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第10話 勇者の黒龍退治

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 確かに山にいる。そして、呑気に眠っているな。

 俺はギルドの受付嬢から聞いた情報を頼りに、黒龍が住んでいるという山までやってきていた。

 今目の前にいるのは黒い鱗の巨体を持つ龍。間違いなく街に迷惑をかけているというやつだろう。

 人さらいの話は本当らしく、龍の周りにはたくさんの女性がいる。

「さて、眠ってるところ悪いが、速攻で片付けさせてもらう」

 俺は剣を抜き放ち、龍に剣先を向けた。

 こっちは仲間の居場所がかかってるんだからな。迷惑かけやがって。

「殺気がダダ漏れだぞ?」

「いつの間に!?」

 突如として、誰だかわからない人影が、俺たちの背後に現れた。

 反射的に剣で防げたが、硬い何かで攻撃していたらしく、直撃していれば危なかった。

 だが、攻撃も全て防げていたわけではないらしく、左腕に痛みがある。

 どうやら今回は片手で戦わないといけないわけか。

 相変わらずどこに行ってるんだアルカは。いるなら早くに叩けってんだ。

「少しはやるようだな。今ので誰も死んでいないところを見ると、お前さんたち、ただの冒険者じゃないな」

 先ほどまで寝ていた黒龍がいないことを見るに、この人間が黒龍の人間体なのだろう。

 仲間とアイコンタクトで無事を確認してから、俺は黒龍に向き直った。

「お生憎様。俺たちは勇者パーティなんでな。いくら黒龍と言えど、ここが墓場になると思うぜ」

「どうだろうな。かわいこちゃんを三人も連れた坊主」

 俺との会話が楽しいらしく、俺の仲間をかわいこちゃんなんて言ってるが、注意は完全に俺に向いている。

 再びアイコンタクトで全員と確認。

 詠唱は終わったようだ。

「やれ!」

「『オールアップ・エンハンス』!」

「『バインド』!」

「『アイスボム』!」

「これで最後だ。『氷結剣』!」

 リマがアイスボムを使ったことに合わせて、俺も同じ属性の氷結剣を使った。

 動きを封じ、大ダメージを与えた。

 身体能力も上がっている。

「やったか?」

 冷気のせいで黒龍の姿は見えないが、動きがあるようには感じられない。

 これは俺たちの勝ちじゃないか?

「みーんな戦えるのか! いいねぇ。そうこなくっちゃな」

 見たところ黒龍に目立ったダメージはない。

 人間体なだけで、やはり黒龍らしく、背中のあたりから翼を生やして飛び上がっていた。

「『サンダ』!」

 リマの魔法には劣るが、速攻で俺は攻撃をしかけた。

 だが、黒龍は見切れるはずもない雷を瞬時にかわした。

 最初からほぼ全力を出したというのに、倒せないだと?

 さらに、黒龍は雷をかわすためなのか姿が見えなくなってしまった。

「どっか行きやがって。クソが」

「そう思うか?」

「や、やめるです」

「カーテット! どうした」

 なんだ? 突然カーテットがしゃがみ込んだ。

 一体あいつは何をしたんだ。

「ほらほら、スキだらけだぜぇ?」

「きゃあああああ!」

「リマ! 何が起きている! 報告してくれ!」

「……」

 ひどく動揺しているのかリマまで無言で返事がない。

 くそう。一体どうなってやがる。黒龍。あいつは一体何をしてるんだ。

「出てこい!」

「いつ隠れたって言ったよ」

「こ、こんなことして恥ずかしくないのですか!」

「ないね。こちとら人間じゃないんで、な!」

 三人ともしゃがみ込んだかと思うと、全員がパタリとその場に倒れ込んだ。

 どうやら、装備が原型をとどめていないところを見るに、一人ずつやられたってことらしい。

「あと一人!」

「くうぅ!」

 俺はなんとかすんでのところで攻撃を防ぎ、体の形は変わらずに済んだ。

 だが。

 片手では攻撃をまともに防げず、もう片方の手も負傷、剣を持っていられなくなった。

「おや? 戦意喪失かな?」

「ぐあああああ!」

「武器を持てなきゃ勇者もただの人間と同じだなぁ!」

 黒龍の言う通り、俺はなすすべなく体当たりで吹き飛ばされた。

 ペクターの近くで俺は地面に打ちつけられた。

 どうやら本当に気絶しているらしい。

 俺もペクターのエンチャント魔法のおかげでなんとか意識を保っている状態だ。

「俺はこの程度か? 俺の本当の力はこんなものなのか?」

 ラウルとアルカの二人に頼らなければ戦えないほど俺は弱かったのか?

「いいや、そんなはずない。本物はそんなはずがない。せめて、この場くらいは切り抜けられるはず。余裕の戦いじゃないが、なんとかしないといけないんだ」

「何を言ってる? やられておかしくなったか?」

 他に誰も見ていないなら、全力を出しても問題ないはずだ。

 そんな内なる声が聞こえてくる。

 まるで、俺のものではないような声が。

「はあああああ!」

「そうか、まだ全力を出していなかったのか!」

 みるみる力が湧いてくる。

 なんだか、思考がスッキリする。

 目の前の黒龍が驚いたように目を丸く見開いた。

「本気を出すと勇者にしては禍々しい姿をするんだな。それが勇者の全力か? それじゃまるで」

「どうだろうな。『全力剣』!!!」

「ま」

 体を切り離してもなお喋ろうとする生命力。

 人間以上に長生きしているだけあり、黒龍、龍種の生命力は伊達じゃないか。

 だが、もう虫の息。黒龍の命もここまでだろう。

 ま、ここで死にはしないだろうが、俺の方も満身創痍。仲間の回復や捕まっている人の脱出の案内。アルカ探しは今すぐには無理そうだ。

「くそ。力が弱くなっていることは認めざるを得ないな。だが、今はなんとかなっている」

 近くに敵はいない。そう思うと、俺の体から力がふっと抜けた。
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