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第47話 逃げてったな
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血の跡を残して、体を引きずりながらもリトートは逃げていった。
剣はかすっただけだし、血が出ていたといっても少しだけだから、死ぬことはない。
僕が心配するようなことじゃない。
それにしても、驚きすぎてて驚いたな。剣聖からの扱いも丁寧だったから、ケガとかしてた記憶もないし、そのせいかな。
「ふぅ。これでこりてくれるといいんだけどなぁ。どうだろう」
「リストーマ様。ご無事ですか?」
「僕は大丈夫です。なんともありませんよ」
「そのような顔には見えませんが」
「え」
今日は心配そうにペタペタ触ってこないと思ったけど、僕の表情が違うのか。
「お優しいんですね」
「そんなことないですよ。本当に、そんなことないです」
「そんなことありますよ。普通なら、リストーマ様と同じ状況で、相手の心配なんてできません。周りがよく見えている証拠ですよ」
「でも……」
僕はただ、他人を切ることに抵抗があるだけだ。
勝負となると我を忘れるところもあるけど、でも、意図して切るのはやっぱり少し抵抗がある。
「え、えっと」
突然頭を撫でられて、つい目を見開いてしまった。
目の前の姫様がよく見える。
優しい笑顔でちょっと背伸びをしながら僕の頭を撫でてくれている。
「リストーマ様は優しいお方です。その優しさは美点ですよ。恥じることありませんし、否定することでもありません。それに、私を守ろうとしてくださったんです。優しくないわけないじゃないですか」
「ありがとうございます」
「ふふっ。やっとわかってくださいましたか?」
「はい。セスティーナのおかげで」
そうだ。姫様のことは守りたいと思っていた。
現に姫様を守ることができた。
それでよかったんだ。
「……ねえ、ここまで近くでよく見たら、あれって剣聖の子じゃないの?」
「……確かにな。よく見てみたら、さっき逃げたのもそうだ。どちらとも剣聖の息子だったとはな」
「……へー! ってことは兄弟ってこと? ケンカだったんだ。でも、実力がここまではっきりしてるなんてすごくない? 剣聖って思ったらちょっと見直しちゃったんだけど」
「……そうか」
「……逃げた方はなーんにもできなかったしね。やっぱり、ただのザコだった。ババアなんて言うからこんなことになるんだよ」
リトートとの戦いも終わり、姫様からありがたいお言葉をいただいた。
そんな時、視線を感じてその方を見てみると、女性たちがチラチラと見ていた。
って、そうだよ!
「あの。先ほどは助けていただき、ありがとうございました」
「「え?」」
「あ、えっと。街で」
「あ。ああ。い、いや! ……なんでも、ない」
「ちょっとは感謝して、痛いっ!」
「……す、すまない。コイツのことは無視してくれ」
「仲がいいんですね」
「よくない!」
「えー。冷たいなぁ」
「よくないからな」
以前はすぐに逃げられてしまったけど、今回は二人でいるからか、白い女性も落ち着いている。
黒い方の人も、なんだか嫌な雰囲気だった気がするけど、今はそれもない。
やはり仲がいいから、お互いがいることでリラックスできるのだろう。
「私からもお礼を言わせてください。リストーマ様を助けていただきありがとうございました」
「いや、本当に感謝されるほどのことはしていない」
「そんなことないって。ね、ちょっとは遊ぶ気に、痛い! そんなに叩かないでよ」
「黙れ。貴様が話すと話がややこしくなるんだ」
「何それ。どういう意味よ」
「まあまあ、落ち着いてください」
「……あ、ああ」
「はあ。本当、そこの子にはちょろいんだから……」
じゃれ合うほどには仲がいいみたいで、少しうらやましいなと思う。
僕には、そんな相手がいないから。
おっと、いけないいけない。
「試合の立ち合いまでしてもらって、本当にありがとうございました!」
「いや。ワタシたちとしても、あのような戦いを見せていただけたのです。感謝するならこちらの方ですよ」
「ワタシが話しているみたいに言うな!」
「痛い! ねえ痛いから!」
「あっはは」
お邪魔だったかな。
そもそも、こういう時ってどう感謝すればいいのか僕はよくわからないし。
どうしよう。
「……リストーマ様。ここは私に任せていただけませんか?」
「いいんですか?」
「はい。私の方からお礼をさせていただこうかと、少しお話もしたいですし」
「それじゃあお願いします」
女性だけの方が話しやすいこともあるだろうし、その方がいいだろう。
この人たちはなんだか信頼できる気がするし。
うん。ここは姫様に任せることにしよう。
「街までは送りますよ」
「……あ、ありがたい」
「ねえ、そのまま……冗談だってば! やめて!」
「ここまでで大丈夫ですか?」
上等なお店の並ぶ通りまでやって来た。
おそらく、この辺りがいいのだと思う。
女性たちの方も、簡素だけど光沢のある品のいい布をまとっているようだし。
「はい。ここからは私の仕事です」
「それではセスティーナ。お願いします」
「お任せください! リストーマ様は先に戻っていても大丈夫ですよ?」
「え、いや。それはさすがに」
「ご心配には及びません。お話を聞いてすぐに帰るだけです」
「……。わかりました。お気をつけて」
「もちろんです」
これでいいのか迷うけれど、僕は姫様に任せてその場から消えることにした。
「それでは、ありがとうございました」
「……あ、ああ。それじゃあ」
「えーもう終わりー?」
「いえ、私とこの店で少し」
「お、いいねー」
「迷惑だろう」
「相手が言ってる時は乗らないと余計迷惑なの。ね」
「迷惑とまでは思いませんが、さそいを受けてくださると嬉しいです」
「……。わかった」
大丈夫そう、かな?
