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第3話:『中央道カーチェイサー』
◆04:21世紀の剣闘士(アマチュア)−2
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「どーにも気に入らないですねぇ」
サービスエリアの駐車場に出て軽くストレッチをする。仁サンが車に積んできたライダー用のツナギの感覚は、所々に分厚いプロテクターが仕込んであることもあって、どうにも慣れない。フルフェイスのメットもしばらくかぶる気になれず、おれは手持ち無沙汰に他のエージェントとの合流を待っていた。今回はおれ達以外の派遣会社のメンバーが『運び屋』を務めることになっている。
「あン?何がだよ」
「何ていうか、弓削サンのコメントが。正論なだけになお腹が立つっていうか」
恥ずかしながら当方、最近『えるみか』の単行本を直樹に借りて読んだ次第。そこであとがきや巻末のおまけマンガに時折登場する『編集Y女史』は、ああいう人ではなかったと思ったのだが。
「はっはっは、陽チンはまだまだ甘い。佳い女の言う事に間違いは無いのだ」
ろくに情報を持って無いくせに首から下で返答しないで頂きたい。
「あ、お前、俺の佳い女センサーを甘く見ているな?」
「表情だけでこちらのコメントを読み取るのもやめてい頂きたいですね」
くだらない掛け合いをだらだらと続けている内に、もはや時刻は深夜二十五時にさしかかろうとしていた。
「んじゃ、俺は行くぜ。後は頑張んな」
バンに乗り込み、愛車に火を入れる仁サンが運転席から挨拶を述べる。
「名古屋でしたっけ?」
「ああ。一旦諏訪で降りてな。ここまでの交通費も出てることだし、気晴らしには丁度いい」
どうせ夜の気晴らしだろうが。
「あんまり関西方面に近づくと、実家に捕捉されるんじゃないッスか?」
実は仁サンは御実家との仲がよろしくない。追い出された、と言うか追われていると言うか……まあ色々と複雑な事情があるのだ。
「居残りの三下どもじゃ俺の影も踏めんよ」
「そッスか。じゃあおれは警告したと言う事で。後で茜さんに絞られてもおれのせいにしないでくださいよ?」
「おい、お前まさか」
隣の車のクラクションを受けて、おれは離れる。仁サンは舌打ちを一つすると、車を走らせていった。やれやれ。当人が実家ともめる分には一向に構わないが、縁談だのなんだののとばっちりを飛ばされてはたまった物ではない。去りゆくバックライトを見やって肩をすくめた。と、
「亘理陽司さん、ですか?」
背後から声をかけられ、思わず背筋が伸びた。任務用に至急されたダイバーズウォッチを見やると、時刻はぴったり二十五時。振り返ると、猛々しい双眸が、こちらを睨んでいた。
サービスエリアの駐車場に出て軽くストレッチをする。仁サンが車に積んできたライダー用のツナギの感覚は、所々に分厚いプロテクターが仕込んであることもあって、どうにも慣れない。フルフェイスのメットもしばらくかぶる気になれず、おれは手持ち無沙汰に他のエージェントとの合流を待っていた。今回はおれ達以外の派遣会社のメンバーが『運び屋』を務めることになっている。
「あン?何がだよ」
「何ていうか、弓削サンのコメントが。正論なだけになお腹が立つっていうか」
恥ずかしながら当方、最近『えるみか』の単行本を直樹に借りて読んだ次第。そこであとがきや巻末のおまけマンガに時折登場する『編集Y女史』は、ああいう人ではなかったと思ったのだが。
「はっはっは、陽チンはまだまだ甘い。佳い女の言う事に間違いは無いのだ」
ろくに情報を持って無いくせに首から下で返答しないで頂きたい。
「あ、お前、俺の佳い女センサーを甘く見ているな?」
「表情だけでこちらのコメントを読み取るのもやめてい頂きたいですね」
くだらない掛け合いをだらだらと続けている内に、もはや時刻は深夜二十五時にさしかかろうとしていた。
「んじゃ、俺は行くぜ。後は頑張んな」
バンに乗り込み、愛車に火を入れる仁サンが運転席から挨拶を述べる。
「名古屋でしたっけ?」
「ああ。一旦諏訪で降りてな。ここまでの交通費も出てることだし、気晴らしには丁度いい」
どうせ夜の気晴らしだろうが。
「あんまり関西方面に近づくと、実家に捕捉されるんじゃないッスか?」
実は仁サンは御実家との仲がよろしくない。追い出された、と言うか追われていると言うか……まあ色々と複雑な事情があるのだ。
「居残りの三下どもじゃ俺の影も踏めんよ」
「そッスか。じゃあおれは警告したと言う事で。後で茜さんに絞られてもおれのせいにしないでくださいよ?」
「おい、お前まさか」
隣の車のクラクションを受けて、おれは離れる。仁サンは舌打ちを一つすると、車を走らせていった。やれやれ。当人が実家ともめる分には一向に構わないが、縁談だのなんだののとばっちりを飛ばされてはたまった物ではない。去りゆくバックライトを見やって肩をすくめた。と、
「亘理陽司さん、ですか?」
背後から声をかけられ、思わず背筋が伸びた。任務用に至急されたダイバーズウォッチを見やると、時刻はぴったり二十五時。振り返ると、猛々しい双眸が、こちらを睨んでいた。
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