人災派遣のフレイムアップ

紫電改

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第2話:『秋葉原ハウスシッター』

◆11:水をたたえし西の瓜−2

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「私は学生時代に農学部に所属していた、というお話はしましたよね。実は一年ほどそこの研究生達で、ボランティアとして各国へ技術協力をしにいったことがあるんです。そこは見渡す限りの砂漠でしてね。その過酷な条件でも作物を栽培出来るようにするのが私たちの仕事だったんです。そこで同じくボランティアの通訳として来ていたのが瑞恵……妻だったのですよ」

 同じ目的を持つ二人はたちまち意気投合したのだという。

「砂漠にもっとも適しているのはスイカ、メロンなどの瓜類なんです。そもそもがアフリカの砂漠のオアシスが原産地ですし。中国の内陸部なんかでは、売り物にもなるし、持ち運びが出来る手軽な水分としても非常に重要な役割を果している。経済と食糧事情の双方に改善効果があるわけです。どちらで行くか試行錯誤したのですが、我々はスイカを選ぶことにしました。過去、実績もありましたしね」

 笹村氏には自信も熱意もあった。そして後に奥方となる女性の支えもあったのだが、結果として、一年をかけたこの試みは失敗に終わったのだという。

「気温が低かったんです」

 とは、笹村氏の弁だ。

「砂漠ですから当然、日夜の温度差が激しいことは覚悟していました。しかし、肝心の日中の気温が、アフリカや中東の砂漠とは大きく異なっていたのです。結果として私たちの持ち込んだ品種は、ろくな実をつけることはありませんでした」

 口惜しかったですね、と笹村氏は言った。きっと本当に口惜しかったのだろう。今その言葉を口にした時も、その表情は苦かった。

「日本に引き揚げて妻と結ばれてからは私は外国に出ることはありませんでした。妻はあちこち飛び回っていましたがね。でも、あの時の悔しさは妻も同じだったのだと思います」

 いつかあの国に、もう一回スイカを作りに行こう。それが奥さんの口癖だったのだと言う。だからもっと低い気温でも実る強いスイカを生み出してくれ、私も手伝う。そんな事を言っていたのだそうだ。

「私もその思いは一緒でしたよ。でもやはり就職してからは忙しくて、正直それどころではなかった。気がつけば十年も経ってしまっていましたよ。あいつが死んで、ようやく本気で作る気になったなんて、馬鹿な話です」

 視線はおれに向けられてはいない。その先にあるものはまた、別の風景か、人物なのか。

「だから、このスイカは、味も収穫量も、現行の品種と大差はありません。しいて言えば、冷夏でも実る。それがこのスイカに隠された秘密です」
「冷夏でも実るスイカ、ねえ」

 おれは首を傾げた。んなもんあんなブッソウな奴を雇ってまで奪いに来るものかねえ?
と、そんな思考は背後からの声に遮られた。

「おい、亘理、携帯が鳴っているぞ」
「おっとと」

 慌てて携帯を取り出す。相手は……真凛か。

「真凛か。どうした?」
『陽司?あのねえ。たしかあの宅配便のおじさんの会社ってあそこだったよね?』

 真凛が大手の名前を挙げる。たしかにそのとおりだ。

『今、ここから外を見てるんだけど。荷物を配っているにしては不審な動きの人が、それぞれ三人。なんかここを取り囲んでるみたいだよ』

 ふむ。どうやらあちらさんもだんだん手段を選ばなくなってきたってことかな。どうやらあまりここに長居をしているわけにもいかないようだった。

「了解。おれ達もすぐにそっちに行く」
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