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第0話:『傭兵』VS『傭兵』
◆00:ある派遣社員の戦闘−3
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「いってて……!未成年相手にちっと容赦なさすぎじゃないです?ほら、プロはプロらしく、カタギには手を出さないとか、そいういうのないの?」
迫りくる大男に、おれは降参するように両手を掲げた。
「はっ、もちろんカタギには手を出さんよ。一応これでも『仁義』はなるべく通すクチでな。だがもちろん、それは性悪で凶悪なエージェントには適用されん」
「……あれ、もしかしておれの事知ってる?」
『強奪屋』の表情はいっそ褒め称えたくなる程にいい笑顔だった。
「一つ教えてやろう。俺たちがなぜ、日本の車メーカーの仕事なんぞを受けたと思う?」
「報酬がいいから?」
「それもある。だが主な理由は、な。――お前らが噛んでいると聞いたからだよ、『人災派遣』の亘理陽司!!」
男が正確無比な軌道を描いてナイフを突き立てる、ことはなかった。超人的な反射神経で腕を掲げ、攻撃を――闇夜の向こうから放たれた飛び蹴りをガードしてのけたので。
「うそっ、防がれた!?」
闇夜の向こうから『強奪屋』に襲撃をかけた小柄な影が、そんな声を挙げる。おれは憮然としたまま、そいつに声をかけた。
「おいおい、そこはしっかり決めろよ、なんのためにこっちが小粋なトークで場をつないだと思ってるんだ」
「うるさいなあ!せっかく応援に来てあげたんだからもう少し感謝してよね!」
なにか言い返そうと思ってやめた。飛び蹴りをかました小柄な影と、かまされた『強奪屋』は静かに睨み合っており、もはやおれの割り込む余地はなかった。
「ほう、『殺捉者』もいるのか。白兵戦の達者だとか、近頃よく名前を聞くぞ」
「えっ、もしかしてボク有名?」
「真面目にやれよ、来るぞ!」
『強奪屋』の手首がひらめく。ハンマーグリップから橈骨動脈を斬りつけ、鳩尾を突きこむ。シンプルにして最速の殺人術。それに『殺捉者』は反応し、敢えて踏み込みナイフを持った手を内側から弾き、突きを捌く。鋼じみた体幹の『強奪屋』は全く体勢を崩さず、すばやく己の手元にナイフを引き戻すと更に正中線を突きこむ。弾く影。地味だが、背筋が冷えるほど剣呑なナイフファイティングが展開された。
「俺のナイフをここまで捌くとはな、自信に傷がつきそうだ!」
「ボクもびっくりだよ!あそこからの蹴りに完全に反応されるとか、修行をやりなおさないと!」
闇夜の中、腕と腕がぶつかる音が響き、時折僅かにナイフの刀身が煌めく。
「まったく戦闘民族の思考パターンときたら……お?」
おれは転がったまま携帯をながめ、……一つ、大きな安堵の息をついた。
「ちょっと陽司!ボケっとしてないで、今のうちにさっさと逃げるなりなんなりしてよ!」
闇夜の向こうから『殺捉者』の抗議。
「……いや、その必要はない。きちっとここで、憂いなく決着しよう」
おれの豪語に、『強奪屋』が笑う。
「ほう?俺に勝つつもりか?」
「ああ、勝つよ。何しろ――」
おれは携帯とサンプルのボルトをジャケットの内ポケットにしまい込むと、膝を払い立ち上がり。『強奪屋』に笑ってみせた。
「気前のいい友人が見つかってな。文化人類学のノートが手に入る目処がたった」
おれはやつに向けて手をかざし。
「まったく同感だよ、『強奪屋』。哀れな雇われの身の派遣社員。である以上――」
力を開放する。
「――さっさと片付けて、帰るとしようか」
迫りくる大男に、おれは降参するように両手を掲げた。
「はっ、もちろんカタギには手を出さんよ。一応これでも『仁義』はなるべく通すクチでな。だがもちろん、それは性悪で凶悪なエージェントには適用されん」
「……あれ、もしかしておれの事知ってる?」
『強奪屋』の表情はいっそ褒め称えたくなる程にいい笑顔だった。
「一つ教えてやろう。俺たちがなぜ、日本の車メーカーの仕事なんぞを受けたと思う?」
「報酬がいいから?」
「それもある。だが主な理由は、な。――お前らが噛んでいると聞いたからだよ、『人災派遣』の亘理陽司!!」
男が正確無比な軌道を描いてナイフを突き立てる、ことはなかった。超人的な反射神経で腕を掲げ、攻撃を――闇夜の向こうから放たれた飛び蹴りをガードしてのけたので。
「うそっ、防がれた!?」
闇夜の向こうから『強奪屋』に襲撃をかけた小柄な影が、そんな声を挙げる。おれは憮然としたまま、そいつに声をかけた。
「おいおい、そこはしっかり決めろよ、なんのためにこっちが小粋なトークで場をつないだと思ってるんだ」
「うるさいなあ!せっかく応援に来てあげたんだからもう少し感謝してよね!」
なにか言い返そうと思ってやめた。飛び蹴りをかました小柄な影と、かまされた『強奪屋』は静かに睨み合っており、もはやおれの割り込む余地はなかった。
「ほう、『殺捉者』もいるのか。白兵戦の達者だとか、近頃よく名前を聞くぞ」
「えっ、もしかしてボク有名?」
「真面目にやれよ、来るぞ!」
『強奪屋』の手首がひらめく。ハンマーグリップから橈骨動脈を斬りつけ、鳩尾を突きこむ。シンプルにして最速の殺人術。それに『殺捉者』は反応し、敢えて踏み込みナイフを持った手を内側から弾き、突きを捌く。鋼じみた体幹の『強奪屋』は全く体勢を崩さず、すばやく己の手元にナイフを引き戻すと更に正中線を突きこむ。弾く影。地味だが、背筋が冷えるほど剣呑なナイフファイティングが展開された。
「俺のナイフをここまで捌くとはな、自信に傷がつきそうだ!」
「ボクもびっくりだよ!あそこからの蹴りに完全に反応されるとか、修行をやりなおさないと!」
闇夜の中、腕と腕がぶつかる音が響き、時折僅かにナイフの刀身が煌めく。
「まったく戦闘民族の思考パターンときたら……お?」
おれは転がったまま携帯をながめ、……一つ、大きな安堵の息をついた。
「ちょっと陽司!ボケっとしてないで、今のうちにさっさと逃げるなりなんなりしてよ!」
闇夜の向こうから『殺捉者』の抗議。
「……いや、その必要はない。きちっとここで、憂いなく決着しよう」
おれの豪語に、『強奪屋』が笑う。
「ほう?俺に勝つつもりか?」
「ああ、勝つよ。何しろ――」
おれは携帯とサンプルのボルトをジャケットの内ポケットにしまい込むと、膝を払い立ち上がり。『強奪屋』に笑ってみせた。
「気前のいい友人が見つかってな。文化人類学のノートが手に入る目処がたった」
おれはやつに向けて手をかざし。
「まったく同感だよ、『強奪屋』。哀れな雇われの身の派遣社員。である以上――」
力を開放する。
「――さっさと片付けて、帰るとしようか」
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