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第52話 わかってほしい:魔王の娘フラータ視点

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~魔王の娘フラータ視点~

 なんだかお姫様になった気分だったなぁ。

 怪鳥のせいで荒らされちゃったけど、自然は少しずつみんなで戻していけばいい。

 そうそう。自然には回復力があるんだから。

「ああー! でもでもー!」

 リストーマくんに抱きかかえられちゃうなんてぇ!

「キャー! まさか自分がされるなんて考えてもみなかったなぁ。リストーマくんの体、頼りになりそうなしっかりした感じだったし!」

 い、いけないいけない。また力のあるなしで考えてた。

 でも、やっぱり力があるってことに心が揺れちゃう。

 怪鳥は剣聖のペットってだけあって、並の魔獣とは比べ物にならないほど凶暴で危険だった。

 あの時のフラータが一人でなんとかできたか怪しい。

 それをいともたやすく倒してしまうなんて、心が揺れないわけがない。

「……」

「なんだその顔は」

「どうして当たり前のことみたく、フラータの部屋に入ってきてるの」

「壁がなくなったからな」

「ホント最悪」

 パパがリストーマくんの力に抗おうとして何度も暴れてるせいで、城が穴ボコだらけだ。

 フラータの部屋はここしかないし、他の部屋もどうせ同じような状態。

 本当にサイアク。自分でこんな状況にしておきながら、魔王だからって反省する様子がないし。

「いい歳して暴れるって、パパ何してるの?」

「誰だか知らんが、魔王を倒そうという不届きなヤツを締め出すために必要なことだ」

「誰だかわかってないなら周りに迷惑かけないでよね」

「迷惑と言っているのはフラータ、お前だけだ。無論、魔王とその子は相容れない。すなわち」

「はいはい。いつものやつね」

 この話になると長い。

 無視しても話したがるから聞き流すしかない。

 正直、生活スペースが変わりすぎててもうずっと外にいたい。

「はあーあ」

「して、先ほどまでは機嫌がよかったようだが、何かあったのか?」

「怪鳥が暴れてたから人間の男の子に助けてもらったの」

 テキトー言ってどっか言ってくれたらいいのに。

「……助けてもらったぁ? しかも、人間の男児にだとぉ?」

「なに……」

「冗談、じゃなさそうだな。正気か? 何かの間違いではなく。本当に人間に助けられたというのか」

「そうだって言ってんでしょ。今日は正直に話したんだからさっさとどっか行って」

「…………」

 いつもと反応が違う。

 でも、なんとなくわかる。

 これは、パパが本気で怒っている時のオーラだ。

 ひざまずくどころじゃない。どれだけ動こうとしても、体が動かなくなるほどの殺気をひしひしと感じる。

「そのような話は聞きたくないわ! 人に助けられるなど、魔王軍、それも魔王の娘にあってはならぬこと。それがどうしてわからない。わからないお前ではないだろうに!」

「なんでダメなのよ! 人間にだっていい人はいるし、困ってたら助けてくれる。それの何がいけないっての!」

「それがダメだと言っているのだ。優しい? 助ける? 言語道断! そんな心意気ではワシの首を取ることなど叶わんぞ! 強者が弱者に恵みを与えることはあっても、協力などという絵空事に踊らされているようでは甘すぎる!」

「何が絵空事だっての!」

「はあ……。その区別もつかぬか。ワシに対する言葉遣いが変わり、しっかり育っていると思っていたが、それも形だけだったようだな」

「……っ! なにそれ。パパはフラータのこと、いつだって育てる気なんてなかったじゃない。世話だって、アルタラに任せっきりでなにもしたことないじゃない!」

 パパからの反論は出ない。
 ぐうの音も出ない。

 そうだそうだ。

 親だ親だと言っているけど、フラータとは感覚が違いすぎる。

 確かに、見た目に似てるところはあるかもしれないけど、フラータはフラータだ。

 魔王の娘としてどうとか、知らない。

 知らない知らない知らない!

「もう知らない! こんなとこ出てってやる! バイバイパパ。二度と会わないと思うけどね」

「……好きにするがいい。魔王とその子は決して相容れぬ存在。理解し合えることなど、ないのだ……」

 知らない知らない。

 こんなとこ知らない。

「いいのですか魔王様。フラータ様が」

「構わん。アレはいずれ帰ってくる。無論、それはヤツが覚悟を決めた時やもしれぬがな」





 行くアテもなく、結局ダンジョンまで来ちゃった。

「今日はリストーマくん来ないのかな? 一人、さみしいな……」

 メイドのアルタラには育ててもらった感謝もあるし、いつも色々と話を聞いてもらってたのに、何も言わずに出てきちゃった……。

「はあーあ。ダンジョン、暗いな。中にならいるのかな。うさぎさんたちはお家かな……」

 これでよかったのかな。

 勢いで出てきちゃったけど……。

「ううん。これでよかったんだ。絶対。あんなところにいても、フラータは一生幸せにはなれない」

「フラータ……? ここにいるなんてめずらしいね。それに、なんだか悲しそう?」

「リストーマくん!?」

「大丈夫? 何かあったの?」

「リストーマくん!」

「え、な、なに!?」

 リストーマくんを見たら、なんだか涙が止まらなくて、泣き顔を見られるのはなんだか嫌で、胸に顔を押し付けてた。

 でも、リストーマくんは優しく抱きしめてくれて、なにも聞かずに黙ってそのままにしてくれた。
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