上 下
101 / 122
大きな戦いに挑もう

外で焼こう

しおりを挟む


「……えっ、なんだって?」

『魔王様がお呼びですよ』

「…………眠い、パスする」

 高速思考と並列思考、二つの修練をやっていると体ではなく頭や心が疲労する。
 精神を回復させる魔法もあるにはあるが、それで治せないのがスキルの過負荷だ。

 何度も失敗し、強制的に思考を停止させ続けた結果……ガチの疲労困憊である。
 なので今日の俺は普段の面倒だから動かない、のではなく動けないから動かないのだ。

『そういうわけにはいきません』

「いや、動けないんだって」

『……分かりました。そういうことなのであれば、魔王様より受けていた指示通りに行わせていただきます』

「……へっ?」

 ガタッと揺れる俺のベッド。
 先ほどより天井が近づいたかと思えば、シミの位置がズレる……というより、ベッドが動いていた。

『直接運びます。申し訳ありませんが、少しの揺れは我慢してください』

「…………あー、うん。好きにしてくれ」

 残念だが、俺に抵抗する術は無い。
 もう少し休めば、安定するのだが……まだ思考は正常ではないのだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「わーおー。いつかそうなるんだろうと思って伝えておいたけど、まさか本当にそういう会い方をするなんてねー」

「……来てたのかよ」

「いやいや、そんなわけないよ。連絡を受けて転移してきたんだよ」

「へー、そうなのか」

 さすがに魔王城まで輸送するなんてことはなく、運ばれたのは談話室。
 そこでうちの幽霊にもてなされ、茶を啜る魔王に声を掛ける……ベットの上から。

「このままでいいか? 悪いが、最近寝不足でな。体を動かすのも面倒臭い」

「……ふーん。ここは結界のせいで見れないから何も言えないけど、頑張り過ぎは体に毒だよ。よければ一発楽にしとくかい?」

「要らん要らん。そうだな、優しくしてくれるなら一つ願いがあるんだが──」

「帰ってくれ、という話以外なら少しは聞いてあげるけど?」

 思いっきりバレていたが、ゆっくり考えればそれなりに思考を回せられる。

 二つの思考能力を磨いた結果、スキルを起動させずとも元の思考能力を上げることに成功したからだ。

「なら、旨い物が食べたいな。魔物って、強ければ強いほど旨いんだろ?」

「うん、それなら問題ないよ。ただ、相応の料理人が必要になるから城に来てもらうことになるけど……」

「いや、連れてきてくれよ。どうせなら、四天王もセットで連れてきて、バーベキューでパーティーでもするか?」

「ばーべーきゅー……たしか、親しい間柄の者たちが集まって、外で食べ物を焼く行為を楽しむことだっけ?」

 そういうものだったか?
 改めて定義を問われると、正直どんなものだったのか分からない。

 覚えている覚えていないの問題ではなく、知っているかどうかの問題だ。

「あのさ、送迎はこっちでやるからやっぱりお城でやらない? ほら、ここだと他の人に目を付けられることになるよ?」

「それぐらい、悪魔がなんとかできるだろ」

「言ってくれるね。けど、その期待には応えられないから考慮して」

「……旨い物、出るんだろうな」

 もちろん、と答えた魔王に結論が定まる。
 この後俺は身支度をして、異形の存在に連れられて魔王城へ乗り込んだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「あれ、避けられてる?」

 魔王指揮の下、バーベキューが始まった。
 青い空、白い雲、温かな日差しがなかなかに優雅な時間を作り上げ……まあ、魔王が天候を操作し、強引にそうしたのだけれども。

 そんな中、誘っておいた四天王が集まっていたのだが……全員が俺から距離を取り、すぐに魔王と合流できる場所に居る。

「ああ、うん。やっちまったからな……あの時の俺は、いろいろとダメだった」

 自身の精神を調整し、熱血モノ並みのテンションでボコっていたな。
 まあ、それを観戦していた魔族には満足してもらったのだからそれで充分だろう。

「……まあ、どうでもいいか」

 これが主人公とかだったら、接点を持ってわざわざ仲良くなりに行く展開なんだろうけど、そうする理由も必要もないので放置だ。

 ちょうど持ってきてくれた肉串を、魔王城付きの侍従から受け取り頬張る。
 中から溢れ出す肉汁が……なんて食レポは割愛、感想はシンプルに一言。

「旨いな……」

「そう言ってもらえて何よりだよ」

「魔王か」

「その肉は……なんて細かいことは求めてなさそうだね、いちおう言っておくと魔竜の肉なんだよ。普通の竜と違って、狂っているから殺しても文句は言われない」

 竜の肉は旨いとされるが、正常な個体を殺すとどこかにあるとされる竜の国と揉めるんだとか。

 だが、魔竜は最初から竜ではあるが竜では無い存在として扱われるらしい。
 ……言葉の意味は分からんが、わざわざそれを言う意味ならば分かる。

「で、それを狩れと?」

「さぁて、どうだろうね」

「……まあ、うちにはワイバーンが居るから竜の肉には困らないんだけどな。再生できるものなんだから、ステーキも時間さえあれば喰い放題だ」

「そ、それはちょっと……可哀想だね」

 可哀想、とは言っているが悪いとは一言も言っていないこの魔王。

 もし食料難とかそういう状況に至ったら、間違いなくそういう部位を切って再生させるとか、そういう手段に出るんだろうな。

「けど、そっか……そういう手も……」

 ──だって、思案しているのだもの。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします! 感想待ってます! まずは一読だけでも!! ───────  なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。    しかし、そんなオレの平凡もここまで。  ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。  そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。  使えるものは全て使う。  こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。  そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。  そしていつの日か、彼は……。  カクヨムにも連載中  小説家になろうにも連載中

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

召喚されし帝国

特等
ファンタジー
死した魂を新たな世界へと送り出す事を使命とするある一人の神は、来る日も来る日も似たような人間を転生させることに飽き飽きした。 そんな時、神はある事を思いついた。 それは、死する運命にある国家を異世界へと転送させると言う、とんでも無い計画であった。 そして、その異世界転送国家として選ばれたのは、現代日本でも、アメリカでも無く、まさかの世界史に大きな悪名を轟かせた地獄の帝国 悪魔の独裁者の一人、アドルフ・ヒトラー率いるナチス第三帝国、そしてそんな地獄の帝国に追随する国々により支配され、正にこの世の地獄と化した1944年、ノルマンディー上陸作戦直前の、ヨーロッパであった。 果たして、狂気と差別にまみれ、殺戮の大地と化したヨーロッパの大地を向かい入れた世界は、果たしてどこに向かうのか。 ※この作品は、自分がハーメルンで同名のペンネームとタイトルで投稿している、二次作からインスピレーションを得た作品です。 なお、なろうとカクヨムにても、同じ作品を投稿中です。

処理中です...