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小さな諸国に行ってみよう

利用されよう

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 中迷宮ミドルダンジョンであるレンブルクの迷宮は、森のように植物が生い茂る場所だった。

 現れる魔物も植物に関係するものが多いらしく、今までに発見した魔物はすべてが植物に関する魔物だ。

「ハハハハッ! 燃えろモエロもえろ!!」

「うーわー」

 そんな中、この国担当のクラスメイトは迷宮内に火を放って高笑いしている。 

 ……放火癖がある奴だったのだろうか。
 まあ、どうせ学校に火を放たなかったんだし、ある程度の常識はあったみたいだな。

 それが異世界に来たことで箍が外れ、こうした状態になったのだろう。

 こっちの世界だとそういうなヤツはよくいるのか、兵士たちは気持ち悪いぐらいに笑っているクラスメイトには何も言わず、むしろ盛り上げるように歓声を上げている。

「……俺、来る必要ありましたかね?」

「はい! トショク様はマリク様と同じ、異世界からの使徒様ですので!」

 近くの兵士に尋ねると、目をキラキラさせてそう答えられてしまう。
 あー、階級の低い奴にはそう伝えられているらしいな。

 俺も後から知ったのだが、異世界人は女神から派遣された救済の使徒、的な感じで人々に伝えられている。

 まあ、女神ってのはユウキのステータスの祝福に書かれてたから間違いないんだろうけど、その理屈だと必要とされたのはユウキだけなんだよな。

 女神自体は他にも何柱か居るのだが……俺には関係なかったのでカットで。

「どうだいトショク君! これが僕が新たなる力さ!」

「ああ、凄いぞ。祝福に出てくる紅眼の娘みたいだな」

「そうだろうそうだろう! 僕のはあの頭のおかしい爆裂娘と違って、何度でも発動できるけどね!」

 アヒャヒャヒャヒャヒャ! と笑いながらクラスメイトはそう言ってくる。
 たしかに、一撃一撃で森の中を焦土と化しているのは凄まじいと思う。

 環境破壊感が半端ないので、迷宮の外では使用を禁じられているらしいが、あえて燃えやすい物が多いこの迷宮に送り込んだあの国の考えがなんとなく分かるな。

「……本当に俺がいるがあるのですかね? アイツ一人で全部解決では……」

「はい! 使徒様でいらっしゃるトショク様はおられるだけで、私たちに勝利を与えてくれます!」

 ……これは、なぜだろうな。
 基本的に異世界人のLUCが高いからか?

 しかし残念、俺は0なので意味がない。

 代わりに幸運スキルを持っているから、たぶんそれなりに運は良いと思うんだが……そもそも、運ってスキルとして分かる形で存在できるものなのかが謎だ。

 いや、そもそもコピーした幸運スキルを幸運って言えるのかも分からない。
 …………まっ、面倒だしどうでもいいか。

「よっ、はっ、そっと」

 適当な掛け声と共に放たれた矢は、顔を持つ大木──トレントに命中して発火する。

 口(?)から絶叫が聞こえるが、それもいつの間にか静まり、最後には燃えた炭だけがその場に残った。

 植物系の魔物を火を使って倒すと、必ず落とすアイテムも燃焼後の状態になる。

 ……当然だよな。
 対植物最強の技、放火をするならそれなりの代償が必要だ。

 普段は冒険者や兵士たちが真っ当な方法で討伐して素材を集めているらしいが、異世界人はそんなことも気にせずに燃やしている。

「さすがトショク様です! こんなに大きな魔石が手に入りましたよ!」

「皆さんが時間を稼いでくれたお蔭です。俺独りだけでは、こうして時間を稼ぐ暇もなく襲われますから」

 さて、全異世界人が持つチートの一つに、魔石の確定ドロップというものがある。

 こちらの世界の者だとたまにしか落ちないとされる魔石を、異世界人は必ず手に入れることができるのだ。

 魔石とは、魔物が生涯で溜め込んだ魔力が結晶となったアイテムである。
 この世界ではそれを燃料として扱い、さまざまな技術革新を行ってきたらしい。

 まっ、そういう特典があるからこそ、異世界人はいろんな意味で使えるんだよ。

「えっと、トレントの魔石の大きさは……だいたい18cmぐらいですかね?」

「す、凄い! 大きければ大きいほど倒すのにも苦労するはずなのに……」

「いえいえ、これも皆さまのお蔭(ry」

 どうでもいいが、『cm』が通じているのではなく、それっぽい単位を言語理解のスキルが勝手に伝えているらしい。

 少なくとも15cm定規よりは大きいし、魔石はたぶんそれぐらいだろう。
 分かりやすい例えを挙げるなら──ハンドボールかな?

 それがあると、町に暮らす一家が一年に消費するエネルギーすべてを賄える……それぐらいに価値があるらしいぞ。

 地球でそんな物が存在していたら、戦争がもう何回か起きていたかもな。
 魔物を殺す以外にも魔石を手に入れる方法もあるのだが、これはそのうち説明するか?

「……あの、トショク様」

「はい、どうかされましたか?」

「トショク様は魔石を触媒とするスキルをお持ちですか? そうであらば、私たちで用意した巨大魔石をお渡ししますが」

「いえ、大丈夫ですよ。俺は弓と矢だけあれば充分ですので。あっ、よければ矢の補充だけ頂ければ……」

「分かりました! すぐに手配させます!」

 魔石に内包された魔力は、スキルや魔法を使うための触媒としても使うことができる。
 いわゆる外部バッテリーのような感じだ。

 まあ、魔石内に入っている魔力が使う者の魔力と質が異なるので、本人以外が使おうとしても魔力すべてをそのまま使えるわけでもないんだけどな。

 先ほどから笑いながら魔法を放ち続けるクラスメイトも、実は俺にバレないように隠しているが魔石を使っている。

 ……つまり、結局はコイツも爆裂娘と同じなのである。

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