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外国へ遊びに行こう

森を抜けよう

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 森を歩けば魔物に遭遇する。
 だが不思議と攻撃してくることはなく、互いに視線を合わせてもすぐに離れていく。

「どういった仕組みなんだ?」

「魔王様の支配する領域内では、魔物たちも大人しくしているだけですよ」

「なるほどね、さすが魔の王様か」

 支配系の能力を持っているのだろうか。
 まだ直接会ってないのでステータスは分からないが、自身の魔力が届く範囲を操れるようなスキルがあるのかもしれないな。

「なら、神獣に警戒する必要はあるのか?」

「……神獣様は魔王様と同等の関係を結んでおります。故に、彼の御方が住まう領域は魔王様の領域ではございません」

 同格かそれ以上の相手には、その能力が通用しないと……そういった類いの効果であれば、催眠でどうにか耐えられそうだ。

 先ほど試した『検索』だが、たしかに魔族の土地とは思えないほど神々しい力を感じる存在が確認できた。

 神聖さ、とは少し違った……ただ、不思議と偉さを感じるわけだ。
 催眠でスルーも可能だが、今後のためにその感覚を覚えておこう。

「イム様、間もなく森を抜けます」

「ああ、弓を仕舞っておけばいいんだな」

 空間魔法で開けた穴に弓を仕舞い、代わりに別の物を取りだす。

「これぐらいは構わないだろう? 貴族に武器を与えるってのは、それともこっちにはない風習か?」

「いえ、短剣程度であれば誰でも持ち歩けます。もちろん、魔王様の前に出る際は仕舞ってもらいますが」

「それぐらいは弁えるさ。まあ、いちおうの防衛手段として隠させてもらうぞ」

「……問題ありません」

 少し躊躇うような反応をしたのは、短剣自体が魔力を宿す魔剣だからだろうか?
 特殊な鍛冶スキルを持っている奴に作らせたのだが、結構使えるみたいだな。

 短剣系のスキルは無いが、ユウキ様ご愛用の神聖武具術スキルがあるので、当然それを使えば勇者並に短剣を振るえるぞ。

「それでは、案内を続けましょう──あちらに見えるのが、魔族の王都『ソームゴーラ』でございます」

「ソームゴーラか……」

「正確にはソームゴーラ魔国王都、といった方が正しいでしょうが、あまり関係ございませんね」

「なるほどな。ちなみに迷宮はあるのか?」

 まあ、創作物の王道であれば……。

「ございますよ。ですが、魔王様の許可を得なければ向かえない場所もございますので、そちらは謁見後にでも」

「ああ、了解した」

 ああ、やっぱり大迷宮か。
 隠密で入ることができなくて放置していたが、やはりといったところだ。

 大迷宮の配置場所が厭らしいことが多かったが、魔族の領土にも存在していたんだな。

「しかし、魔族も人族も変わらないんだな。日常というものは」

「ええ、ですからそれを守ろうと私たちは戦うのです。無益な戦いなど、初めから望んでいません……奪われたあるべき場所を、取り返したいだけなのです」

 かつて魔王が勇者に殺られ、土地を追われる時代があったらしい。

 今の魔族たちはそれを取り戻そうと抗っているが、人族は過去の歴史を(わざと)忘れて侵略者として魔族を定義づけ、正義の名の下に迎撃を行っているようだ。

「そうか……その考えが魔族全体に浸透した考え方だったら、人族も大人しくその地を返したかもな」

「…………」

「けどまあ、どちらにせよ……俺はわざわざ魔族と戦いたいとは思わないよ」

 いや、そうじゃなかったから異世界人を使役して魔族を屠り続けているのか。
 一度目はまあ、大義名分を何者かに与えられたようだから置いておく。

 だが二度目以降、異世界人を呼ぶ理由はさらなる土地の略奪とその土地を守護させるためだ……どうにも救えないな。

 一方の魔族も、案内役の魔族の考え方で統一されているわけじゃない。

 人族よりも優れた力を振るいたい、弱者である人族を殺したい……など、創作物で語られる魔族のような考えを持つ者も多いのだ。

 案内役の魔族がこれなので、魔王はいちおう穏健な考えの持ち主なのだろう……しかしそれ以外は、どうなのか不明である。

「……それが疑問だと魔王様も仰っていました。伝えられた情報によれば、ヴァ―プルは異世界人の皆様に儀式級の精神魔法をかけたとのことです」

「まあ、事実だな。お陰でクラスメイト……友人が一人死んだよ」

「それでもイム様は変わらず、ヴァ―プルの望まぬ行動を取り続けています……イム様のスキルが関わっているので?」

「隠す気は無いから、そこは肯定しよう。その魔法は確実に、勇者にも効いていた」

 ユウキが──【勇者】がそれに耐えられなかったのだから、当然他の奴らもほぼ・・同じ。
 しかし、もしかしたら……俺たち異世界ちきゅう人のポテンシャルを舐めているなら話は別か。

「そうですか……異世界人の皆さま全員がイム様のように精神魔法を撥ね退ける力があったのならば、戦争も終われたでしょうに」

「まったくだよ。やれやれ、どうにかならなかったもんかね」

 魔族に偏見を持たない異世界人は、たしかにその可能性をより高めてくれただろう。
 しかしその全員が悪意を抱き、魔族を絶対殺すマンになっていればそれも難しい。

 ──残っているのは、俺自身とほんの少し耐性がある奴だけだしな。



 そして、さらに都市を歩いていく。

「こちらが魔王様の住まう居城です」

「なんだかおどろおどろしいな」

「旧代の魔王様の好みでして……あまり魔王様自身は好かれておりませんね」

 厨二病ではない、ということか。
 漆黒に塗られた禍々しいデザインを観ながら、ふとそんなことを思った。

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