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その出会いが発火点

第6話 ダイヤか炭石か

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 素晴らしいプロダクションの名前を考えつつ向かっているのは、ショッピングモールである。
 美希奈のマネージャーを引き受けはしたが、未来のスターの実力は見たことが無い。本格的に仕事を始める前にダイヤの原石かただの石炭か確認しておきたい。
 ダイヤの原石なら磨けばいいし。
 石炭なら潰れるほどのプレッシャーでダイヤにしてしまえばいい。
 私も契約した以上どんな手段だろうとベストを尽くす、これぞ仕事人、はやりの職人特集でメインを張れてしまう。
 そういう訳で社長権限で予定を調べると丁度今日の午後にショッピングモールが開催するイベントの賑やかしの前座として野外ステージで歌うことが分かったので、早速品定めに行くというわけだ。

 ショッピングモールはシネコンや色々な店が入った建物が中庭をぐるっと取り囲むように並んでいる。中庭には小川が流れベンチなどが設置される憩いの場。その中庭に野外ステージが設置されている。調べると客寄せの為にショッピングモールが月に一度くらいはそこそこの有名人と売り出しの新人を呼んでいるらしい。
 着くとちょうど美希奈の前のダンスグループがダンスを披露していた。若い娘四人くらいのユニットで、新人らしく荒々しく初々しい。
 客は買い物に来た家族連れがメインで、来てみたら何かやっていたので暇つぶしの気晴らしに見て聞いてみようくらいのもので、特定の誰かのファンという輩はいないようだ。
 ちょうどいい、美希奈の前の丁度いい物差しだ。未来の大スターならこのグループよりは客を湧かして欲しいものだ。
 このときカグリは美希奈に大スターの片鱗を見た、なんて自叙伝に書けるくらいのインパクトが欲しいところ。
 ダンスが終わればお義理の拍手がぱちぱちと鳴り響く。
 いよいよ美希奈の番だ。

 ステージに星が瞬いた。

 美希奈は新人とは思えないほどに堂々と臆すること無くステージに駆け上がってきただけだで、まだ何のパフォーマンスもしていないというのにステージが華やいだ。
 美希奈の服装は基本レオタード上からひらひらを付けたような激しいダンスを主体に置いた動きやすい格好。
 体に密着しているレオタードのおかげで躰付きはアスリートのように締まっているのが分かる。
 少なくても稽古を怠っているような慢心は無い。寧ろ先程のダンスグループよりダンスをする機能に特化した躰付きをしているようにすら見える。
「みんな~今日は美希奈のステージに来てくれてありがとう。じゃあ行っくっね~」
 くるっと廻ってタンと踏み込む。
 出だしのこのアクションだけで観客の目を奪った。
 おいおい、まさか本当にダイヤの原石なのか?
 己の実力を見誤った妄想少女の勘違いストーリーじゃ無いのか?
 数々の虚言を扱う虚構の旋律使いと言われた俺が本物に見込まれたとはどんな運命の悪戯だ?
 観客の目を奪って美希奈が歌い出す。
 まだ色気は無いがこの広い会場に響き渡るいい声だ。
 引き締まった腹筋などの密度の高い筋肉が声を響かせるのだろう。
 これで恋でも知って色艶が生まれたらどれだけの男を虜にするのやら。
 なぜこれほどの逸材が埋もれたままになっている? 
 AVなんかより普通に表の世界で大金を虜にする逸材だろ。
 あの事務所の連中はどうしょうもなく無能なのか?
 ダンスと歌声でこのまま観客を呑み込んでいくと思われた瞬間。
「ひっこめーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「へっぽこダンスをするくらいならぬげーーーーーーーーーーーーー」
「みみがいたいぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 オタ芸という押しのアイドルを応援する踊りがあるがあれの逆バージョン、嫌いなアイドルを潰す為の罵詈雑言と共に気持ち悪い踊りをする男達が表れた。
 これでいい気分で聞こうとした家族連れの観客達も顔を顰め、誰も美希奈の歌を聴こうとしなくなった。
 いいも悪いも惹き付けるアイドルは大変だと思いつつ美希奈を見ると、美希奈は全く動揺する様子無く歌って歌いきった。
 誰も注目して無くても歌うことを辞めない辞められない小鳥。
 これは俺も本気にならないといけないかな。
 その本物を虚構で彩ってみせましょう。

 美希奈が歌い終わってステージから引っ込むと男達も観客席から立ち上がった。そしてこの後のメインなど興味が無いとでもいうように立ち去っていく。
 俺はそれを付けだした。

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