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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆19:ミックスカクテル(その1)-2
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慌てて振り返ると、そこには二十代後半とおぼしき男が居た。隣の席が空いたので、そこに座ろうとしていたようだった。ほとんど反射的に武道家としての目付を行う。背は高い方だろうか。すっきりとした印象だが、痩せすぎという程ではない。日ごろの運動習慣はないが、本来そこまで不得意ではない、そんなところか。
「も、もちろん。どうぞ」
慌てて少し椅子をずらし、男の座れるスペースを確保する。
「や、助かるよ。どうも狭いところは苦手でね」
男はしごくのんびりした挙動で腰を下ろした。その緩やかな挙動に、パニック寸前になっていた真凛の思考は、いったん落ち着きをみせていた。焦ったところでどうしようもない。最悪、電話で実家に助けを求めるという手もあるのだ。
そこでようやく顔と服装に目が行った。おさまりの悪い長めの黒髪をざっくりと整髪料でまとめ、後ろに流している。穏やかな表情に柔らかな笑みを浮かべ、かっちりとした背広に季節相応のコート。
服のブランドには微塵も知識が無い真凛だが、とりあえず「高そうだな」という事はわかった。生地や糸がしっかりしている。自分が普段来ているものと同様に。
「学校の先生ですか?」
ついそんな感想が口をついた。席に着いた男はちょっと虚をつかれた表情で、
「そりゃどうして、そう思ったのかな?」
と疑問を挟んだ。真凛は赤面した。どうにも考えなしに思いついたことを口にしてしまう。学校やアルバイト先ならいいが、会ったばかりの人には失礼ではないか。
「ええっと、その。頭が良さそうで、教えるのが得意そう、だから……?」
男はどうやらその言葉をかみしめているようで、感慨深げに何度も呻いた。
「そう言って貰えるととても嬉しいね。こう見えてもその、ぼく、人にものを教える仕事をしているものでね。経営コンサルタントをしているんだ」
などと言いながら男は手早くスタッフを呼び、スープとサラダ、ピザ、ドリンクバーを注文する。
「コンサルタント、ですか?」
「ああ、うん。高校生だとまだちょっとイメージしづらいかな」
「会社の偉い人とかに、これからどうすればいいかを教える仕事、ですよね」
「へえ、すごいな!よく知ってるね」
「いえ、ただ前にアルバイト先でそういう人に会ったことがあるだけです」
たしかそのコンサルタントは詐欺に手を染めていた気もするが。
「いやこれは本当に凄い。単語を知っていても実際の仕事内容まで知っている高校生はなかなかいないものだよ。たいしたものだ」
男は屈託のない笑みを浮かべる。頬のあたりに熱を感じた。日頃、こと知識や知恵については、からかわれることはあっても褒められることはほとんどないのだ。
「あ、そうだそうだ。これ名刺ね。よろしくどーぞ」
真凛は名刺を見た。黒色の背景に赤字に黄色縁取りのゴシック体ででかでかと『絶対安心!売り上げ倍増!あなたのおたすけ経営コンサルタント!』なる題字、そして『お困りの際はこちらへ!』のコメント共にメールアドレスがあるのみだった。電話番号も、住所すら書いていない。
「…………これ、本物、ですか?」
いかに真凛でも、まともな社会人がこんな名刺を使うはずがないということくらいはわかる。
「あー。胡散臭いよね。名刺刷る時、この方がインパクトあるから良いって言われたんだけど。……メールでだけ仕事を受け付けているんだよ。あちこち飛び回ってて、事務所もないから郵便物は極力なしにして。ね?」
慌てて弁解する様が、なおさらに怪しい。
「別に、名乗る分には自由だと思います、けど」
陽司が以前言っていた。国家試験が必要な弁護士や医者とは異なり、名乗るのに資格がいらないコンサルタントだの社長だのはまず疑ってかかれと。横文字のそれっぽい肩書きがくっつけばくっつくほど怪しいのだとかなんだとか。
「あ、信じてないよねそのまなざし?そりゃ確かにお得意さんの数は少ないけど、結構みんなお金払いもいいし、これでもそれなりに軌道に乗ってるんだよ!?」
弁明するほど墓穴が深くなっていく悪循環は、店員がおりよく料理を運んできた事で断ち切られた。
「も、もちろん。どうぞ」
慌てて少し椅子をずらし、男の座れるスペースを確保する。
「や、助かるよ。どうも狭いところは苦手でね」
男はしごくのんびりした挙動で腰を下ろした。その緩やかな挙動に、パニック寸前になっていた真凛の思考は、いったん落ち着きをみせていた。焦ったところでどうしようもない。最悪、電話で実家に助けを求めるという手もあるのだ。
そこでようやく顔と服装に目が行った。おさまりの悪い長めの黒髪をざっくりと整髪料でまとめ、後ろに流している。穏やかな表情に柔らかな笑みを浮かべ、かっちりとした背広に季節相応のコート。
服のブランドには微塵も知識が無い真凛だが、とりあえず「高そうだな」という事はわかった。生地や糸がしっかりしている。自分が普段来ているものと同様に。
「学校の先生ですか?」
ついそんな感想が口をついた。席に着いた男はちょっと虚をつかれた表情で、
「そりゃどうして、そう思ったのかな?」
と疑問を挟んだ。真凛は赤面した。どうにも考えなしに思いついたことを口にしてしまう。学校やアルバイト先ならいいが、会ったばかりの人には失礼ではないか。
「ええっと、その。頭が良さそうで、教えるのが得意そう、だから……?」
男はどうやらその言葉をかみしめているようで、感慨深げに何度も呻いた。
「そう言って貰えるととても嬉しいね。こう見えてもその、ぼく、人にものを教える仕事をしているものでね。経営コンサルタントをしているんだ」
などと言いながら男は手早くスタッフを呼び、スープとサラダ、ピザ、ドリンクバーを注文する。
「コンサルタント、ですか?」
「ああ、うん。高校生だとまだちょっとイメージしづらいかな」
「会社の偉い人とかに、これからどうすればいいかを教える仕事、ですよね」
「へえ、すごいな!よく知ってるね」
「いえ、ただ前にアルバイト先でそういう人に会ったことがあるだけです」
たしかそのコンサルタントは詐欺に手を染めていた気もするが。
「いやこれは本当に凄い。単語を知っていても実際の仕事内容まで知っている高校生はなかなかいないものだよ。たいしたものだ」
男は屈託のない笑みを浮かべる。頬のあたりに熱を感じた。日頃、こと知識や知恵については、からかわれることはあっても褒められることはほとんどないのだ。
「あ、そうだそうだ。これ名刺ね。よろしくどーぞ」
真凛は名刺を見た。黒色の背景に赤字に黄色縁取りのゴシック体ででかでかと『絶対安心!売り上げ倍増!あなたのおたすけ経営コンサルタント!』なる題字、そして『お困りの際はこちらへ!』のコメント共にメールアドレスがあるのみだった。電話番号も、住所すら書いていない。
「…………これ、本物、ですか?」
いかに真凛でも、まともな社会人がこんな名刺を使うはずがないということくらいはわかる。
「あー。胡散臭いよね。名刺刷る時、この方がインパクトあるから良いって言われたんだけど。……メールでだけ仕事を受け付けているんだよ。あちこち飛び回ってて、事務所もないから郵便物は極力なしにして。ね?」
慌てて弁解する様が、なおさらに怪しい。
「別に、名乗る分には自由だと思います、けど」
陽司が以前言っていた。国家試験が必要な弁護士や医者とは異なり、名乗るのに資格がいらないコンサルタントだの社長だのはまず疑ってかかれと。横文字のそれっぽい肩書きがくっつけばくっつくほど怪しいのだとかなんだとか。
「あ、信じてないよねそのまなざし?そりゃ確かにお得意さんの数は少ないけど、結構みんなお金払いもいいし、これでもそれなりに軌道に乗ってるんだよ!?」
弁明するほど墓穴が深くなっていく悪循環は、店員がおりよく料理を運んできた事で断ち切られた。
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