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大きな戦いに挑もう

突然誘われよう

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 アプリ開発は順調らしい。
 すぐに俺の平凡でありふれた異世界知識は不要となり、えっと……ファーレ? は単独で解析作業を行うようになった。

「何をすればいいかな……迷宮でも行くか」

 俺がやらなければならないこと、なんてものは何一つ存在しない。
 なので今日も今日とて、思い付きのままにやりたいことのみをやっていく。

「この世界はいいよなあ、暇を潰すために迷宮を間引くだけでそいつは優秀な冒険者扱いなんだからな」

 ユウキのような【勇者】の振る舞いを求められている者でさえ、決して絶対に必要というわけではない──死ねば代わりは居る、居なければ創られるだけのこと。

 なぜなら【勇者】の根本的な使命は、成長した【魔王】を討伐すること。
 だがそれを失ってしまえば……【勇者】の価値はただ強い人族という点だけ。

 創作物でも定番の流れだが、【魔王】亡き後の【勇者】など力を持つ怪物そのもの。
 飼い殺しか抹殺か、いづれにせよロクな生き方など選べなくなる。

「だからこそ、暇を潰すために迷宮へ向かう俺も褒められた行動をしているって言える。ほどほどの成果で有用さを示せる」

 王からの呼び出しをバックレているのは、あのメイド密偵──リディアがどこからともなく脅してくるからだ。

 しかしそれも、何もしないでグータラしているときだけで……真面目に何かしているのならば、わざわざ呼びになんて来ない。

「うん、別に怖くているわけじゃないんだ。ただただ時間を潰すためなんだからな」

 ツンデレというわけでもなく、普通に避けたい相手なのだ。
 まあ、これはどれだけレベルを上げても変わらない気がするけど。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そんなこんなで迷宮に行ったはずだ。
 しかし現在の俺は迷宮ではなく、戦場のど真ん中に立っていた。

「……へっ?」

 目の前には、戦場へ移動してしまった理由である[メニュー]画面が表示されている。

 適当に操作したのが不味かったのかもしれない……いや、思念操作だったから気になった部分を押してしまったんだ。

  □   ◆   □   ◆   □
        複合詩篇

  ~聖人詩篇・種族詩篇・魔王詩篇~

     物語は動き出します
 【導士】の介入が許諾されております

      参戦しますか?

      [YES/NO]

  □   ◆   □   ◆   □

 そして思った、『はいYEイイエS』と。
 これだとどうなるか、純粋な疑問だったのだが……普通に肯定されてしまった。

「まず、ここはどこなんだ?」

 そもそもである。
 あえて魔力反応が大量にある眼下は見ないで、それ以外の場所を把握していく。

 俺が居る場所は崖の上で、後ろには森が広がっている。
 空は禍々しい渦模様を描き、見渡す限り辺りは真っ新な大地だ。

「──“空間転位リロケート”」

 もともと居たあの国の屋敷。
 あそこに設置した転位用の魔法陣を意識して発動しようとすると、何となくだが必要な魔力を察することができる。

 その消費量はかなり多く、今の俺ではすぐに還ることができないことが分かった。
 ここはどうやら、日本とアメリカぐらいの距離があるようだ……つまりかなり遠い。

「時間を掛ければ戻れるけど……さて、そろそろ覚悟を決めて下を見るか」

 鳴り響く音や立ち込める土煙から目を逸らしていたが、いい加減状況を確認しないと。
 もしもに備え、暗示コマンドを適当に唱えてから移動する。

 崖の下を見る……人と魔物、それに魔族の軍勢が殺し合いを行っていた。
 魔法や武技のエフェクトが至る所で舞っており、破壊活動が大地を汚していく。

「人の集まりか……なんか渋谷みたいだな」

 いや、言ったことはないけどさ。
 テレビでよく観ていた交差点みたいな混み具合に、そんなことしか感じられない。

「【魔王】はこんなことがあるなんて言ってなかったし……そもそもここは、同じ大陸なのかどうか微妙だな。クラスメイトが一人でも居れば、確証が持てるんだけどな」

 さすがに召喚した国も、大陸を支配してもいないのに別大陸を侵略しようとは思ってはいないだろう。

 そんなクラスメイトが居るか居ないかで、ここが別大陸がどうかが分かる。

「さっきの詩篇だか何かが理由でここに呼び出されたわけだけど……俺が介入して、何か起こるわけでもないんだよな」

 詩篇云々がそもそも意味不明なんだが……それに関してはどうでもいい。
 聖人は聖属性の武術と魔法で、魔王は暗黒魔法、種族はしもべが理由と分かっているし。

 説明は面倒だからしないけど。
 まあ要するに、ある意味自業自得……楽するためにしてきた行動が、こんなよく分からない事態を引き起こしている。

「さて、俺もやるべきことをやるか……まずは観察からだな」

 俺の固有スキル【停導士】。
 その能力の一つである(解晰夢)は、観た夢に出た者が使うスキルをコピーできる。

 しかしそれをするためには、ある程度眺めておかなければならない。
 一瞬の邂逅では凡庸なスキルが限界、貴重なスキルが欲しいなら観察が必須である。

 加えて、スキルを使った長距離からの傍観ではなく、直接視認しなければ夢で見ることもできない……だからこそ、もっと近くに行かなければダメなわけだな。

「けどまあ、いつまでもここにいると狙われるし……っと、もう来たか」

 空を飛ぶ魔物が俺の下に現れ、勢いよくこちらへ突っ込んでくる。
 まだどういう関係性か分からないので、とりあえず殺さないで崖から降りて回避した。

「物語が動き出す、か……[メニュー]とかでだいたい分かっていたけど、これが仕組まれたものなのかそうじゃないのか。物語って部分で分かっちゃうよな」

 もうすぐ崖の下に辿り着く。
 大量に持っている身体強化スキルを暗示コマンドで施し、加えて魔法も重ね掛けすることで一発ぐらいでは死なない体になる。

「物語に載るぐらいの戦いだ。さぞかし優秀なスキルが揃っているんだろうな」

 それこそだいぶ面倒だろうが……乗り越えられるだけの力があるかどうか、保険を掛けてから試しておくべきだな。

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