人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第6話:『北関東グレイヴディガー』

◆14:夜、旅館にて−2

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「……な、なんか急に話がでっかくなってついてけないんだけんども」

 そうでもない、と四堂。

「もともと核兵器の理屈自体はそう難しいものではない。小型のもので爆発さえすればよいレベルのものなら、個人が台所でも作れる程だ。重要なのは材料と、そして理屈通りにモノを作ることの出来る装置。特に高威力のものを作るには、物理学の理屈どおりに反応が起きるよう、精密な球体や楕円状に物質を成形する事が不可欠だ」

 それを実現するのに『昂光』の装置は最適なのだという。

「そ、そんなもん日本のこんな田舎の工場で作って売りまくってていいワケ?」
「日本国内なら大丈夫だ。あの測定器を使用しなければ、携帯電話も液晶テレビも作ることは出来ないからな。だが、海外に輸出される際は非常に強い規制がかかる。政情不安定な国や、外交上問題のある国には輸出できないし、研究用に作成するとしても大幅なスペックダウンが要求される」

 当然、買い手側の身元も何重にもチェックされる。だからこそ、核兵器を持ちたがるものにとっては、『昂光』の精密測定器は、プルトニウムと並んで喉から手が出るほど欲しいものの一つなのである。

「……そーいやおいらがガキの頃、ゲーム機が核ミサイルの弾道計算に使えるから輸出禁止だー、なんて話もあったっけかね」

 うなずく四堂。

「ヒロシマに原爆が落ちてから数十年、世界の技術は信じられぬほど急激に進歩を遂げている。携帯電話やカーナビ、車を作ることが出来るだけの技術があれば、核ミサイルを作るなど全く難しい事ではないし、作り方だけならネットで誰でも見ることが出来る。だから今、国際社会は、核の拡散を防ぐために、材料と装置を中心に規制を行っているのだ」
「そ……そーなんすか。まさか国際情勢の勉強をすることになるとは。――ってちょっとシドーさん、そんな工場にウチの社員が派遣されたってぇ事は!?」
「出ましたよ、たぶんこれだと思います」

 清音がディスプレイを指し示す。そこには四年前のウルリッヒの資料から、関連すると思われる情報をピックアップした項目が並んでいた。

「日報には任務の詳細な情報までは書いてありませんでしたが、依頼主は……」
「そこなら知っている。NPO法人で、出資の大本は国連のはずだ」
「さすが詳しいっすね、シドーさん」

 四堂が操作をかわる。任務に使われたとおぼしきいくつかの事務的なドキュメントをネット上から呼び出して、そこにある定款や契約内容を確認した上で、判断を下した。

「ウルリッヒはこの法人と、有事の際に核不拡散のフォローを行う保険契約を交わしている。おそらく四年前に、それが履行されたのだろう」

 淡々と語る四堂。その内容を整理するうちに、土直神の顔から笑いが消えていく。

「……と、いうことは。要約すると?」

 対する四堂の声は、変わらす冷静だった。

「四年前。この元城市で、核兵器の密輸に関するなんらかの事件があった可能性が高い」

 土直神の表情が真剣さを帯びることで、ようやく清音は、これが冗談や茶飲み話ではないという事を実感できた。核兵器を巡る冒険物語など、それこそクラスの男子が読んでいる漫画の話である。

「そ、それで。一体ウチから誰が派遣されたんですか!?」

 
 ”――帰還せず。連絡途絶”

 
 ディスプレイの隅の文字列が、急速に不気味さを帯びてくる。

「日報に本名を書いてあるはずはない。あったとしても二つ名コードだが……ああ」

 急に四堂が珍しい声を出した。それは、驚きの声だった。

「知ってるヤツなんすか?」

 土直神の質問に、四堂は頷いた。

「知っている。だが、直接に会ったことはない」

 日報の一カ所をクリックする。英語で書かれた専門的な契約書の文面の中に、”actor”という場違いな単語が一つ、混じっていた。

「アクター?」

 またも頷く四堂。

「『役者アクター』。一昔前には、業界の中では知らぬ者無きほどの凄腕だった。戦闘能力はないが、あらゆる場所や組織に潜入し、重要な機密をいとも容易く持ち出してのけた」
「……そりゃあまた、ゼロゼロセブンも真っ青な凄腕スパイだぁね」

 清音も土直神も、どちらかと言えば戦闘や追跡、それも屋外が得意なタイプである。屋内や組織への潜入、機密奪取の事となるとどれだけ凄くともあまり実感はわかない。

「どんな能力を持っていたんですか?」

 四堂はそれについて、あくまでも伝説だが、と付け加えた上で述べた。

「一度会った人間には、まったく同じ顔、同じ声、同じ体つきに化けることが出来、完璧に当人のように振る舞うことが出来たらしい。業界には同じような能力者は多々いたが、それらの追随を許さない、超一流の変身能力者だったそうだ」
「……へんしん、」
「のうりょくしゃ!?」

 清音と土直神が、思わず顔を見合わせた。
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