人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第7話:『壱番街サーベイヤー』

◆28:”勇者よ、国を救ってください”(解決編)-1

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 紫水晶アメジストの瞳が烈しい輝きを放つ。普段の泉の如き静謐さの奥にある、アルセスの事について触れる時の虚ろな闇。そしてその奥にあるこれこそが、彼女に秘められた真の輝き。

 おれは組んでいた脚を降ろし、心持ち体を前に傾けた。

「――たぶん、君はセゼル大帝の意図に少しずつ気づいていたんだろう?でも、認めるわけにはいかなかった」
「当たり前です!後継者として決めていた、ですか……?それならなぜ、なぜアルセス皇子は処刑されなければならなかったのですか!!自分で処刑したくせに!今更になって後継者だなんて!ふざけないでください!!そんなことを言ってみせたところで、アルセス兄様は帰ってなど来ません!!」

 そう、だからこそおれは、事実を告げねばならない。

「……その経緯も、推測はできるよ」
「え……?」
「アルセスの『鍵』、いや、『箱』の裏に書かれた詩さ」
「……この詩に、意味が?」

 古代ルーナライナ語で書かれたという詩。それを書いたのは一体誰だったのか?

「これも消去法でパズルを埋めていけばわかる。古代ルーナライナ語の『読み』はともかく、『書き』は公文書を作成する王にのみ伝えられていたんだろう?」
『……でも。これはアルセス皇子が作成した数列で、セゼル大帝は触れていない』
「となれば、この詩を書いたのはアルセスだろう。王の後継者として、古代ルーナライナ語の文章作成方法も教わっていたと考えるのが自然だ。そして数式と詩のインクの劣化状況を比較すると、この詩は数式よりも後に書かれたものであるとわかった」
「じゃあ、これはアルセス兄様の」
「手記。もっと率直に言ってしまえば、処刑される前に書き記した、遺書、ということになるな」

 
 重い沈黙が、再び会議室を満たした。


「すみませんね、話が長くて。もうやめましょうか?」
『そういう悪辣な質問はやめてください亘理さん。そこまで聞いて、もういいですよなんて言えるはずがないでしょう。最後まで説明をしてくださいな。あの詩にはどんな意味が込められていたんですか?』
「ではお言葉に甘えて……。詩の元ネタはちょっと考えればすぐにわかったんですよ。子供を殺した罪で水辺に吊るされてご飯が食べられない男、なんて珍妙な話はそうそうあるわけじゃない。――美玲さんあたりならわかるんじゃないですか?」
『ギリシャ神話のタンタロス王の逸話ですね。まあ、後からキーワードからネットで検索した程度の知識ですけど』
「ええ。これはギリシャ神話にある一つのエピソードです」


 いわく。

 リュディアのタンタロス王は、人間でありながら神々に愛され、不死の肉体を持っていた。しかしある時、神々を招いて宴会を行った時。何を思ったのかタンタロス王は、自分の子供を殺し、その肉体を切り刻んで料理として神々に食べさせるという暴挙に出た。


「ええ?なんでそんな事するの、意味がわからないんだけど……」
「まったくだ。このエピソードには勧善懲悪とか因果応報とかの教訓とか意図が読み取れず、ただ王様が自分の子供を殺して神々に食べさせたという事実のみが記されている、なんとも不気味な話なんだよ」

 もしかしたら、ギリシャの歴史でそれに類するような事件があったのかもしれない。

『いちおう後世では、神々がこれが人肉かと気づくか試したのだ、とか、本当に神々を敬っているからこそ、自分の一番愛する者を捧げたのだ、とかいう解釈がなされているようですが』
「そこらへんの意図は明言されていませんね」

 いずれにせよ、エピソードの中で語られるのは、まんまと人肉を食わされた神々の怒りと報復あった。王は奈落の底に落とされ、その水辺に植わった果樹に逆さ吊りにされた。水を飲もうとすると水が引き、果物を食べようとすると枝が避ける。かくしてタンタロス王は、眼の前に水と食べ物がありながら永遠に飢えと乾きにさいなまれるという、不死者ゆえのむごい罰を受けることになったのでした……というオチで終わる。
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