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DIY、監獄ライフに勤しむ
脱獄実行 その05
しおりを挟む可及的速やかに力を得るべく、こっそりと街に戻った俺が頼ったのは【傾界魔王】。
星敵としての力を分離する彼女の秘密は、職業の権能によるものなんだとか。
「──どうですの、できましたか?」
「…………これは、難しいですね」
体細胞を得るため、(なぜか)血を分けてもらい条件を満たした。
これにより、『魔王の取腕』でコピーした職業の権能で絶賛分離中。
彼女の職業【傾界魔王】、その権能はシステムの部分的改竄。
冒険世界の【魔王】は権能を奪うことに特化していたが、彼女はそれができない。
代わりにできることこそ、自らの情報を書き換えること──偽装ではない、改竄した情報は実際に現実に反映されるのだ。
例えば種族を弄れば、吸血鬼である彼女は獣人にも普人にもなれる。
……まあ、傾くという字があるからか、傾けたものにはリスクが生じるみたいだけど。
「権能を抽出し、別の器に移す。改竄が解除された後も固定されるように効果を維持しなければならないと……たしかに、簡単にはできそうにありません」
「私の場合、自身の職業であるからこそ理解ができていたこと。加えて都合の良い器がその場にあったからこそ、こうして維持できていますけれど。貴方の場合、私が何となくで行った全部を一から学ぶ必要がありますの」
「……そう、ですね。ですが、今の私には時間がございませんので。何としても、この短期間でモノにして見せます」
「そう……期待しておりますわよ」
彼女は俺を守ってくれている。
混沌の使徒と手を組んだ星敵たちが、すでに俺の居場所に気づきこの家の近くで待ち伏せていた。
それでも押し入ってこないのは、単純に勝ち目がないから。
それほどまでに、【傾界魔王】の危険度は星敵たちの中で知られている。
だがそれは、今が夜だから。
正確には昼も夜も関係なく無双できる彼女なのだが、それでも同じレベルの相手と戦う場合は圧倒的に夜の方が有利になる。
星敵の中で純粋なパワーを競うのならば、一番は彼女──ではない。
そう、まだまだヤバい連中は居る……幸いなのは、彼らはそれぞれ我が強い点だな。
要は混沌の使徒に従うようなヤツばっかりじゃないし、好き勝手暴れるわけでもない。
ただまあ、まったく手を出してこないわけでもないので、急ぐ必要はあるのだ。
「それで、どうされますの? もう一度手順の方を説明しますか?」
「……いえ、何とかします。いえ、何とかできます」
「ええ、それでこそ男の子ですわ。期待しております──」
「! できます!」
「え゛っ!?」
俺は俺なりに権能を試していたが、まあ上手くいかないことは察していた。
ならばどうするか──いつもの通り、委ねるしかない。
インストールした『セバスチャン』、それにより格段に向上した処理能力でいろいろ試してくれていた『SEBAS』。
何を器とすればいいかを調べ、どのように分離すればいいかを検証し、俺にとっての正解をシミュレートしてくれた。
単独で、また人が集まって試しても膨大な時間が掛かるであろう作業を、たった数十分で済ませてくれる──[ログ]に記されたその正解を、俺はただなぞればいい。
「触媒はこれ、遺製具を。権能はそのまま使わず、『騎士王』の権能を添えて……最初から全部やらずとも、自分なりにやってみればよかったんですね」
俺の権能に適した遺製具を、また環境を整えることこそが成功のカギだったようだ。
力の流れを『SEBAS』が操作し、体からナニカが引き抜かれる。
そしてそれは、手にした遺製具の中へと注がれていく。
この瞬間、俺はすぐに蘇りもしない虚弱なだけの生産士となった。
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