剣はかすっただけだし、血が出ていたといっても少しだけだから、死ぬことはない。
僕が心配するようなことじゃない。
それにしても、驚きすぎてて驚いたな。剣聖からの扱いも丁寧だったから、ケガとかしてた記憶もないし、そのせいかな。
「ふぅ。これでこりてくれるといいんだけどなぁ。どうだろう」
「リストーマ様。ご無事ですか?」
「僕は大丈夫です。なんともありませんよ」
「そのような顔には見えませんが」
「え」
今日は心配そうにペタペタ触ってこないと思ったけど、僕の表情が違うのか。
「お優しいんですね」
「そんなことないですよ。本当に、そんなことないです」
「そんなことありますよ。普通なら、リストーマ様と同じ状況で、相手の心配なんてできません。周りがよく見えている証拠ですよ」
「でも……」
僕はただ、他人を切ることに抵抗があるだけだ。
勝負となると我を忘れるところもあるけど、でも、意図して切るのはやっぱり少し抵抗がある。
「え、えっと」
突然頭を撫でられて、つい目を見開いてしまった。
目の前の姫様がよく見える。
優しい笑顔でちょっと背伸びをしながら僕の頭を撫でてくれている。
「リストーマ様は優しいお方です。その優しさは美点ですよ。恥じることありませんし、否定することでもありません。それに、私を守ろうとしてくださったんです。優しくないわけないじゃないですか」
「ありがとうございます」
「ふふっ。やっとわかってくださいましたか?」
「はい。セスティーナのおかげで」
そうだ。姫様のことは守りたいと思っていた。
現に姫様を守ることができた。
それでよかったんだ。
「……ねえ、ここまで近くでよく見たら、あれって剣聖の子じゃないの?」
「……確かにな。よく見てみたら、さっき逃げたのもそうだ。どちらとも剣聖の息子だったとはな」
「……へー! ってことは兄弟ってこと? ケンカだったんだ。でも、実力がここまではっきりしてるなんてすごくない? 剣聖って思ったらちょっと見直しちゃったんだけど」
「……そうか」
「……逃げた方はなーんにもできなかったしね。やっぱり、ただのザコだった。ババアなんて言うからこんなことになるんだよ」
リトートとの戦いも終わり、姫様からありがたいお言葉をいただいた。
そんな時、視線を感じてその方を見てみると、女性たちがチラチラと見ていた。
って、そうだよ!
「あの。先ほどは助けていただき、ありがとうございました」
「「え?」」
「あ、えっと。街で」
「あ。ああ。い、いや! ……なんでも、ない」
「ちょっとは感謝して、痛いっ!」
「……す、すまない。コイツのことは無視してくれ」
「仲がいいんですね」
「よくない!」
「えー。冷たいなぁ」
「よくないからな」
以前はすぐに逃げられてしまったけど、今回は二人でいるからか、白い女性も落ち着いている。
黒い方の人も、なんだか嫌な雰囲気だった気がするけど、今はそれもない。
やはり仲がいいから、お互いがいることでリラックスできるのだろう。
「私からもお礼を言わせてください。リストーマ様を助けていただきありがとうございました」
「いや、本当に感謝されるほどのことはしていない」
「そんなことないって。ね、ちょっとは遊ぶ気に、痛い! そんなに叩かないでよ」
「黙れ。貴様が話すと話がややこしくなるんだ」
「何それ。どういう意味よ」
「まあまあ、落ち着いてください」
「……あ、ああ」
「はあ。本当、そこの子にはちょろいんだから……」
じゃれ合うほどには仲がいいみたいで、少しうらやましいなと思う。
僕には、そんな相手がいないから。
おっと、いけないいけない。
「試合の立ち合いまでしてもらって、本当にありがとうございました!」
「いや。ワタシたちとしても、あのような戦いを見せていただけたのです。感謝するならこちらの方ですよ」
「ワタシが話しているみたいに言うな!」
「痛い! ねえ痛いから!」
「あっはは」
お邪魔だったかな。
そもそも、こういう時ってどう感謝すればいいのか僕はよくわからないし。
どうしよう。
「……リストーマ様。ここは私に任せていただけませんか?」
「いいんですか?」
「はい。私の方からお礼をさせていただこうかと、少しお話もしたいですし」
「それじゃあお願いします」
女性だけの方が話しやすいこともあるだろうし、その方がいいだろう。
この人たちはなんだか信頼できる気がするし。
うん。ここは姫様に任せることにしよう。
「街までは送りますよ」
「……あ、ありがたい」
「ねえ、そのまま……冗談だってば! やめて!」
「ここまでで大丈夫ですか?」
上等なお店の並ぶ通りまでやって来た。
おそらく、この辺りがいいのだと思う。
女性たちの方も、簡素だけど光沢のある品のいい布をまとっているようだし。
「はい。ここからは私の仕事です」
「それではセスティーナ。お願いします」
「お任せください! リストーマ様は先に戻っていても大丈夫ですよ?」
「え、いや。それはさすがに」
「ご心配には及びません。お話を聞いてすぐに帰るだけです」
「……。わかりました。お気をつけて」
「もちろんです」
これでいいのか迷うけれど、僕は姫様に任せてその場から消えることにした。
「それでは、ありがとうございました」
「……あ、ああ。それじゃあ」
「えーもう終わりー?」
「いえ、私とこの店で少し」
「お、いいねー」
「迷惑だろう」
「相手が言ってる時は乗らないと余計迷惑なの。ね」
「迷惑とまでは思いませんが、さそいを受けてくださると嬉しいです」
「……。わかった」
大丈夫そう、かな?
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