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第4話:『不実在オークショナー』
◆08:作戦会議(その1)-2
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「あ、ええー。須江貞さんは、ちゃんと話を聞いてくれます。いつも。でも、私の説明が下手でいつも御迷惑をおかけして、そのう」
いつでも落ち着いた雰囲気の来音さんが取り乱すのは須江貞さん関係の会話の時である。ちなみに須江貞さんとは、うちの正規スタッフで、仁サンのさらに上に位置する、いわば実働部隊の元締めである。
普段はおれ達同様、一、二人で仕事に当たっているが、うちの総力を結集するときは、須江貞さんの指揮の下に仁サンやおれ、直樹が入る事になる。ま、よほどの事がない限りそんな事態はありえないんだけど。おれの表情を見て、からかわれたと気づいた来音さんは顔を赤くする。
「もう!陽司さんからかわないでください。ほら、続けますよっ。……十年ほど前まで『狂蛇』の主な資金源は偽ブランド品の輸出が主でした」
照れ隠しにアイスティーのグラスをくるくると回転させる来音さん。ってあれ?注いであったのはファンタオレンジじゃなかったか?……まあ、多分おれの勘違いだろう。
スクラップブックに貼り付けられた記事を見ると、確かに『偽ブランド品またも店舗で発見される』、『貨物船倉庫から偽ブランド』などの文面が踊っている。ちなみにこのスクラップブックと言うのは以外とバカに出来ない。一つの対象に絞って記事を集めてみると、その対象についての全体的な流れが、まるで物語のように浮かび上がってくることがよくあるのだ。
「しかし……ああ、ここ数年は、摘発された記事の方が多いですね。警察と税関が頑張ったんだろうなあ」
一時期、日本に紛れ込んだとんでもない輸入品を追跡する為に、税関の皆さんと一緒に仕事をしたことがあるのだが、現場で働く人は、皆使命感に燃えた真面目な人だった。
「はい。その分、彼等は密入国、いえ、人身売買の方に基盤を移していくようになりました。以後この流れは変わらず、現在まで到ります」
そういうことか。おれはパソコンでエクセルを立ちあげると、簡単な計算表をつくった。
「ところが、最近異様に安くて、どう考えても本物としか思えないプルトンのブランド品が大量に出回っている。ミサギ・トレーティングを経由して、ナガツマ倉庫にストックしたバッグを捌いているその黒幕がもし『狂蛇』だとすると」
「今までミサギ・トレーディングが出品したブランド品の数は、わかっているだけで三千点です」
「三千ですか!そりゃまた短期間の間にずいぶん手広く捌いたもんですね。いろいろバッグの種類があるけど平均して八万円として。一個当たり六万円の粗利が出るとすれば……」
PCに数字を埋めていく。
「一億八千万円の利益。さらに取引が拡大していけば、利益は倍々で増えていくでしょう」
「『狂蛇』にとっては、今後密入国の手引きよりもオイシイ話、になるかも知れないわけですね」
「ダミーとは言え、現にミサギ・トレーディングという実体がある会社を作っているということは、彼等も本腰を入れていると考えて良いと思います」
それだけの金の卵であれば、何としても守りぬこうとするだろう。『狂蛇』なら海鋼馬とはツーカーの仲だ。かくして『毒竜』と、『定点観測者』鯨井さんがあそこにやってきた、という事か。
「しかし。こうなると、例のバッグが本物である可能性は限りなく低いと言わざるを得ませんね。本物であればどう足掻いてもあの価格で利益が出せるはずがない。盗難品だとしても、三千点も盗まれて何も情報があがってこないなんて事も考えられない」
「では、導き出される疑問点は、どこでどうやって偽物を製造しているか、ですねえ」
来音さんが形のよい眉をひそめて腕を組む。
おれはドリンクバーにグラスを持っていってオレンジジュースを注ぐ。その後ろでいつのまにか烏龍茶のグラスを空にしている来音サンナンテ見エルワケナイヨ。
いつでも落ち着いた雰囲気の来音さんが取り乱すのは須江貞さん関係の会話の時である。ちなみに須江貞さんとは、うちの正規スタッフで、仁サンのさらに上に位置する、いわば実働部隊の元締めである。
普段はおれ達同様、一、二人で仕事に当たっているが、うちの総力を結集するときは、須江貞さんの指揮の下に仁サンやおれ、直樹が入る事になる。ま、よほどの事がない限りそんな事態はありえないんだけど。おれの表情を見て、からかわれたと気づいた来音さんは顔を赤くする。
「もう!陽司さんからかわないでください。ほら、続けますよっ。……十年ほど前まで『狂蛇』の主な資金源は偽ブランド品の輸出が主でした」
照れ隠しにアイスティーのグラスをくるくると回転させる来音さん。ってあれ?注いであったのはファンタオレンジじゃなかったか?……まあ、多分おれの勘違いだろう。
スクラップブックに貼り付けられた記事を見ると、確かに『偽ブランド品またも店舗で発見される』、『貨物船倉庫から偽ブランド』などの文面が踊っている。ちなみにこのスクラップブックと言うのは以外とバカに出来ない。一つの対象に絞って記事を集めてみると、その対象についての全体的な流れが、まるで物語のように浮かび上がってくることがよくあるのだ。
「しかし……ああ、ここ数年は、摘発された記事の方が多いですね。警察と税関が頑張ったんだろうなあ」
一時期、日本に紛れ込んだとんでもない輸入品を追跡する為に、税関の皆さんと一緒に仕事をしたことがあるのだが、現場で働く人は、皆使命感に燃えた真面目な人だった。
「はい。その分、彼等は密入国、いえ、人身売買の方に基盤を移していくようになりました。以後この流れは変わらず、現在まで到ります」
そういうことか。おれはパソコンでエクセルを立ちあげると、簡単な計算表をつくった。
「ところが、最近異様に安くて、どう考えても本物としか思えないプルトンのブランド品が大量に出回っている。ミサギ・トレーティングを経由して、ナガツマ倉庫にストックしたバッグを捌いているその黒幕がもし『狂蛇』だとすると」
「今までミサギ・トレーディングが出品したブランド品の数は、わかっているだけで三千点です」
「三千ですか!そりゃまた短期間の間にずいぶん手広く捌いたもんですね。いろいろバッグの種類があるけど平均して八万円として。一個当たり六万円の粗利が出るとすれば……」
PCに数字を埋めていく。
「一億八千万円の利益。さらに取引が拡大していけば、利益は倍々で増えていくでしょう」
「『狂蛇』にとっては、今後密入国の手引きよりもオイシイ話、になるかも知れないわけですね」
「ダミーとは言え、現にミサギ・トレーディングという実体がある会社を作っているということは、彼等も本腰を入れていると考えて良いと思います」
それだけの金の卵であれば、何としても守りぬこうとするだろう。『狂蛇』なら海鋼馬とはツーカーの仲だ。かくして『毒竜』と、『定点観測者』鯨井さんがあそこにやってきた、という事か。
「しかし。こうなると、例のバッグが本物である可能性は限りなく低いと言わざるを得ませんね。本物であればどう足掻いてもあの価格で利益が出せるはずがない。盗難品だとしても、三千点も盗まれて何も情報があがってこないなんて事も考えられない」
「では、導き出される疑問点は、どこでどうやって偽物を製造しているか、ですねえ」
来音さんが形のよい眉をひそめて腕を組む。
おれはドリンクバーにグラスを持っていってオレンジジュースを注ぐ。その後ろでいつのまにか烏龍茶のグラスを空にしている来音サンナンテ見エルワケナイヨ。
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