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第二十話 偽悪の定め

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階段は光源に乏しく足下が覚束ない、多分本来なら案内人がランプか何かを用意して案内するのだろう。幸い夜目は利く方なので注意して階段を降りていくと、流石にトラップは無かったようで何事もなく下の階に付いた。
 下の階は階段から続く通路があり、ここではランプが灯されている。通路はきちんと石が引き詰められていて、土が剥き出しになっていることはない。地下洞窟というより、地下ダンジョンといった感じだ。通路はある程度進んだところで曲がっていて何処まで伸びているかここからは分からない。だが、ストレート部の左右にはドアが等間隔で並んでいて、ざっと6部屋くらいある。これがレストの情報にあった変態達が楽しむプレイルームなのか?
 はてさて、シーラを攫ったとして、まず男なら楽しむな。と言うことはこの部屋のどこかにシーラがいるということか。それともレストの話しにある変態ショー用の大部屋もあるということだから、そっちか。それとも自分の部屋でじっくり嬲っているかも知れない。
 クソッ、情報が足りなすぎて、どれも妄想と変わらないレベルの推理だ。こんな行き当たりばったりでスマートじゃない仕事なんて駆け出しの頃以来だぜ。
「どうすんのよ」
 立ち止まる俺にセミューがイライラした様子で聞いてくる。少しは考えさせろよ、依頼人に対して失礼な奴だ。
 情報が欲しい。取り敢えず、この通路の先がどうなっているか確認しよう。
「奥に行くぞ」
「はいはい」
 セミューがやる気なさそうに返事した。此奴はどっちにしろ俺のことが嫌いなんだろ。ビジネスライクな付き合いを求める俺だが、少し考えを改めてこれからは愛想も雇用条件にいれるか。
まあいい、気を取り直して通路を進み出したところで、ガチャッと真横のドアが開いた。
 中から出てきた男と目が合う。
 互いに一瞬見つめ合うが行動は俺の方が早かった。
 ガッと男の喉元を抑えて部屋の中に押し込み返す。セミューが続いて入るとドアをさっと閉める。
 ふんっ口は悪いが何も言わなくても流れるようにフォローするところは流石だ。
「なっなんだおまえらは」
 部屋の中には腹の出た裸の中年と裸にされX字に磔られた少女がいた。中年の手には鞭、少女の肌はミミズ腫れで真っ赤になっていた。
 変態プレイのまっしぐらということはあっちは顧客。とすると俺が抑えているのは従業員か。俺が押さえている男はここの住人の割には外観は何とか一般人レベルに収まる範囲で、モヒカンでもスキンヘッドでもない。まあ、接客用に雇った人材か。ティンピーラもこういう仕事をしていたのかもな。
「セミュー其奴を抑えろ」
「はいよ」
 セミューはぱっと中年に飛び掛かると懐から針金を取り出し中年男をあっという間に縛り上げた。
なるほど手際がいい。愛想は悪いが使える。やっぱり愛想より腕か?
「さてお前、ここに青髪のストレートの女が連れ込まれたな、どこにいる?」
 俺は従業員を壁に押しつけながら尋ねる。
「しっしらない、うっぎゃああああああああああああああああああああああ」
 俺は男が期待する答えを言わなかったので指の骨を折った。
「うんうん、いいぞ簡単には裏切らない男の中の男だ。その感動劇いつまで俺に見せてくれるかな。
もう一度聞くどこにいる?」
「おれがこんなことぐらいっぎゃああああああああああああああ」
 俺は躊躇わず男の指を追加で折った。
「どこにる?」
「いっいい言います。だからっぎゃあああああああああああああ」
 俺は躊躇わず男の指を更に追加で折った。
 この手の男に情けは無用、徹底的に恐怖を刷り込む。下手に甘くすると絶対そこにつけ込んでくる。
「早く言え」
「ティンピーラが連れてきた女はボスの部屋です」
「そのボスの部屋はどこにある?」
「地下4階です」
「道順は? 罠はあるか? この地下にはどのくらい人数が残っている?」
「答えます、答えますから~指を折らないで」
男が一通り話し終えたところで縛り上げて床に転がした。
「今の話し嘘じゃないだろうな」
「もっもちろんです」
「よし、信じよう」
磔台に括られた少女に近寄ると拘束から解放してやった。
「ちょっと、偽善を見せるの辞めてくれない」
 セミューがごちゃごちゃ言ってくるが無視して、俺は少女にナイフを渡した。
「これは?」
 少女は生気の無い目で手渡されたナイフを見る。
「名前は?」
「シーリ」
「そうか可愛い名だ。
いいか、俺達はこの下に用があるから一旦消えるが無事仕事を果たしたら、ここに戻ってきてお前をここから連れ出してやる」
「ホント?」
 シーリの瞳に光が少し戻った。
「ああ、約束する。その代わりと言っては何だが、俺達がもし戻って来なかったら此奴等を殺してくれないか?」
「殺せばいいの?」
「ああ。返事は慎重にな。俺達が戻ってこれたら、晴れてお前は自由だ。だが、戻ってこれなかったとき、仲間を殺したお前は今よりもっどひどいめに合う。
 以上を踏まえた上で答えろ、仕事を引き受けるか?」
 シーリはナイフを握りしめ、こくんと頷いた。
 これによりシーリは捕まった可哀想な少女から仕事仲間に上がった。シーリは銀髪をショートカットにしていて、生気が戻った顔を見るとなかなかに可愛い。体も小柄ながらなかなか出るところは出ていてCカップはありそうだ。
「よし、契約成立。
話は聞いたな」
 俺は仕事仲間をしっかりと覚えると従業員に振り返る。
「俺が戻ってこなかったらお前は死ぬっというわけだ。これを考慮してもう一度答えろよ。嘘や言い忘れは無いな?」
 従業員は涙目に半笑いしながら口を開きだした。

「よし、いくか」
「あの~」
 シーリが話しかけてくる。
「なんだ?」
「お願いできる立場じゃ無いことは分かっています。でも出来るなら、捕まっている私の仲間も助けてくれませんか」
「仲間? お前借金のカタにされた奴隷じゃないのか」
「違います。私は帝国軍第115外縁パトロール隊。帝都の外に出てパトロールしているときに襲われて気付いたらここに。そして知ったのです、私達をこんな目に合わせたのは、隊長のライバルだった男だったのです。私はその男に散々・・・」
 同じ民族同士でもこれか、醜い。
「そうか」
「男の部下は全員既に拷問死されました。残ったのは女だけ。あいつは隊長に絶望を刻むために部下から潰していっているんです。今なら隊長達を無傷で助けられるんです。
 お願いです仲間を助けてください」
 シーリは必死に俺を見つめて訴えてくる、可哀想だが頼む相手を間違ったな。
「悪いが俺はお前達を救い来た正義の味方じゃない。お前には利用価値があったか助けただけだ」
 俺は利用できるから利用しただけ。俺に目に付く不幸な人を全て救うとする聖者でも正義の勇者様でも無い。      
「そうですか」
 きっぱりと断られシーリの希望に輝きだした目が伏し目がちになる。本来従業員が色々と吐いた後では、もうシーリの役目は果たされている。見捨てたところで仕事に影響はない。ないがここで約束を破ればヴィザナミの連中と同じになってしまう。君との約束だけは守ることで納得して貰おうと俺が口を開くより早くシーリが口を開く。
「ならメリットを提示できればいいのですね」
 シーリは俺に勝負を挑むように見つめてくる。それは話のすり替え、そもそもメリットを求めて忍び込んできたわけじゃ無いと言うより早くシーリが畳み掛けてくる。
「隊長は名家の出です。助ければ利用できます」
「ほう」
 勢いに押され思わず答えてしまった。「ほう」じゃ興味があるみたいじゃ無いか、ここは「それで?」と冷たく返すところだろうに。
「勿論私も助けた仲間を説得します。あなたに忠誠を誓わせます」
「それは悪党の俺の仲間になるって事だぞ」
 いや待て、いつの間に仲間に成る成らないの話しになった。
 俺に仲間なんか、ヴィザナミ人の仲間なんかいらないんだよ。
「帝国の正義には裏切られました」
 さっきまでの気弱そうな表情はどこにいったのやら、表情が引き締まっている。何だってこの女は俺に全額賭ける決意をしたんだ? 俺は正義感で囚われたお前を救ったんじゃない、利用しただけじゃ無いか。そんなのが分からないような愚鈍には見えない。俺を舐めているのか?
「俺は特殊な性癖があってそこの変態より変態行為をお前等全員に強要するぞ。なら助けられる前と同じ。いや、うすうす気付いていると思うが俺はヴィザナミ人ですら無い、お前達は更なる屈辱を味わうことになるぞ」
 金持ちの変態に嬲られるのも俺に嬲られるのも物理的には一緒。更に誇り高いヴィザナミの女が征服民のアルヴァディーレの男に抱かれるなんて耐えられないだろ。
 冗談で言っている訳じゃ無いことを示すため、俺はシーラの乳房を乱暴に握った。ミミズ腫れに激痛が走るのかシーラの顔が歪むが、視線は俺から外さなかった。
「理不尽な力で強制されるので無く、自分の意思です。自分で意思で私はあなたに抱かれるのです」
 此奴には何を言っても無駄なのか。だが、この女や仲間の女の人生を背負うなんてご免だね、しがらみはもういい。
「いいだろう、助けたら全員俺の性奴隷だ。拒否したら殺す。
 それでいいんだな?」
 俺はシーラの胸を掴む手に力を込めた。
 どうよ、自分は耐えられても仲間にはどうかな? って俺なんでこんなゲスを演じないといけないんだろうな。無視して部屋から出て行けば良かった。
 取り敢えず悪魔の最後通達をした。
 さあ、答えは?
「はい、その時は私自ら殺します。只その代わり、復讐だけは果たさせてください」
 それが他の仲間への説得材料か。
 なるほどな。俺を復讐の為に利用しようって考えが。そして復讐を果たした暁には俺を裏切る腹づもりなのか。合点がいった。
 いいだろう、復讐は俺も好きだ。お前達がどんな末路を辿るのか見届けてやるよ。
「分かった。全力は尽くす」
「ありがとうございます。マイマスター」
 シーラはそこに跪いたようだが、俺は今度こそ振り返ること無く部屋から出て行った。
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