上 下
77 / 121
外国へ遊びに行こう

犬に案内されよう

しおりを挟む


 この国の空は少々薄暗い。
 世界の法則がどうなっているのか分からないが、少なくともこっちに来てから清々しいほどの青空を拝んだことはない。

 なんてことを、アッシー君……じゃなくてアシに乗りながら思う今日この頃。
 太陽拳とか使ったら、わりと効果がありそうなんだよな。

『理不尽っス!』

「ああ、はいはい。もう聞き飽きた。ついでに息吹ブレスの一発でも吐いておけ」

『嫌っスよ! もしそんなことしたら……』

「そりゃあ害悪ってことで殺されるさ」

 いつも通りアシをからかい、魔王城に直接乗りつける。
 魔族の国は空を飛べるような者たちも多くいるので、少し寛大なのだ。

 一番魔王の間に近い滑走路のような場所へ降り立つと、アシを送還して城を歩く。
 頭を下げる兵士や侍従たちに挨拶をし、目的地となる魔王の部屋に辿り着く。

「邪魔するぞー、用事って……ん?」

 呼んだのは魔王なので、わざわざアポを取り付ける必要もない。 
 堂々と扉を開き中に入ると……先客が魔王と話していた。

『ですから、……を……さいと』

『……れても、……は……だ。そう……には無理だ』

 頭部が犬、百パーセント犬だ。
 俺の知識を当て嵌めるなら、『犬頭人』とでも定義しそうな奴が魔王に叫んでいる。

 たしかあれは、シベリアンハスキーとかいう犬種だったか?

 だが、魔王はそれを拒んでいるようだ。
 そして、こちらを見て……笑った。

「──細かい話は、本人とつけるのがよいだろう。ちょうど、現れたのだからな」

 当然ながら、不敵な笑みだがな。





 話を聞き終えた。
 犬頭人……犬と同じように魔王を立って睨みながら、聞いた内容を纏める。

「つまり、こっちの奴が俺を呼んだ目的だったと……そしてお前は、俺を森に呼ぶためにここに来た使者だと」

「そういうことだ。こちらにいるシベリアル殿は、我との中継役でもある」

「私たちの神、『サーベラス』様がイム殿をお呼びです。ご同行願います」

「サーベラス、ねぇ……」

 本当はやる気が無かったのだが、神様に会うという展開とその名前にほんの少しだけ興味が湧いた。

 細かい説明はどうでもいいので聞きそびれたが、まあ気にせずとも話は理解できただろうから気にしないでおく。

「それで、俺が呼ばれたのは分かる……だが行く理由は無いな。行ったら金でも貰えるのか? それとも、加護でもくれるのか?」

「貴様!」

「落ち着け、シベリアル殿。イムも、あまり挑発しないでほしいな」

「いや、割と本気だぞ」

 興味を持っていないのは事実だし、どうせ報酬が釣れるならそっちの方がいい。
 いつか見に行こうと思っていたのだし、不法侵入よりはマシなんだが。

「……こちらから、礼は出そう。大使であるイムを動かすのだからな」

「そうか。なら、準備をしてから行ってやるよ。おい、いつにする?」

「……準備ができたら森に来い。迎えはそのときに送る」

 あいあい、と答えて部屋を出た。
 閉まる扉の隙間からチラリと見たら、魔王は楽しそうに笑っていた気がする。

 犬は……憎々しげにこちらを睨んでいた。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 バックレるという選択肢もあったが、魔王からの報酬が気になるので行くことにする。
 ただし、それは可能な限り早く……つまり出てすぐのことだ。

「改めて来たが、やっぱり神々しいな。この力も模倣できるのか……嬉しいお土産だ」

 まあ、おそらく俺の解析はあっさりと弾かれるんだろうけど。
 そういった実例があるので、確信できる。

 そう、悪魔に守られた魔王は、抵抗レジストが強くまだ解析できていない。
 ……嫌味なことに、それに気づいておりステータスにメッセージを残すぐらいだし。

「お客様のご到着ですよー、お迎えはまだですかー?」

 わざとらしくコールしてみる。
 インターホンなんて代物はないが、犬と同じようなスペックの種族であれば……。

「──お待ちしておりました、イム殿。迎えにはシベリアルを送ったはずですが……」

「少々理由があってな。そこについては、彼にそちらから確認してもらいたい。だが、あちらに問題があったわけじゃない、それは承知してもらおうか」

「そうですか、確認はあとで行いましょう。今はイム殿の案内を優先します」

 再びの犬頭……種族として、『犬頭人』が存在するようだ。
 今さらだが鑑定を使ってみると、種族名には『獣頭人/犬種』と記されていた。

「申し遅れました……私は『ブール』です。どうぞ、お見知りおきを」

「イムだ。短い間だが、世話になる」

 ああ、分かっているとは思うが頭部の犬種はブルドックである。

 名前と顔が一致する、分かりやすい奴ら。
 俺としては、こういう奴らがこの世界中に存在していれば楽だと思う。

「それじゃあ、ブル。案内を頼むぞ」

「……ブールです。では、サーベラス様の元へご案内いたします」

「ん? ああ、そうだったか。ブルー、宜しくお願いしよう」

「わざとですか? わざとですよね!?」

 何かに怒っているようにも思えるが、頭部がブルドックだからかそこまで怒っているように見えるなー。

 ハッハッと少々息を荒げる様子に、俺は少し懐かしいものを感じた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

処理中です...