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第3話:『中央道カーチェイサー』
◆11:ダメ学生(チート)VSダメ人間(吸血鬼)-2
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境川PAを出発してから、機をはかっていたのであろう。見上さんの駆る業務用のカローラが、直樹の『カミキリムシ』とおれ達の『隼』に向けて突っ込んできた。先程玲沙さんと見上さんが連絡した際に作り上げていた仕掛けだろう。この機を待ち構えていた玲沙さんに対して、おれとの駄弁りに興じていた直樹は反応が一瞬遅れた。バランスがくずれ、大きすぎる回避運動をとってしまう。ラインが……開いた。
『行きます』
もはや言われずともわかっている。玲沙さんの掌が翻り、アクセルが開放される。待ち望んでいたかのように周囲を圧して轟く『隼』のエンジンの咆哮。開いたラインに強引な割り込みをかけ、そして一気に――抜いた。『カミキリムシ』の周到な妨害を突破したのだ。一度枷を解かれてしまえば、猛禽の王に追随する者があろうはずもない。例え直樹の人外の反射神経と『カミキリムシ』の性能があったとしても。
『最速で、獲ります』
この、『薄皮を剥くように』最適最短の道を疾走する最高のライダーに、つけいる隙はもはやない。カーブを曲がるたび、前方の車両を抜き去るたびに、少しずつ、だが確実に開いていく両者の差。
役目を終えた見上さんの車が路肩に緊急停止する頃には、『隼』は『カミキリムシ』に十メートルの――わずかだが決して埋めることの出来ない十メートルの差をつけていた。さぁて、そろそろかな。意識を再び内面へ。おれはぶら下げたままの鍵を、またも持ちかえなおした。
『亘理陽司の』『指差すものは』
俺は上半身を捻り、『真紅の魔人』を指差す。奴の名前を直接文言に織り込むのは今の俺には危険に過ぎた。追いつけないと判断した奴が最後の一撃を仕掛けてくるのは、まさにこの時機を置いて他にない。
『亘理陽司に』『触れる事はない』
果たして、大気を裂いてこちらに飛来するのは……奴が己の冷気で作り出した氷の投槍。飛び道具に絞った俺の判断は正鵠を得た。奴の投じた必殺の一撃は、だが強烈な向かい風に狙いを外され、地面に飲み込まれて砕けた。
「……って、あいつがこの距離で槍を外す確率なんて、考えるだけでも悲しくなるほど低いんだがな」
おれは頭痛に泣きそうになる。起こりやすい事象であればあるほど、因果を捻じ曲げるには強力な『鍵』が必要になる。素人が三十メートル先から撃った銃弾が自分に『当たらない』ようにするのはおれにとっては容易だ。というか、そもそも当たる確率の方が低いだろう。十回中一回しか当たらないとすれば、おれは『当たってしまう一回』に鍵をかければ良い。
だが、例えば一メートルと離れていない距離から凄腕の殺し屋が放った弾を『当たらない』ようにするのはとんでもなく大変だ。弘法も筆の誤り、千回に一回くらいはミスしてくれるかもしれない。だが、おれが『それをモノにする』ためには、当たってしまう『九百九十九回』全てに鍵をかけてまわらなければならないのだ。
強力で正確無比な吸血鬼の攻撃を『外す』のは並大抵の仕事ではない。表面には何の兆候も現れないものの、おれの中に蓄えられた見えないコインがごっそりと持っていかれたのを感覚する。だが、それだけの成果はあった。槍を作り出し投げるという行動は、一秒の奪い合いとなるこのスピードの世界では致命的だった。
一気に二十メートル以上離される直樹。やがて、直線を抜け、勝沼を過ぎ、トンネルを抜けて初狩に至る頃には、直樹の姿はバックミラーから完全に消え去っていた。
『むぅ……。さすが『剃刀』。力任せの運転ではこれが限界か』
「はっはっは、ざまぁ見さらせ。せいぜいアニメ内の台詞を脳内で自分の名前に置き換えて楽しむ人生を送るんだな」
追跡の間中ずっと罵詈雑言を言い合っていた直樹に一方的に勝利宣言をすると、おれは『アル話ルド君』を切断した。決着をつける事は出来なかったが、まあ焦る事は無い。いずれは否応なしに通る道だ。と、新たな回線が開いて、今回のMVP……勝てればだが……に繋がった。
『指示役以外にも活躍出来たみたいでよかったよ』
「ホンッッットありがとうございました見上さん!」
率直な賞賛の念を込めておれは礼を述べた。本来は戦力外と考えていた見上さんのおかげで、直樹を実質無力化できたのである。これで大きく天秤をこちら側に傾けることができた。
