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大きな戦いに挑もう

奇襲から逃れよう

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「ふぅ……さっぱりしたぁ」

 風呂に入って体を綺麗にした。
 分身体が苦労しているのに……なんてことも気にせず、心の底から満喫したよ。

「あっ、イムさん」

「なんだ、まだ起きてたのか」

「は、はい……や、やっぱり、なんだか眠れなくて……」

「ん? まあ、そうか。慣れない環境だと、なかなか寝付けないもんな」

 うんうん、激しく同意だ。
 今じゃすぐに寝付ける魔法やスキルがあるが、俺にだって寝たくても寝れないようなこともあったな。

 そんな眠れぬ少女──サリスは、リビングにて温かなココアを飲んでいる。
 さすがはチート能力、置いておいた魔道具の作り方を勝手に理解したのか。

「まあ、そういうときは慣れている寝具を揃えておくべきだったな。家族が用意したアイテムの中に、その類は無かったのか?」

「さ、さすがにそれはちょっと……休める場所は魔道具で確保できますが、その中を快適にする魔道具はありません」

「…………休める場所を確保できる魔道具、だって? ちょっと、見せてくれないか?」

「わ、分かりました……そ、そんなにイイ物でしょうか?」

 価値が分かっていないサリスを促し、素晴らしいアイテムを取り出してもらう。
 それは少し大きめのレジャーマットのような魔道具で、特殊な布でできているようだ。

「え、えっと、『安寧の敷布』といって、認識偽装、侵入忌避、疑似聖域などの効果が籠められた……いちおう国宝級の魔道具です」

「これが国宝級か……ああ、なるほどたしかに凄まじい魔力が籠もっているな」

 うちでも魔道具担当のファーレがいろんなこと魔道具を作っており、その過程で俺自身もある程度魔道具に詳しくなっていた。

 複数の効果を持っている時点でまず価値が高く、それが全部優れた能力の場合……その価値は一気に跳ね上がる。

 まず作れる奴が少なく、素材が高く、時間がかなり掛かるからだな。
 他にも自然回復の速度を上げたり、防御結界の構築もあるようだ。

「で、ですけど、イムさんの造ったこの場所の方が凄いですよ。とっても温かくて、前に使ったときなんてただただ寒かったです」

「ん? 寒いって、環境の一定化も効果に含まれていただろう?」

「い、いえ、そうではなくて……こう、誰かと居るのって楽しいですね」

「そうか? まあ、そろそろ寝たほうがいいだろう。明日は何があるか分からないから、英気を養っておいたほうがいい」

 相手は神の力を賜った猛者たちで、どんな能力を持っているか分からない者が多い。
 分身体が攪乱をしているものの、いつまで持つか……たぶんそう長くはないだろう。

「拠点も放棄して細工するから、戻ってくることもない。だから寝ておけ……って、そういえば寝具はないんだったな。とりあえず俺のストックを渡しておくから、それを使ってぐっすり寝ておけ」

「あっ、はい」

「それじゃあ、おやすみなさい。俺の部屋以外は好きな場所を使っていいから、その寝具で寝ろよ──じゃあなー」

「お、おやすみなさい……」

 元は自宅を再現した場所なので、目的地は目を瞑っていてもすぐに向かえる。
 用意された俺用の布団の中に潜り込み……ぐっすりと就寝だ。

「はぁ……『おやすみ』」

 もちろん、暗示も掛けてな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「おい、起きろ」

「……ん? 知らない天井だ」

「当たり前だろ、俺なんだから」

「俺……ああ、分身だっけ?」

 警護用に増やしておいた分身が、どうやら俺を叩き起こしたようだ。
 いったい何が……と思ったのだが、その理由もすぐに分かった。

「……ちょっと、時間を稼いでくれ」

「はいはい、分かった分かった。けど、俺だからそんなに持たないぞ」

「分身の数も増やしておくか……守ると決めたからには、【英雄】を暴くまではそのまま守り抜かないとな」

「あいよっ、任せておけ。もちろん、そんなに時間は持たないがな」

 そういって、ポーズを決めて部屋の窓から出ていく分身。
 その数秒後、戦闘音が鳴り響いていく……だいぶ近くまで来ていたようだな。

「──というわけで、すぐに逃げるぞ」

 ちょうど妹の部屋を選んでいたサリスをドアの外から叩き起こして状況を伝えた。
 あまり時間もないので、移動しながら話を進めていく。

「も、もう来ているんですか!?」

「空間魔法は……ダメそうだな、もう封じられている。いちおう掘っておいた隠し通路から逃げるから、ついて来いよ」

 土魔法で掘っておいた隠し通路を掘り起こし、そこから奥へ進む。
 刺客に警戒したが、問題なく進むことができた……そして、出口に辿り着く。

「敵は……居ないな。もう来ていいぞ」

「は、はい……た、助かりました」

「気にするな。俺にとっても価値のあることだし……っと、少し下がれ」

「えっ? わ、分か──ッ!」

 遅いので服を掴んで引っ張り上げる。
 しかし、サリスがそのことをツッコむことはない……それ以上の危機が、先ほどまでいた場所に降り注いでいたからだ。

「マジか……もうバレたのか?」

「えっと、あの……これは、いったい」

「すぐに分かるさ。ほら、もう来た」

 ふと空を見上げれば、サリスに攻撃した張本人が現れていた。
 さて、いったい何をしに来たんだか……。

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