出すと勇者にしては禍々しい姿をするんだな。それが勇者の全力か? それじゃまるで」
「どうだろうな。『全力剣』!!!」
「ま」
体を切り離してもなお喋ろうとする生命力。
人間以上に長生きしているだけあり、黒龍、龍種の生命力は伊達じゃないか。
だが、もう虫の息。黒龍の命もここまでだろう。
ま、ここで死にはしないだろうが、俺の方も満身創痍。仲間の回復や捕まっている人の脱出の案内。アルカ探しは今すぐには無理そうだ。
「くそ。力が弱くなっていることは認めざるを得ないな。だが、今はなんとかなっている」
近くに敵はいない。そう思うと、俺の体から力がふっと抜けた。
俺はギルドの受付嬢から聞いた情報を頼りに、黒龍が住んでいるという山までやってきていた。
今目の前にいるのは黒い鱗の巨体を持つ龍。間違いなく街に迷惑をかけているというやつだろう。
人さらいの話は本当らしく、龍の周りにはたくさんの女性がいる。
「さて、眠ってるところ悪いが、速攻で片付けさせてもらう」
俺は剣を抜き放ち、龍に剣先を向けた。
こっちは仲間の居場所がかかってるんだからな。迷惑かけやがって。
「殺気がダダ漏れだぞ?」
「いつの間に!?」
突如として、誰だかわからない人影が、俺たちの背後に現れた。
反射的に剣で防げたが、硬い何かで攻撃していたらしく、直撃していれば危なかった。
だが、攻撃も全て防げていたわけではないらしく、左腕に痛みがある。
どうやら今回は片手で戦わないといけないわけか。
相変わらずどこに行ってるんだアルカは。いるなら早くに叩けってんだ。
「少しはやるようだな。今ので誰も死んでいないところを見ると、お前さんたち、ただの冒険者じゃないな」
先ほどまで寝ていた黒龍がいないことを見るに、この人間が黒龍の人間体なのだろう。
仲間とアイコンタクトで無事を確認してから、俺は黒龍に向き直った。
「お生憎様。俺たちは勇者パーティなんでな。いくら黒龍と言えど、ここが墓場になると思うぜ」
「どうだろうな。かわいこちゃんを三人も連れた坊主」
俺との会話が楽しいらしく、俺の仲間をかわいこちゃんなんて言ってるが、注意は完全に俺に向いている。
再びアイコンタクトで全員と確認。
詠唱は終わったようだ。
「やれ!」
「『オールアップ・エンハンス』!」
「『バインド』!」
「『アイスボム』!」
「これで最後だ。『氷結剣』!」
リマがアイスボムを使ったことに合わせて、俺も同じ属性の氷結剣を使った。
動きを封じ、大ダメージを与えた。
身体能力も上がっている。
「やったか?」
冷気のせいで黒龍の姿は見えないが、動きがあるようには感じられない。
これは俺たちの勝ちじゃないか?
「みーんな戦えるのか! いいねぇ。そうこなくっちゃな」
見たところ黒龍に目立ったダメージはない。
人間体なだけで、やはり黒龍らしく、背中のあたりから翼を生やして飛び上がっていた。
「『サンダ』!」
リマの魔法には劣るが、速攻で俺は攻撃をしかけた。
だが、黒龍は見切れるはずもない雷を瞬時にかわした。
最初からほぼ全力を出したというのに、倒せないだと?
さらに、黒龍は雷をかわすためなのか姿が見えなくなってしまった。
「どっか行きやがって。クソが」
「そう思うか?」
「や、やめるです」
「カーテット! どうした」
なんだ? 突然カーテットがしゃがみ込んだ。
一体あいつは何をしたんだ。
「ほらほら、スキだらけだぜぇ?」
「きゃあああああ!」
「リマ! 何が起きている! 報告してくれ!」
「……」
ひどく動揺しているのかリマまで無言で返事がない。
くそう。一体どうなってやがる。黒龍。あいつは一体何をしてるんだ。
「出てこい!」
「いつ隠れたって言ったよ」
「こ、こんなことして恥ずかしくないのですか!」
「ないね。こちとら人間じゃないんで、な!」
三人ともしゃがみ込んだかと思うと、全員がパタリとその場に倒れ込んだ。
どうやら、装備が原型をとどめていないところを見るに、一人ずつやられたってことらしい。
「あと一人!」
「くうぅ!」
俺はなんとかすんでのところで攻撃を防ぎ、体の形は変わらずに済んだ。
だが。
片手では攻撃をまともに防げず、もう片方の手も負傷、剣を持っていられなくなった。
「おや? 戦意喪失かな?」
「ぐあああああ!」
「武器を持てなきゃ勇者もただの人間と同じだなぁ!」
黒龍の言う通り、俺はなすすべなく体当たりで吹き飛ばされた。
ペクターの近くで俺は地面に打ちつけられた。
どうやら本当に気絶しているらしい。
俺もペクターのエンチャント魔法のおかげでなんとか意識を保っている状態だ。
「俺はこの程度か? 俺の本当の力はこんなものなのか?」
ラウルとアルカの二人に頼らなければ戦えないほど俺は弱かったのか?
「いいや、そんなはずない。本物はそんなはずがない。せめて、この場くらいは切り抜けられるはず。余裕の戦いじゃないが、なんとかしないといけないんだ」
「何を言ってる? やられておかしくなったか?」
他に誰も見ていないなら、全力を出しても問題ないはずだ。
そんな内なる声が聞こえてくる。
まるで、俺のものではないような声が。
「はあああああ!」
「そうか、まだ全力を出していなかったのか!」
みるみる力が湧いてくる。
なんだか、思考がスッキリする。
目の前の黒龍が驚いたように目を丸く見開いた。
「本気を出すと勇者にしては禍々しい姿をするんだな。それが勇者の全力か? それじゃまるで」
「どうだろうな。『全力剣』!!!」
「ま」
体を切り離してもなお喋ろうとする生命力。
人間以上に長生きしているだけあり、黒龍、龍種の生命力は伊達じゃないか。
だが、もう虫の息。黒龍の命もここまでだろう。
ま、ここで死にはしないだろうが、俺の方も満身創痍。仲間の回復や捕まっている人の脱出の案内。アルカ探しは今すぐには無理そうだ。
「くそ。力が弱くなっていることは認めざるを得ないな。だが、今はなんとかなっている」
近くに敵はいない。そう思うと、俺の体から力がふっと抜けた。
1
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
おっチャンの異世界日記。ピンクに御用心。異世界へのキッカケは、パンツでした。
カヨワイさつき
ファンタジー
ごくごく普通のとあるおっチャン。
ごく普通のはずだった日常に
突如終わりを告げたおっチャン。
原因が、朝の通勤時に目の前にいた
ミニスカートの女性だった。女性の
ピンク色のナニかに気をとられてしまった。
女性を助けたおっチャンは車にはねられてしまった。
次に気がつくと、大きな岩の影にいた。
そこから見えた景色は、戦いの場だった。
ごくごく普通だったはずのおっチャン、
異世界であたふたしながらも、活躍予定の物語です。
過去の自身の作品、人見知りの作品の
登場人物も、ちょっと登場。
たくさんの方々に感謝します。
ありがとうございます。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
峻烈のムテ騎士団
いらいあす
ファンタジー
孤高の暗殺者が出会ったのは、傍若無人を遥かに超えた何でもありの女騎士団。
これは彼女たちがその無敵の力で世界を救ったり、やっぱり救わなかったりするそんなお話。
そんな彼女たちを、誰が呼んだか"峻烈のムテ騎士団"
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる