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第7話:『壱番街サーベイヤー』
◆07:今日の授業(偽)――世界史B-2
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「――以上、ざっと高校レベルの世界史に絡めて、ルーナライナ王国の歴史をわかりやすく語ってみたわけだ。これでだいたい理解できたろ?」
「え!?あー、うん、たぶん」
「多分、って。本当にわかったのか真凛?やっぱりきちんと年表つきで説明した方がよかったか?」
「だ、だいじょうぶ大丈夫!ところで陽司、ここが気持ちイイんじゃない?」
「おぅ!?おぉー、そこ、そこがたまらん、もっと頼む」
「そう?じゃあもっと強めにいくね。これでどう?」
「おお!……いい。いいぜそれ。ああ、最高だ」
一応状況を説明しておくと、ここは高田馬場にある『フレイムアップ』の事務所であり、今のおれは応接室のソファーに寝そべっており、その上に真凛が馬乗りにまたがっている状態である。
「前から言おうと思ってたけど、……お前やっぱり、上手いよ」
「へへへ。そう言ってくれるなら、もっと頑張っちゃおうかな」
「……っ!やべ、アタマが真っ白になりそうだ……」
普段のガサツな態度からは想像もつかないほど丁寧な真凛の刺激に、おれは思わず恍惚の笑みを浮かべてしまう。
「うーん。キレイに五臓六腑に気を送り込まれてたねー」
「あの一撃でそこまでか……」
「うん。とくに膀胱経がひどいことになってたから、あのままだったらトイレに行ってもおしっこが出ない体になってたよ」
「恐ろしいことを言わんでくれ……」
颯馬と玲美さんとの一戦の後、おれ達は気絶したままの依頼人……ファリス・シィ・カラーティ氏を乗せたまま、一気に高田馬場の事務所まで引き返してきたのである。
フロントガラスに大穴が開いた状態でのドライブはお世辞にも快適とは言えなかったが、それよりもおれは颯馬に撃ち込まれた『気』の影響が酷かった。
痛みを無視して無理矢理動き回った反動もあり、二日酔いと下痢と神経痛がいっぺんにやってきたような激痛と不快感を味わうはめになりつつ、それでも車を運転し続けたのだが、事務所にたどり着くなり限界を迎え、グロッキー状態のままソファに突っ伏してしまった次第。
こういう時には、飲み薬や塗り薬よりも、指圧やマッサージの方が効果がある。かくしておれは、真凛の実家に武術と共に伝わっているという指圧術を施療してもらっているというわけだ。経絡を押されることによって、萎縮していた臓器や混乱していた神経が、徐々に落ち着き本来の機能を取り戻してゆくのがわかる。
「|督脈(とくみゃく)に沿ってもう一周やっておくね。そのあと昼寝でもすれば、動けるようになると思うよ」
「ああ、頼む……」
それにしてもこいつ、やたらとマッサージの類が上手いのである。
まあ、こいつの武術の要諦は急所を正確に攻撃することにある以上、裏を返せばツボ押しなどは得意中の得意と言うことなのだろうが、正直、ネットカフェのマッサージチェアなどとは比べものにならない快楽に、ここ最近の徹夜やら飲み会やらの疲労も合わさって、急速におれの意識は奈落の底へと落ちかかっていった。
「ところでさっき、羽美さんがラーメンをおごれ、って言ってたよ」
「ああ……ほっとけ……どうせあと一時間もすれば忘れてるよ……」
「そうかなあ。あ、そう言えば今日の夕ご飯どうする?ボク、今日はいらないって家にいってきちゃったんだけど」
「まぁ、今日は一日仕事だったからなぁ……」
泥のように沈みかけていた意識の中、おれは半分眠りながら応答する。
「事務所のみんなで、どっかに食べに行くのかな?」
「いや……今夜は六本木にオールナイトで特撮映画観に行くつもりだったんだ……」
いつぞや知り合いになった水池さんからもらったチケットを使い損ねていたのである。
「オールナイトって、泊まりがけで映画を観るってやつ?」
「ああ……。メシ食いがてら……一緒に行くか?」
……まあ、たまにはいいか。
「あ、うん。じゃあ、そうしようか」
どうもそういうことになったらしい。まあとにかく、今はゆっくり眠りたいものだ。
おれは心地よい眠りに意識のすべてを委ねようとして――
「起きて亘理君。ファリス皇女が意識を取り戻したわよ」
われらが事務所の主、所長の声に、現実に引き戻されることとなった。
「え!?あー、うん、たぶん」
「多分、って。本当にわかったのか真凛?やっぱりきちんと年表つきで説明した方がよかったか?」
「だ、だいじょうぶ大丈夫!ところで陽司、ここが気持ちイイんじゃない?」
「おぅ!?おぉー、そこ、そこがたまらん、もっと頼む」
「そう?じゃあもっと強めにいくね。これでどう?」
「おお!……いい。いいぜそれ。ああ、最高だ」
一応状況を説明しておくと、ここは高田馬場にある『フレイムアップ』の事務所であり、今のおれは応接室のソファーに寝そべっており、その上に真凛が馬乗りにまたがっている状態である。
「前から言おうと思ってたけど、……お前やっぱり、上手いよ」
「へへへ。そう言ってくれるなら、もっと頑張っちゃおうかな」
「……っ!やべ、アタマが真っ白になりそうだ……」
普段のガサツな態度からは想像もつかないほど丁寧な真凛の刺激に、おれは思わず恍惚の笑みを浮かべてしまう。
「うーん。キレイに五臓六腑に気を送り込まれてたねー」
「あの一撃でそこまでか……」
「うん。とくに膀胱経がひどいことになってたから、あのままだったらトイレに行ってもおしっこが出ない体になってたよ」
「恐ろしいことを言わんでくれ……」
颯馬と玲美さんとの一戦の後、おれ達は気絶したままの依頼人……ファリス・シィ・カラーティ氏を乗せたまま、一気に高田馬場の事務所まで引き返してきたのである。
フロントガラスに大穴が開いた状態でのドライブはお世辞にも快適とは言えなかったが、それよりもおれは颯馬に撃ち込まれた『気』の影響が酷かった。
痛みを無視して無理矢理動き回った反動もあり、二日酔いと下痢と神経痛がいっぺんにやってきたような激痛と不快感を味わうはめになりつつ、それでも車を運転し続けたのだが、事務所にたどり着くなり限界を迎え、グロッキー状態のままソファに突っ伏してしまった次第。
こういう時には、飲み薬や塗り薬よりも、指圧やマッサージの方が効果がある。かくしておれは、真凛の実家に武術と共に伝わっているという指圧術を施療してもらっているというわけだ。経絡を押されることによって、萎縮していた臓器や混乱していた神経が、徐々に落ち着き本来の機能を取り戻してゆくのがわかる。
「|督脈(とくみゃく)に沿ってもう一周やっておくね。そのあと昼寝でもすれば、動けるようになると思うよ」
「ああ、頼む……」
それにしてもこいつ、やたらとマッサージの類が上手いのである。
まあ、こいつの武術の要諦は急所を正確に攻撃することにある以上、裏を返せばツボ押しなどは得意中の得意と言うことなのだろうが、正直、ネットカフェのマッサージチェアなどとは比べものにならない快楽に、ここ最近の徹夜やら飲み会やらの疲労も合わさって、急速におれの意識は奈落の底へと落ちかかっていった。
「ところでさっき、羽美さんがラーメンをおごれ、って言ってたよ」
「ああ……ほっとけ……どうせあと一時間もすれば忘れてるよ……」
「そうかなあ。あ、そう言えば今日の夕ご飯どうする?ボク、今日はいらないって家にいってきちゃったんだけど」
「まぁ、今日は一日仕事だったからなぁ……」
泥のように沈みかけていた意識の中、おれは半分眠りながら応答する。
「事務所のみんなで、どっかに食べに行くのかな?」
「いや……今夜は六本木にオールナイトで特撮映画観に行くつもりだったんだ……」
いつぞや知り合いになった水池さんからもらったチケットを使い損ねていたのである。
「オールナイトって、泊まりがけで映画を観るってやつ?」
「ああ……。メシ食いがてら……一緒に行くか?」
……まあ、たまにはいいか。
「あ、うん。じゃあ、そうしようか」
どうもそういうことになったらしい。まあとにかく、今はゆっくり眠りたいものだ。
おれは心地よい眠りに意識のすべてを委ねようとして――
「起きて亘理君。ファリス皇女が意識を取り戻したわよ」
われらが事務所の主、所長の声に、現実に引き戻されることとなった。
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