人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第3話:『中央道カーチェイサー』

◆03:出版業界騒動顛末記-2

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 そして、半年以上継続しているこの『ルシフェル事変』において、当初から一貫して一番の台風の目だったのが、『あかつき』のトップ人気マンガ、『えるみかスクランブル』である。

 主要の連載の多くが打ち切られ、また『SEASON』に移される間も、その後も、一番人気の『えるみか』だけはそういった目に遭う事が無かった。理由は簡潔。稼ぐ金が大きすぎて、ワンマン社長と言えども迂闊に手が出せなかったのである。

 アニメ化、CDドラマ化もなされ、フィギュア等のグッズ類が上げる利益は莫大。『あかつき』は知らなくても『えるみか』は知っている、という人々が多数居るこの御時世だ。『えるみか』の連載中止はそのまま『あかつき』の致命傷に、いや、もはや母体であるホーリック社の屋台骨にまで大きな損害を与えかねないものとなっていたのである。

 反面、『ルシフェル』としては、『えるみか』とその作者『瑞浪ミズナミ紀代人キヨト』は何としてでも自社側に引き抜いておきたいカードだった。人気連載をまとめて引き抜いたミッドテラス社も、お家騒動のゴタゴタで多くの読者の離反を招いており、決して安穏と出来る状況ではなかったのである。――もっと辛辣に言ってしまえば、『えるみか』という人気作品なしに、単品で勝負出来るだけの連載が無かったと解釈する事も出来る。

 ミッドテラス社は設立当時から瑞浪氏に対して強い勧誘を続けていたが、先の理由によりホーリック社もこれだけは例外と断固として勧誘を跳ねつける。やがて、ミッドテラスの勧誘とそれに対するホーリックの妨害は次第に強引、強硬なものとなり、両社に挟まれた形になった瑞浪氏は執筆以外のストレスに体調を崩すようになっていった。

 
 そして数ヶ月が経過したころには、『ルシフェル事変』は、著作権の正当性や各作家の意志という諸問題から、次第に『瑞浪紀代人はどちらで連載をすべきか』という、きわめて生臭い一点に集約していったのである。片や、専制君主の意向で切り捨てたいのに切り捨てる事が出来ない『あかつき』側と、喉から手が出るほど切実に欲しいのに、『あかつき』で連載されている限り手出しが出来ない『ルシフェル』。決め手を欠く両社が表と裏の双方の世界で暗闘を繰り広げて行くうちに、事態は深刻さを増す一方だった。

 世に少年漫画雑誌は『あかつき』と『ルシフェル』だけに在らず。アニメ化される人気マンガは『えるみか』だけに在らず。両社が終わらぬいさかいを繰り返す内に、奪い合いをしているはずの読者達はどんどん他誌へと流れていった。当然と言えば当然のことではある。

 ゴタゴタが続く内に当の『えるみか』も”作者都合により”休載がちになっており、殊に現在は、41話が掲載されてから既に三ヶ月連載がストップしていた。出版社間の裏事情は当の昔にあまさずネット経由で一般にもぶちまけられており、読者の怒りは頂点に達していた。

 
 このままでは共倒れ。

 
 その認識を持つに到った双方は、極めて合理的な問題解決方法を選択した。すなわち――ケーキの取り合いになったらジャンケンで勝負を決める。これと同様に、企業間の揉め事になったら、『異能力者達の競争』で勝負を決める。――ここ最近、企業間の裏社会で急速に広まりつつある方法を。
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