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大きな戦いに挑もう
憑依してみよう
しおりを挟む瞳を開くと、俺を揺するサリス。
仕方なく伸びをしてから起き上がると、少し疲れ気味の表情を浮かべて告げてくる。
「で、できましたよ!」
「……ん? ああ、もうできたの?」
「イムさん、せめて見ていてくれません?」
「えー。まあ、おめでとう。それじゃあ、次のステップに行くからな」
結局サリスは、やる方を選んだ。
よく分からんが、とにかく覚悟を決めただの血塗られた道だとか言っていた気がする。
……俺、そんなに鬼畜なことを言ったつもりはまだ無かったんだけどな。
「第一段階、人形の操作。人と同じレベルの抵抗をする人形を操り、戦えるようにする。それぐらいはできたみたいだな」
「は、はい……ですが、その……大丈夫なんでしょうか?」
「えっと、何がだ?」
「で、ですから……あの人は」
あの人、とは傀儡君のことだろうか?
支配した【爆脚勇者】をどう呼ぶのか悩んだので、とりあえずそう呼ぶことにした。
今は精神魔法で意識を奪い、それなりの動きで人形の動きを捌くようにプログラムを入れておいてある。
「ずっとボーっとしてますけど……し、死んでませんよね?」
「まあ、別に死霊魔法は使えないわけじゃないが……安心しろ、思考が停止しているだけだから」
「それ、全然安心できません」
「じゃあ、ずっと喋っててほしいか? 意味も無い自慢話とか、俺に対する罵詈雑言をいつまでも延々と」
とはいえ、頭は休めていても体は人形との闘いでボロボロになっていた。
錬金術で作った自作ポーションをぶっ掛けて、暫定的な治療を行っておく。
「えっ、えー……」
「もう一回訊くけど、本当にコイツに自由意思を与えたいのか? 俺、絶対面倒なことになると思うけど」
「え、えっと……とりあえず、そのままに」
「あいよ、じゃあそういうことで」
同意の結果なので、これ以上とやかく言うことはあるまい。
まあ、それぐらい傀儡君が言っていたことに思うところがあったのだろう。
「それじゃあ第二段階に行くぞ」
「は、はい!」
「第二段階はこれ──傀儡君を操って正気に戻す。これが終わるまで俺は寝る」
「は、は……はい?」
分かってくれたようで何より。
先ほどまで使っていた布団に潜り込み、改めて意識を落とす。
「えっ、ちょ、ちょっとイムさん! ねぇ、起きてくださいよぉ!」
そんな声が落ちる寸前に聞こえた気がしないでもないが……まあ、なんとかなるか。
ちゃんとアラームはセットしてあるし、それまでは別の場所に行っておこう。
◆ □ ◆ □ ◆
「──憑依完了っと」
分身の俺は、全員が仕方なく戦っている。
なので憑依をしようとしても、嬉々として休むために主導権を譲ってくるのだ。
すでに当選確率が一万分の一を超えている抽選に見事選ばれた分身の体を使い、サリスから離れて活動を行っていた。
「さて、スキルは……(作造戦場)? ああ、全然俺に必要ないスキルみたいだな」
一人一つずつスキルをコピーしようとしているのだが、どうやらこの『俺』はすでにコピーを終わらせているようだ。
ちなみにその効果は、戦闘中に行う生産活動に絶大な補正を掛けることらしい。
戦場でも活躍できる生産系の誰かが、このスキルを使っていたのだろう。
「何か居ないかな……暇潰しなんだから、弱そうなヤツだといいんだ──」
「見つけたぞ!」
「……何を?」
声がする方を向いてみれば、いかにもな男女比をしたハーレムパーティーが。
女五人ほどを侍らせた男は、剣の切っ先をこちらに向けて叫ぶ。
「我が神、──に反する英勇、その力を奪い我が神に献上させてもらう!」
「昨今の勇者ぽい奴って、そんなことを言うのか……えー、なんか興醒め」
「ちょっと、──様の話を聞きなさい!」
『そーよ、そーよ!』
取り巻きの女たちが実にウザい。
けど、こういうヤツらでもスキル的な意味では金の卵なんだよな……本当、現実っていつだって残酷だよ。
「ふっふっふ、はーっはっは、よくぞわれをみつけだしたなー。さあ、いまこそしょうぶのときー!」
「……なんだ、あの棒読みは。お前、僕たちのことを舐めているのか!」
「……ハァ。嫌だよ、お前らみたいな性病に罹ってそうな奴らを舐めるなんて。どうせいつも同じベットでイチャコライチャコラしているんだし、そういう病気に罹っているんだろう? あー、やだやだ」
「──ッ! 僕のことだけでなく、────たちのことまで! 許せない、絶対にお前だけは許さないからな!!」
事実を突き付けられただけで、男は切れ始める……解晰夢で視た結果なんだ、事実を認めてもらいたい。
ああ、ちなみに男は罹っていない。
神の祝福って便利だな……けど、ハーレムプレイはやっぱりしているので、粘膜接触の結果として他のヤツには移っているんだよ。
「そうだ、ちょうど暇なんだからこいつらのためにポーションでも作ってやろう。うん、お礼は貰っているんだし、第二段階はすぐには終わらないだろう。よかったな、お前ら」
「──行くぞ、みんな!」
『はい!』
こうして、女たちの病を賭けた熱き戦いが今幕を開くのだった……。
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