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第5話:『六本木ストックホルダー』
◆04:人捜し(丸投げ)-3
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トミタ商事の破産管財人に就任した露木は、トミタの膨大な帳簿を一つ一つ調べ上げ、その金の流れを追い続けた。トミタの無謀な投資先、買い付けた後暴落した不動産やゴルフ場。トミタが破産寸前とわかっていて不良物件を売りつけた企業もあり、そこにも彼は責任を認めさせ、一部の返金に応じさせた。
さらにはアクロバティックな論法で、トミタ幹部が納めた所得税すら国から取り返したのである。
数年に及ぶ死闘の末回収出来たのは、それでも実際のところ二百億円、一割程度だったが、彼が確実に一つ取り戻したものがあった。国や関係企業、そして世間にトミタの被害者達の正当性を認めさせることで救った、被害者の尊厳である。
後に、事件に関わった裁判官は、非公式ではあるがこうコメントを残している。『露木弁護士が取り戻したのは、お金だけではない。罪のない人々を守るためにこそ法があるのだという、法治国家の信頼もだ』と。
チーフが語り終えると、応接間の雰囲気はお通夜みたいになってしまっていた。
「……それにしてもひどい話だね」
「もう歴史上のできごとになりつつあるがな。まあ、露木弁護士のおかげで、多くの人が救われた事は間違いない。大学の法学部にも弁護士目指してる奴は結構いるけど、この人に憧れて志したって奴は多いもんなあ」
「聞いた事もなかったよ」
真凛が口を尖らす。おれは丸めた書類でやつの頭を軽く叩いた。
「いたっ」
「だからちゃんと新聞を読んでおけと言ってるだろう」
最近のおれの第一課題は、こやつに一般常識を叩きこむことである。
「そう言うな。真凛君がわからないのも無理もない。法曹界の英雄とは言え、引退してもう十年以上経つからな。社会人だって知らない奴の方が多いよ」
「コイツを甘やかしちゃいかんですよチーフ。本気で仕事をやらすつもりなら、まずはキチンと業界の基礎知識を固めさせておかないと」
「わかったわかった」
チーフは苦笑した。
「それで、な。この伝説の弁護士露木甚一郎がイズモに依頼したのはこうだ。十五年前に家を出てアメリカに渡った一人息子を探してくれ、とね」
「家出息子が居たってのは初耳ですねえ。まあ、でもそれならそれで、調査員と探知能力者が掃いて捨てるほど居るイズモの独壇場でしょう。何もウチが出張る必要はない」
おれは任務依頼を丸めたままソファーに背を預けた。
「ああ。さすがにイズモの連中も優秀でな。その息子の存在自体はすぐに見つけ出したんだよ。アメリカの大学を卒業し、数年前に日本に戻ってきている」
「はあ。じゃあ依頼は無事解決ってワケですか?」
「いいや。問題は、見つけたその後に発生したんだ。そしてソレが、イズモがウチに依頼を投げてきた原因でもある」
そう言うとチーフは、任務依頼書を数項めくった。
「これが、露木弁護士の息子……露木恭一郎の現在の姿だ」
そこに添付されていた写真を見て、おれと、真凛までが声を上げていた。
「これ、水池恭介じゃないですか!」
「……あの”ドラゴン水池”だよ、ね?」
いささか自信なさげに真凛が問う。おれは頷いた。
「なんだか今日は随分大物に縁がありますねぇ」
おれはここ一年ほど散々テレビを賑わせている男の写真をつまみあげた。
さらにはアクロバティックな論法で、トミタ幹部が納めた所得税すら国から取り返したのである。
数年に及ぶ死闘の末回収出来たのは、それでも実際のところ二百億円、一割程度だったが、彼が確実に一つ取り戻したものがあった。国や関係企業、そして世間にトミタの被害者達の正当性を認めさせることで救った、被害者の尊厳である。
後に、事件に関わった裁判官は、非公式ではあるがこうコメントを残している。『露木弁護士が取り戻したのは、お金だけではない。罪のない人々を守るためにこそ法があるのだという、法治国家の信頼もだ』と。
チーフが語り終えると、応接間の雰囲気はお通夜みたいになってしまっていた。
「……それにしてもひどい話だね」
「もう歴史上のできごとになりつつあるがな。まあ、露木弁護士のおかげで、多くの人が救われた事は間違いない。大学の法学部にも弁護士目指してる奴は結構いるけど、この人に憧れて志したって奴は多いもんなあ」
「聞いた事もなかったよ」
真凛が口を尖らす。おれは丸めた書類でやつの頭を軽く叩いた。
「いたっ」
「だからちゃんと新聞を読んでおけと言ってるだろう」
最近のおれの第一課題は、こやつに一般常識を叩きこむことである。
「そう言うな。真凛君がわからないのも無理もない。法曹界の英雄とは言え、引退してもう十年以上経つからな。社会人だって知らない奴の方が多いよ」
「コイツを甘やかしちゃいかんですよチーフ。本気で仕事をやらすつもりなら、まずはキチンと業界の基礎知識を固めさせておかないと」
「わかったわかった」
チーフは苦笑した。
「それで、な。この伝説の弁護士露木甚一郎がイズモに依頼したのはこうだ。十五年前に家を出てアメリカに渡った一人息子を探してくれ、とね」
「家出息子が居たってのは初耳ですねえ。まあ、でもそれならそれで、調査員と探知能力者が掃いて捨てるほど居るイズモの独壇場でしょう。何もウチが出張る必要はない」
おれは任務依頼を丸めたままソファーに背を預けた。
「ああ。さすがにイズモの連中も優秀でな。その息子の存在自体はすぐに見つけ出したんだよ。アメリカの大学を卒業し、数年前に日本に戻ってきている」
「はあ。じゃあ依頼は無事解決ってワケですか?」
「いいや。問題は、見つけたその後に発生したんだ。そしてソレが、イズモがウチに依頼を投げてきた原因でもある」
そう言うとチーフは、任務依頼書を数項めくった。
「これが、露木弁護士の息子……露木恭一郎の現在の姿だ」
そこに添付されていた写真を見て、おれと、真凛までが声を上げていた。
「これ、水池恭介じゃないですか!」
「……あの”ドラゴン水池”だよ、ね?」
いささか自信なさげに真凛が問う。おれは頷いた。
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おれはここ一年ほど散々テレビを賑わせている男の写真をつまみあげた。
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