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小さな諸国に行ってみよう
帰宅しよう
しおりを挟むトショク邸
そして数日後、派遣された国に帰還する。
すでに第三王女は王城に帰してあるし、爆裂野郎が居た国に関する報告も、第三王女が王にしてくれたので済んでいた。
なので俺は帰宅して、のんびりと家で過ごす予定だ。
奴隷たちに管理を任せていたので、屋敷は清潔な状態を維持していた。
「ただいまー、今回のお土産はもう先に送ってあったよな?」
「お帰りなさいませ、ご主人様。ブラド様より、素材を預かっております」
「あの二人に必要なものを揃えてもらってくれ。たしか、使えそうなのがあったからさ」
「では、そのように」
名札に『アテラ』と書かれたメイドが帰ってきた俺を迎えてくれた……それ以外のメイドは、誰も来なかったが。
まあ、一人いれば充分だから、それ以外の奴は仕事に専念してくれと言ったのは俺だから当然ではあるけど。
──ちなみに彼女は蒼髪の狼獣人である。
お土産はどうやら、しっかりと届いていたようだ。
途中で力尽きているかも、と思ったが……ちゃんと新鮮なままである。
素材からアイテムを回収しないといけないし、あの二人が集めてきたものも分配先を考えないとダメ……あっ、面倒になってきた。
「とりあえず、今日は入浴してから寝る。報告書とかはそのときに目を通しておくから、風呂に入っている間に枕元に入れといて」
「畏まりました」
ペコリとお辞儀をしたアテラが資料を取りに行くのを見てから、ゆっくりと浴場のある部屋に移動する。
屋敷はコピーしたスキルによって、俺の望むままに改造を施した。
そのため、いくつか屋敷にも面白い仕掛けが用意されているが……メイドが引っ掛かることはないし、侵入者が来ないと使われないのが残念だ。
何が言いたいかと言うと、屋敷の部屋の配置を自由に変えたということである。
自分の部屋の近くに風呂を置き、食堂を置き、趣味部屋を置く……完璧だな。
「おっ、お疲れさん」
浴場に向かうと、ちょうど掃除をしているようだった。
名札に『イルンス』と書かれた少女が、一人黙々と体を動かして、床のタイルを磨いている。
黒髪の、少々眼力が強いメイドだ。
「……ども」
「気にするな、風呂の方はもう洗い終わっているのか?」
「……はい」
「そうか、ならもう入っちゃうか」
お湯は元素魔法の組み合わせで、すぐに張ることができた。
衣服は空間魔法の派生スキル(瞬間装着)で入る瞬間に脱ぎ、再び元素魔法を使用してイルンスから見えないようにしておく。
「ふぃいいいいいいい……いい湯だー。そっちの掃除、手伝った方が良いか?」
「……いな。後で怒られる」
「面倒事なんて、他人に押し付けるのがベストだと思うんだけどな。俺が勝手にやったって言っとけ。修業のついでだ」
万能な元素魔法の応用法を、(魔法知識:制限)スキルでコツコツ試している。
水属性と光属性を併せて洗浄したり、火属性と風属性でタイルを乾かしたり……うん、まさに生活魔法だな。
「……あっ」
「面倒面倒、怒るのも怒られるのも面倒だ。少し早く終わっただけ、どんどん出てった出てった」
「……うす」
少女は頷き、浴場から退出する。
風呂に入れる、なんて主人公や悪人みたいなことはしない……というかさせない。
風呂は俺にとって極楽の一時であり、何人たりとも侵させることのない神聖な場所だ。
「“結界空間”、“付与空間”──強化」
故に、完全な密室を生み出す。
ただでさえ、堅い結界を強化した。
これを壊すには、老木龍に使った一撃よりも強い力が必要となるだろう。
もともと屋敷にはスキルや魔法、魔道具による覗き見を防ぐ対策を仕込んでいるが、浴室はそれが俺の部屋と同じくらい強め。
そしてそれをより高める……準備万端だ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ……さい、こう」
じっくりゆっくりと肩まで浸かり、体の芯まで温もりを届ける。
心までもがその温もりに絆され、自然と口が緩んでしまう。
日本人に、風呂は無くてはならない存在と化している。
屋敷を改造することを決めて、一番最初に弄ると決めたのは浴槽だったからな。
どんなに面倒だろうと、入浴だけは忘れていけないこととして刻まれていた。
業とは、恐ろしいものである。
風呂から出て、瞬間着装を使って服を変えてからから部屋に入る。
懐かしのマイルームは変わりようもなく、ただ巨大なベッドが置かれていた。
当然、独りで寝るための物だ。
「資料は枕元に……うん、ちゃんと用意されているな」
アテラが用意したらしい資料が、俺の用意した紙に纏められている。
紙は錬金スキルを使い、生みだした物だ。
科学が分かる地球人からすれば、だいたいの仕組みが分かるスキルだった。
──魔力を消費して作業工程を短縮する。
短縮した作業工程内で何がどうなっているか、それを明確に把握することで素材が完成品として錬成されるのだ。
紙の場合は、洋紙の方をあえて作った。
難しい液体の作り方に興味を持ち、材料すべてを覚えようと一瞬でも努力したのが幸いである。
どうでもいいから忘れていたが、俺のスキルによってそれを夢として思いだし、再び記憶することができたのだから。
薬品で木の内側にある硬い成分を融かし、テレビで見た通りの作業をイメージしながら“錬金”を発動すると……本当にできた。
俺のちょっとした努力から生まれた、洋紙に記された情報の数々。
それを枕の下に敷いて寝る準備を行う。
「さて、どうなるんだか──『おやすみ』」
瞳を閉じたあと、すぐに俺は夢の世界へと旅立っていった。
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