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外国へ遊びに行こう
犬に案内されよう
しおりを挟むこの国の空は少々薄暗い。
世界の法則がどうなっているのか分からないが、少なくともこっちに来てから清々しいほどの青空を拝んだことはない。
なんてことを、アッシー君……じゃなくてアシに乗りながら思う今日この頃。
太陽拳とか使ったら、わりと効果がありそうなんだよな。
『理不尽っス!』
「ああ、はいはい。もう聞き飽きた。ついでに息吹の一発でも吐いておけ」
『嫌っスよ! もしそんなことしたら……』
「そりゃあ害悪ってことで殺されるさ」
いつも通りアシをからかい、魔王城に直接乗りつける。
魔族の国は空を飛べるような者たちも多くいるので、少し寛大なのだ。
一番魔王の間に近い滑走路のような場所へ降り立つと、アシを送還して城を歩く。
頭を下げる兵士や侍従たちに挨拶をし、目的地となる魔王の部屋に辿り着く。
「邪魔するぞー、用事って……ん?」
呼んだのは魔王なので、わざわざアポを取り付ける必要もない。
堂々と扉を開き中に入ると……先客が魔王と話していた。
『ですから、……を……さいと』
『……れても、……は……だ。そう……には無理だ』
頭部が犬、百パーセント犬だ。
俺の知識を当て嵌めるなら、『犬頭人』とでも定義しそうな奴が魔王に叫んでいる。
たしかあれは、シベリアンハスキーとかいう犬種だったか?
だが、魔王はそれを拒んでいるようだ。
そして、こちらを見て……笑った。
「──細かい話は、本人とつけるのがよいだろう。ちょうど、現れたのだからな」
当然ながら、不敵な笑みだがな。
話を聞き終えた。
犬頭人……犬と同じように魔王を立って睨みながら、聞いた内容を纏める。
「つまり、こっちの奴が俺を呼んだ目的だったと……そしてお前は、俺を森に呼ぶためにここに来た使者だと」
「そういうことだ。こちらにいるシベリアル殿は、我との中継役でもある」
「私たちの神、『サーベラス』様がイム殿をお呼びです。ご同行願います」
「サーベラス、ねぇ……」
本当はやる気が無かったのだが、神様に会うという展開とその名前にほんの少しだけ興味が湧いた。
細かい説明はどうでもいいので聞きそびれたが、まあ気にせずとも話は理解できただろうから気にしないでおく。
「それで、俺が呼ばれたのは分かる……だが行く理由は無いな。行ったら金でも貰えるのか? それとも、加護でもくれるのか?」
「貴様!」
「落ち着け、シベリアル殿。イムも、あまり挑発しないでほしいな」
「いや、割と本気だぞ」
興味を持っていないのは事実だし、どうせ報酬が釣れるならそっちの方がいい。
いつか見に行こうと思っていたのだし、不法侵入よりはマシなんだが。
「……こちらから、礼は出そう。大使であるイムを動かすのだからな」
「そうか。なら、準備をしてから行ってやるよ。おい、いつにする?」
「……準備ができたら森に来い。迎えはそのときに送る」
あいあい、と答えて部屋を出た。
閉まる扉の隙間からチラリと見たら、魔王は楽しそうに笑っていた気がする。
犬は……憎々しげにこちらを睨んでいた。
◆ □ ◆ □ ◆
バックレるという選択肢もあったが、魔王からの報酬が気になるので行くことにする。
ただし、それは可能な限り早く……つまり出てすぐのことだ。
「改めて来たが、やっぱり神々しいな。この力も模倣できるのか……嬉しいお土産だ」
まあ、おそらく俺の解析はあっさりと弾かれるんだろうけど。
そういった実例があるので、確信できる。
そう、悪魔に守られた魔王は、抵抗が強くまだ解析できていない。
……嫌味なことに、それに気づいておりステータスにメッセージを残すぐらいだし。
「お客様のご到着ですよー、お迎えはまだですかー?」
わざとらしくコールしてみる。
インターホンなんて代物はないが、犬と同じようなスペックの種族であれば……。
「──お待ちしておりました、イム殿。迎えにはシベリアルを送ったはずですが……」
「少々理由があってな。そこについては、彼にそちらから確認してもらいたい。だが、あちらに問題があったわけじゃない、それは承知してもらおうか」
「そうですか、確認はあとで行いましょう。今はイム殿の案内を優先します」
再びの犬頭……種族として、『犬頭人』が存在するようだ。
今さらだが鑑定を使ってみると、種族名には『獣頭人/犬種』と記されていた。
「申し遅れました……私は『ブール』です。どうぞ、お見知りおきを」
「イムだ。短い間だが、世話になる」
ああ、分かっているとは思うが頭部の犬種はブルドックである。
名前と顔が一致する、分かりやすい奴ら。
俺としては、こういう奴らがこの世界中に存在していれば楽だと思う。
「それじゃあ、ブル。案内を頼むぞ」
「……ブールです。では、サーベラス様の元へご案内いたします」
「ん? ああ、そうだったか。ブルー、宜しくお願いしよう」
「わざとですか? わざとですよね!?」
何かに怒っているようにも思えるが、頭部がブルドックだからかそこまで怒っているように見えるなー。
ハッハッと少々息を荒げる様子に、俺は少し懐かしいものを感じた。
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