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大きな戦いに挑もう
人形で遊ばせよう
しおりを挟む道具を扱うことに長けたサリス、だがその才能はスキルとしてステータスに表示されていないので少し困った。
ゲームで言うところのPS──つまりスキルとは関係なく、本人の資質が発揮される能力……こっちの世界だと認識しづらいな。
だがそれでも、道具ならいいか……とやや面倒になった思考を凝らし、あるアイテムを製作した。
「──よし、これを使ってくれ」
「あ、あの……これって……」
「見て分からないのか? なら、面倒だがいちおう最初から説明しようか……」
「そ、そうじゃなくて──糸、ですよね?」
サリスに渡したのは色とりどりの糸だ。
さすがは異世界ということもあり、その色ごとに特殊な効果が付随されている。
「先に、使うかどうかは別にしてだぞ。お前はそれを上手く使えそうか?」
「えっ? …………は、はい。上手く魔力を通すこともできますので、使い方さえ教えていただければ使えます」
「……さすがだな。まあいいや、それじゃあ使い方を説明するぞ──これに糸を繋げ」
「えっと……お人形、ですか?」
お人形、と言われるほど可愛いデザインにした覚えはない。
異空間収納スキルで取りだしたのは、木や金属などさまざまな素材で作った人形だ。
メイド俺のアイテムなので、全部顔は穴だけとかそんな適当な感じである。
……奴隷たちのスキルを試すついでにいろいろ経験済みで、見た目度外視なら作れた。
「魔力回路だけは通してある。この中で、どれが一番使いやすいかを試したいんだが……これもとりあえずだ、やってみろ」
「は、はい」
言われるがまま、サリスは人形に糸を繋いで魔力を通す。
すると人形たちは不自然な挙動で立ち上がり、直立する体勢を取る。
「で、できました。あ、あの、もう少し練習すれば、もっと上手く動かせます」
「……本当に、天才っているんだな。それでだ、どれが一番使いやすかった?」
「それだと…………この子、ですね」
「ああ、それか……」
どういった素材を使ったかを分かりやすくするため、人形たちの表面は素材そのものといった感じだ。
そしてサリスが指したのは、もっとも人間らしい人形。
人のような肌があり、内部から素材をふんだんに使っているヤツだ。
「それな、人族が素材なんだ」
「…………えっ?」
「ああ、誤解しないでくれよ。別に生きた人間から剥ぎ取ったわけでも、死体を人形にしたとかそういうことでもない。協力者の皮膚から培養した人工皮膚なんだ。まあ、要するに模造品だな」
「えっ、あぅ……」
協力者、のお蔭で大量に持っている。
多様な種族の物があるのでだが、今回は普人版の通常スペック人形にしておいた。
「それを作るのに誰かが死んだわけでも、死者を冒涜したわけでもないから安心……すればいいんじゃないか?」
「ど、どうして疑問形なんですか!?」
「俺自身がどうでもいいと思っているからだな。さて、やっぱり魔力は通せた方が効率はいいみたいだ。なら、人形はやっぱり人族を使った方がいいか」
「えっ、ええ──ッ!?」
魔力回路を刻むこと自体は、どの人形でもできたが……やはり、もともと人の方が魔力の通しやすいのでもっとも操りやすいのもまた、人族という結論に至る。
「まあ、問題は抵抗だな。けど、お前は達人だからな……たぶん、なんとかなるだろう」
「で、できませんよ!?」
「考えてみろよ。抵抗ってのは、閉じた鍵穴みたいなものだ。針金を使って開けられるような物なんだから、お前の超絶技巧を使えばサクッと解除できるだろう──はい次、今度はこっちをやってみろ」
「……また、人を使ったのですか? しかも今度は、こんなにそっくりに……」
普人を再現した人形を用意してみた。
ただまあ、顔のサンプルは面倒臭かったので、見た目が良かった聖人の遺骸から型を取り張り付けた物を使用している。
素材は厳選し、回路も古山人のファ……奴隷に作らせた特注のヤツ。
擬似的に他からの干渉を拒む仕様なので、今回のテストに最適だ。
「ああもう、気にするな。お前は強くなりたい、自分の望む【英雄】になりたい……そうなんじゃないか? 別にお前を悪用したいわけじゃない、ただサンプルが欲しいだけだ」
「サンプル、ですか?」
「そうだ。俺は力を貸す、だからお前はその力を使える姿を見せてほしい。それだけで、俺はもっと上を目指せる……こんな理由なんだが、それでも手伝ってほしい」
「…………」
催眠魔法で従わせることも考えたが、やはり【英雄】にどう作用するか謎な点が多いので止めておいた。
代わりにするのはぶっちゃけ話。
どうせ失敗してもやり直しは効くので、今の内に本性を晒しておく。
「いいか、俺は【導士】だ」
「…………え゛っ?」
「だから初めて会ったとき、狙われていた。サリスよりも上物だからな、寝ていて無防備なヤツなんて」
「で、でも……反応は?」
目印でもあるのか、【導士】を冠する職業はこの空間だと認識されるとその存在を認知できるシステムが備わっている。
「魔法で隠した。そういうものもある、そこはいちおう生命線でもあるから内緒だぞ」
「そ、そうですか……」
「さて、言うべきことはだいたい言った……協力してくれるか──お人形遊びに?」
はて、サリスの解答はいかほどに。
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