55 / 123
変わる前に変えてみよう
訳あり少女と旅をする
しおりを挟む「なんだか、物凄く忘れられていた気がするな……どうしてだろう」
「どうかした、ユーシ?」
「……いや、なんでもないさ。それよりも、早く行くことにしよう」
「はーい」
どこかにあるとある場所で、二人の人族が歩を進めていた。
そんな彼らは注目の的になっている。
一人は黒髪黒目の少年。
特に目立つ特徴もなく、腰に携えた剣さえなければどこにでも居そうな平凡な男。
彼を見る者は誰もおらず、隣を歩く者の従者のように振る舞っている。
もう一人は白髪赤目の少女。
病的なまでに真っ白な肌を外套で隠す、少年とは圧倒的に釣り合わない美貌の持ち主。
可愛さと美しさを同時に兼ね揃えた顔立ちは、会った者たちを老若男女問わず振り向かせるほどだ。
「私があそこを出てから半年……ユーシもまあ、ゆっくりしてたよね」
「うん。イム君がいつ来るか分からない状況だったからね。迷宮を出るのは早くしたかったんだよ。けど、そのときはまだノープランだったし……って、あのときは君もそれで良いって言ったんじゃないか」
「私はずっと、外に出れなかったんだから仕方ないじゃん。ユーシが言うその男の子だって、視た範囲だと何もしてなかったよ」
彼らは迷宮の中で出会い、ある約束を交わした仲だ。
出会って以来目的を果たすため、共に旅をしている。
……その目的の一環として、ユーシと呼ばれる少年は彼女にある頼み事をした。
「他の人はともかく、彼だけは油断ができないよ。僕の予想が正しければ、五感全部を誤魔化せるからね」
「つまり、私も騙されてるってこと?」
「たぶんね。もしそうだったとしても、僕はそれに気づけない。彼の催眠術を受けているし、それを解く気はないから」
──少年はかつて、迷宮の底へ落ちた。
本来ならばそこで、己の倫理を捨ててでも生き残ろうと足掻く……はずだった。
イムと呼ばれる少年は、それを防いだ。
自身のスキルを用いて、彼の倫理が一生そのままであるように封じて。
そして同時に、いくつかの催眠を施す。
その催眠がこれまでユーシの生死を決めたこともあり、彼はそれを手放そうとしない。
……もちろん、それが催眠の効果であるかどうかも疑ったが、実際便利であるのでそこは考えないようにしている。
「まあ、ユーシがそれでいいなら構わないんだけどさ……。それよりほら、次の街が見えてきたよ!」
「えっ? 僕は君ほど、目はよくないから分からないよ」
「眼を強化すれば視えるでしょ? ほら、壁があるじゃん!」
言われるがままに視覚を強化すると、たしかに薄っすらと壁が視えてくる。
「うん、いちおう視えたね。やっぱりもう少し、魔物を倒した方がいいのかな?」
少年は迷宮で覚醒し、とある能力をその身に宿すことになった。
──殺した魔物の能力を奪う唯一能力。
先ほど視覚を強化したのも、簒奪したスキルを使うことで可能としていた。
「やっぱり慣れないんだよね。無意味な殺生は、僕の国じゃ許されなかったんだ」
「セートーボーエーってヤツでしょ? ユーシは私を助けるために闘ってくれたんだし、殺ればできるよ」
「イントネーションが違うよ、それ」
そうツッコみながら、移動を続ける。
「──だいたい、ユーシはもっと横暴に振る舞ってもいいんだよ。力はある、金もある、なのにどうしてそこまで卑屈なの?」
「卑屈って言うか……地球での僕は、力なんてない負け犬だったから」
「……チキューって凄いわね。こっちでこんなに活躍できる人を、イジメの対象に指定できるなんて。私もそっちにいったら、またイジメられるわね」
「……うーん、君は狙われるだけだよ」
少年はそれ以上語らなかった。
少女も彼が何も教えてくれないと分かり、ため息を吐いてから話題を変える。
「? そういえばユーシ、そういえば次は何するの? いっつもコソコソした陰険なことばっかりだったから、内容を忘れちゃった」
「陰険!? そ、そんなことないよ……。いい? これから僕たちは、中迷宮に潜る。人目につくと怪しまれるから、可能な限りこっそりと移動する必要がある」
「ほら、もう陰険だよ」
うぐっ、と息が漏れるが互いにそこは知らぬふりをしておく。
「……。それで、もう少し君の力を強化しておく。ユウキ君やコウヤ君、他にも強い人はたくさんいるし」
「例のイムって子も?」
「彼は何もしてこないから外すよ。僕たちの目的には当てはまらないし、選別者じゃないことは調べたんだよね?」
「……でも、唯一スキルの持ち主だよ?」
「催眠がそうだって、話したじゃないか。たぶんまだ他にもあるだろうけど、僕たちに接触しないなら関わっちゃダメ」
どうしてもイムとの接触を拒む少年。
そこに違和感を感じるのはいつものことなので、少女は話を戻す。
「それで、迷宮巡りはいつまで?」
「うーん……そろそろ大迷宮を一つ巡ってみたいけど、あんまり今の状態で行けそうな場所が無いんだよね」
「だから殺ろうって言ってるの。ユーシは私より、もっともーっと強いんだから」
「けどなー」
彼らはそうして楽しげに会話をしながら、今日も目的のために歩み続ける。
それを知る者は誰もいなかった。
『…………ホウコク、ホウコク』
──人型の存在には。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~
やみのよからす
ファンタジー
病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。
時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。
べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。
月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ?
カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。
書き溜めは100話越えてます…
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
世界⇔異世界 THERE AND BACK!!
西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。
友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。
しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。
「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」
これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。
週一、不定期投稿していきます。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる