109 / 121
大きな戦いに挑もう
起こしてもらおう
しおりを挟む新スキル“存在分身”。
その一人ひとりが自我を持っているので、独立した行動を取れる。
暗黒魔法によって【導士】とバレなくなったので、分身がどれだけ姿を現しても狙われることは無くなった。
「あっ、また殺された」
だがまあ、戦場に雑魚が居れば容赦なく潰すのが基本だと俺でも理解できる。
分身体は本体よりも魔力の保有量が少ないため、魔法の応用もやれないで殺された。
「へぇ、面白い能力だな」
ちょうど今回の分身死亡によって、正式な形で(存在分身)スキルを習得したようだ。
なので新しくスキルを“解晰夢”を使ってコピーして、それを……。
「また殺された……あれ? 分身体はまだ、コピーが変更されてなかったのか?」
「みたいだな。分身体の俺は重ね掛けして分身できないみたいだが、“解晰夢”の書き換えはできるみたいだぞ」
「マジか……これはいいスキルを拾ったな」
ただし、[称号]はコピーできなかったようで、一度にコピーできる数は減っている。
それでも数で補えばコピーできる数は増えるので、一つでも充分だ。
「それじゃあ、お前はさっきのスキルをやってくれ。俺は……寝てるからさ」
「マジか。俺にその権利を譲ってくれよ」
「一番魔力量の多いヤツがやらないと、回復が見込めないだろう」
「……仕方ない、今回は諦めてやるよ」
分身体は仕方なく、ここから去っていく。
俺は異空間収納スキルから枕と布団を用意して、スッと眠り始める。
魔物の素材を使った特殊素材なので、ここに居るだけで回復は通常の何十倍もの速度で行われていく……らしい。
「分身に籠める魔力が多ければ多いほど、長生きするからな……『一定量の魔力が溜まるごとに、分身していけ』」
これで勝手にやってくれるだろう。
ついでに分身へ暗示という形で指示を刻み込み、行動を定めてくれる。
「さぁて、『おやすみ』……」
危機的な状況にでもならない限り、俺が起きることはないだろう。
戦場のど真ん中で眠りにつく……ちょっとロマンがある気がするな。
◆ □ ◆ □ ◆
「あ、あの、お、起きてください!」
「……んぁあ? 誰だ、お前……」
目を開けた俺の視界にどアップで映りだされるのは、黒髪黒目の少女だ。
一瞬、同朋だと思ったが……その顔立ちだけは西洋風だった。
「へっ? あっ、わ、わたしは……って、今はそんなこと言っている場合じゃないんですよ! ほ、ほら、早く逃げましょう!」
「逃げる? なんで……ああ」
分身ができる間のタイミングで起きてしまい、対処できなかったようだ。
危機感知を寝たいがために付けてなかったので、それに気づけなかった。
「どうして、起こしてくれたんだ?」
「だ、だって……困っている人がいたら、助けるのが普通じゃないですか」
「…………そうか、偉いんだなお前は」
「そ、そんな……わたしは偉くなんてありませんよ。って、だからそんなこと言っている場合じゃありませんよ! ほ、ほら、いろんな人が来ています!」
ここに居る者たちは、自分と敵対する奴を倒して力を得ようとしている。
なので、とりあえず知らない奴は殺す……ぐらいの判断で倒しているのだ。
そんな中、戦場のど真ん中で寝ているバカが一人……うん、間違いなく殺すな。
起こそうとする目の前の少女が異常なだけで、それが正常な判断だ。
「……ある程度稼いでいるな。とりあえず、俺のどこかに掴まれ」
「えっ? ど、どうしてですか?」
「いいから。早くしないと、俺ともども殺されるんじゃないか?」
「は、はい!」
ギュッと体ごと抱き着いてくる少女。
ここは普通、服の端とか手だけとかそういう感じだと思っていたんだが……まさか背中から密着されるとはな。
年頃の男であれば興奮するんだろうが、催眠があるので冷めた精神を保てている。
ただ、そうじゃない場合どう反応したのか謎なんだよな……どうなんだろう?
「まあいいか──“空間移動”」
「く、空間魔法!?」
「連続して使うから、舌を噛まないようにしろよ──“連続詠唱”、“置換詠唱”」
二つの詠唱系スキルを行使し、何度も何度も転移して逃げ出す。
先ほどのように幸運スキルが警戒をしてこないので、安心して使用できる。
魔法の発動条件を置き換えることで、仕草一つで詠唱を行わずに魔法を使う。
転移は貴重な魔法、使えば使うほど魔力の消費が激しい。
だが、回復は済ませてある。
一定量になったら分身していたが、少しは温存できるペースにしておいたからな。
「……って、やっぱりまだ追ってくるか。便利なスキルがいっぱいだな、おい」
「あ、あの、何か投げる物を持っていませんか? で、できれば固い物を!」
「ん? なら……これを使ってくれ」
「これは……これなら、いけます!」
俺が渡したアイテム……巨大な金属球を握り締める少女。
明らかに手で持てるサイズではないが、魔力で張り付けているようだ。
「はぁああああ──“千華繚嵐”!」
この場に居ることで分かっていたが、この少女も潜在能力は凄まじいようだ。
ただの金属であったはずなのに、なぜか分身して追ってくる奴らを吹き飛ばしていく。
……まあ、とりあえず逃げられればそれでいいか。
細かい質問はそれからでも構わないし、逃げるが勝ちとはこのことだな。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。
大前野 誠也
ファンタジー
ー
子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。
しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。
異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。
そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。
追放された森で2人がであったのは――
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する
あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。
俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて
まるでない、凡愚で普通の人種だった。
そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。
だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が
勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。
自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の
関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に
衝撃な展開が舞い込んできた。
そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる