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第十三話 魔族

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 300年前に魔王の封印に成功した勇者達だったが、世界から魔族を完全に駆逐することは出来なかった。
 オルファノス大陸中央にあるアッズロ海沿岸部を支配するヴィザナミ帝国。その南西の方角にはネヴァビターレ山脈、その山脈を越えると角のように突きだした大地ベルリッケ亜大陸があり、そこは魔族の支配下にあった。
 ベルリッケ亜大陸とオルファノス大陸を分ける境界線ネヴァビターレ山脈のオルファノス大陸側に、魔族の最前線基地フロネア城があった。この城は純粋に魔族が建築した城である。人間が魔族から魔法の力を吸収したように、魔族もまた人間から知識を学んでいったのである。300年前の魔族は破壊をもたらすだけの存在だったが、300年の時を経て魔族もまた変化していっているのである。
 フロネア城は魔族が建築したとはいえ、人間の城を模倣しているので遠間から見れば外見上はそう大きな違いは無い。だが近寄ってみれば、やはり魔族用になっていて違いがある。
 人間では必要の無い十メートル前後の生物が通れるように配慮された通路。
 捕らえた人間を拷問して楽しめるように拷問具が設置されている各魔の部屋。これは別に人間の情報が欲しいわけでは無い。彼等は人間が上げる悲鳴が大好きなのである。いや彼等は人間が発する激しい感情が大好きなのである。こちらの世界に具現化した以上彼等もこちらの生物同様物質での食事はするが、それ以上に彼等は人間の感情を好むというか食する。よって、捕らえられた人間は、この部屋の拷問具で感情が磨耗しきるまで拷問に掛けられ、感情が死んでやっと物理的に食べて貰えるのである。ちなみに犬猫の感情でも食せるが、ある魔人曰く人間をおいて複雑な色合いの感情を醸し出せる生物はいないらしい。
 魔族は人間を食料としても愛するが、複雑な感情を出せる人間自体を愛し憧れてもいる。この城もまた人間の感情に憧れ模倣した結果なのである。遊びで作ったような城なので防御力等実用性は低いが、数多の魔族が生息する魔の森に囲まれたその城には普通の人間では辿り着くことさえ出来ないので問題は無いのであり、人間が攻めてきて城に籠もるような魔族もまたいない。
 そのフロネス城謁見の間には数多くの魔族、人型に近い魔人からそれこそ怪物としたか言いようのない異形の物まで勢揃いしている。広い部屋の壁には老若男女問わず裸にされ様々な感情を発露している瞬間の人間がモザイクのように組み合わされて埋め込まれている。魔術的な処理がされているようで壁にされた人間の肌はまるで生きているように瑞々しい。こんな部屋、人間なら落ち着かないどころか発狂するが魔族にとってはこの上なく落ち着くらしい。
 勢揃いした魔族に注目されつつジョゼは一段高いところにある玉座に腰掛ける男の前で跪いていた。
 豪華な装飾が施された椅子に座りジョゼを見下ろすは、シチハがあの夜にあった仮面の男。彼こそ魔将軍ギガロン。気に入っているのか服装はあの夜と同じで仮面にモード服を着ていて、禍々しい鎧などに包まれていない。
「あの男をどう見た?」
 ギガロンは、ジョゼに問いかける。
「手応えは十分に感じました。彼は私を助けました、十分勝算はあります。
 時間さえ頂ければ、こちらに引き込んで見せます」
 実際はシチハがギガロンと戦うことを嫌って助けたのだが、そんなことジョゼにとってはどうでもいい。理由がこじつけられ、シチハに関われればいいのである。
「本当か? 何か裏があるのでは無いか」
 後方に控える側近の一人が疑問を投げかける。
「ごちゃごちゃ考えるより、魔族らしく処分しちまった方が後腐れ無いぜ」
 更に追加とばかりにギルバーも口を開く。
 ちっ余計なことをとジョゼは跪いたまま舌打ちする。
「どうなのだ、ジョゼ?」
 ギガロンが再度問いかける、ここでうまく言わないと一気にシチハ処分の方向に流れてしまう。
 ジョゼは跪いたままそっとシチハのことを考えると高鳴る胸に触れる。シチハに抱き抱えられたときの胸の高鳴り、受肉してから初めての経験であり感情で、この感情がシチハに拘らせてしまう。この感情の正体を確かめるまでジョゼはどんな理由を捏造してでもシチハを処分させない。
「私だけならそうかもしれません。ですが彼は私だけで無くギルバーも助けた。彼の時には伏兵はいなかった、つまりそれこそ処分してしまうのが一番後腐れ無かったはずです」
「別に俺は負けたわけじゃ無い。本気で戦えば負けはしねえ。ただあの時は援軍が近付いていたから引いただけだ」
 ナイスアシストありがとうと必死に体面を保とうとするギルバーにジョゼは内心小馬鹿にしておく。
「ならなおのことあなたを見逃す理由はないはず」
「うっ」
 ギルバーは言葉に詰まった。
「よかろう、今暫く待つ。この件はジョゼに一任する期待しているぞ」
 ギガロンが勝負ありとばかりに決定を下した。
「お任せ下さい」
 ジョゼは、立ち上がると胸の高鳴りで頬が緩み足取りが軽く成ってしまうのを必死に抑えて、自信に満ちた足取りで謁見の間を後にしたのだった。
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