『私は近くのPAに移動して、そこでまたクラウンの位置を確定する。都内に入られると何かと行動が制限されるから、それまでになんとしても奴に追いついてくれ』
『わかりました。時間としては、まだ何とか可能なはずです』
『行きます』
もはや言われずともわかっている。玲沙さんの掌が翻り、アクセルが開放される。待ち望んでいたかのように周囲を圧して轟く『隼』のエンジンの咆哮。開いたラインに強引な割り込みをかけ、そして一気に――抜いた。『カミキリムシ』の周到な妨害を突破したのだ。一度枷を解かれてしまえば、猛禽の王に追随する者があろうはずもない。例え直樹の人外の反射神経と『カミキリムシ』の性能があったとしても。
『最速で、獲ります』
この、『薄皮を剥くように』最適最短の道を疾走する最高のライダーに、つけいる隙はもはやない。カーブを曲がるたび、前方の車両を抜き去るたびに、少しずつ、だが確実に開いていく両者の差。
役目を終えた見上さんの車が路肩に緊急停止する頃には、『隼』は『カミキリムシ』に十メートルの――わずかだが決して埋めることの出来ない十メートルの差をつけていた。さぁて、そろそろかな。意識を再び内面へ。おれはぶら下げたままの鍵を、またも持ちかえなおした。
『亘理陽司の』『指差すものは』
俺は上半身を捻り、『真紅の魔人』を指差す。奴の名前を直接文言に織り込むのは今の俺には危険に過ぎた。追いつけないと判断した奴が最後の一撃を仕掛けてくるのは、まさにこの時機を置いて他にない。
『亘理陽司に』『触れる事はない』
果たして、大気を裂いてこちらに飛来するのは……奴が己の冷気で作り出した氷の投槍。飛び道具に絞った俺の判断は正鵠を得た。奴の投じた必殺の一撃は、だが強烈な向かい風に狙いを外され、地面に飲み込まれて砕けた。
「……って、あいつがこの距離で槍を外す確率なんて、考えるだけでも悲しくなるほど低いんだがな」
おれは頭痛に泣きそうになる。起こりやすい事象であればあるほど、因果を捻じ曲げるには強力な『鍵』が必要になる。素人が三十メートル先から撃った銃弾が自分に『当たらない』ようにするのはおれにとっては容易だ。というか、そもそも当たる確率の方が低いだろう。十回中一回しか当たらないとすれば、おれは『当たってしまう一回』に鍵をかければ良い。
だが、例えば一メートルと離れていない距離から凄腕の殺し屋が放った弾を『当たらない』ようにするのはとんでもなく大変だ。弘法も筆の誤り、千回に一回くらいはミスしてくれるかもしれない。だが、おれが『それをモノにする』ためには、当たってしまう『九百九十九回』全てに鍵をかけてまわらなければならないのだ。
強力で正確無比な吸血鬼の攻撃を『外す』のは並大抵の仕事ではない。表面には何の兆候も現れないものの、おれの中に蓄えられた見えないコインがごっそりと持っていかれたのを感覚する。だが、それだけの成果はあった。槍を作り出し投げるという行動は、一秒の奪い合いとなるこのスピードの世界では致命的だった。
一気に二十メートル以上離される直樹。やがて、直線を抜け、勝沼を過ぎ、トンネルを抜けて初狩に至る頃には、直樹の姿はバックミラーから完全に消え去っていた。
『むぅ……。さすが『剃刀』。力任せの運転ではこれが限界か』
「はっはっは、ざまぁ見さらせ。せいぜいアニメ内の台詞を脳内で自分の名前に置き換えて楽しむ人生を送るんだな」
追跡の間中ずっと罵詈雑言を言い合っていた直樹に一方的に勝利宣言をすると、おれは『アル話ルド君』を切断した。決着をつける事は出来なかったが、まあ焦る事は無い。いずれは否応なしに通る道だ。と、新たな回線が開いて、今回のMVP……勝てればだが……に繋がった。
『指示役以外にも活躍出来たみたいでよかったよ』
「ホンッッットありがとうございました見上さん!」
率直な賞賛の念を込めておれは礼を述べた。本来は戦力外と考えていた見上さんのおかげで、直樹を実質無力化できたのである。これで大きく天秤をこちら側に傾けることができた。
『私は近くのPAに移動して、そこでまたクラウンの位置を確定する。都内に入られると何かと行動が制限されるから、それまでになんとしても奴に追いついてくれ』
『わかりました。時間としては、まだ何とか可能なはずです』
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