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第四十九話 契約と眷属
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俺はプスィッタにゲームの終わりを告げると、振り返った。
「さてと」
もう寝てしまいたい。だがそんな楽を許してはいけない。俺はもう無力な子供じゃ無いんだ、自分で始めたことのけじめは付けないといけない。
俺は軋む体を引きづりバーホの方に向かっていく。
「まっまて」
バーホは片手を突き出し俺に止まってくれと嘆願する。その姿に王の権力と言っていた尊大さは無く恐慌一歩手前である。
「しっ親衛隊は何をしている」
バーホが思い出したように親衛隊に命令を出しつつ周りを見れば、親衛隊はそれどころでは無かった。
フロート車を護衛していた親衛隊に戦いを挑む者が表れたのだ。
右側からはスティンガーが表れ、その銃でカーネイジーの頭を吹っ飛ばしていく。
左側からはレーネが表れ、その長刀を存分に振り回しカーネイジーを切り裂いていく。
彼等には俺がフロート車まで辿り着けたら手を貸してくれと約束していた。彼等はその約束を果たそうとしている。しかしレーネは分かるが、スティンガーは意外だった。彼奴なら俺とバーホがとことん潰し合うまで動かないと思っていたんだがな。意外といい奴ではないが、約束は守るなら今後も仕事は共に出来るかも知れない。
二人が親衛隊の相手をしている内に、ティラとヴィオーラが磔にされたヴァドネーレ達に近寄りその拘束を解いていく。
計画ではそのまま脱出する手筈になっている。プスィッタの正体を暴いてやったが、この後どうなるかはノープランで予測してない。命令を厳守して今の小康状態の内に逃げてくれと祈る。
俺のことを気にせず見捨てられるように、俺は出来るだけ胸を張って歩く。
「ひい~くっくるなっ。そうだ俺に仕えることを許してやるぞ」
何やら喚いているバーホの一歩手前、蹲るアーリアの前で俺は跪く。
「大丈夫か?」
アーリアの顔は真っ青で下半身はずぶ濡れになっている。腹を蹴られたときにどこか内蔵が破れたのかも知れない。だがあれでバーホも加減を知っているはず、まさか。
俺の所為なのか? 思い当たる節に血の気が引いた。
「へへっ、あんたならきっと来ると信じていたぜ。でもあたいがドジッちまった。バーホに腹蹴られたときにキューブが子宮を破っちまったぜ」
予想通りか。女が物を隠す常套手段。アーリアは姫としてのはプライドを捨てて、あの夜に交わした俺との約束を果たそうとしてくれた。そしてそれが仇になった。
「気にしないでくれ」
激痛だろうにアーリアは沈んだ顔をしてしまった俺に向かって笑って見せた。
「でも、やっぱあんたはすげえよ。キューブなんか無く立って、バーホに一泡吹かせてみせたんだからな」
「すま・・・」
言いかけた俺の口を震えるアーリアの人差し指が抑えた。そう無いはずの腕、なのに俺には見えて感じてしまった。アーリアの意思がなす幻視なのか。
「あたいは仕事は果たしたぜ」
アーリアが誇りある瞳で俺を見つめる。そうか、結果的に必要なくなったとしても、それは結果でしか過ぎない。こういうときに言う言葉は違う。
俺は幻視の中アーリアの指を握りしめて再度口を開く。
「ああ、見事だよ」
「へへっ、その言葉聞けて良かった。
約束なんかしなければ良かったなんて思わないでくれよ。こんな達磨になっちまったあたいを信じて仕事を託してくれた。それだけで嬉しかったんだ。命を賭けても答えたかったんだ。それが女の心意気ってもんよ」
「ああ、お前はいい女だよ」
俺は優しくアーリアの頬を摩った。
この顔色、それに呼吸が弱くなっている、もう長くは無いか。こんな時に冷静に観察できる自分が嫌になる。嫌になるがこれも俺が起こした結果、見届ける。
「心残りは、せめて父さんや母さんの仇を自分で手で討ちたかったことだけだ。それは代わりにあんたが果たしてくれ」
分かったと言いかけた言葉を呑み込む。その言葉を吐いたときこの少女は終わる。それでいいのか?
この少女の怒り、叶えさせてやりたい。
少女の内、透き通るように赤く綺麗に燃えさかる炎、この炎なら出来るかも知れない。
「俺の眷属にならないか?」
俺の心臓が言わせるのか自然と言葉が出た。
「眷属?」
「そうだ。仲間でも同士でも無い眷属だ。
お前が俺の眷属になるというならお前の最後の望み果たさせてやる」
「まるで悪魔みてえだな」
「そうだ悪魔に魂を売る気はあるか?
断っておくが比喩でじゃないぜ。本当に悪魔に魂を売るんだ。
このまま人として終わり、俺にその炎を託すか。
悪魔となって自分でその炎を滾らせるか。
今決めろ」
「いいぜ。仇が自分の手で討てるなら、眷属にでもなんにでもなってやるよ」
即答だった。少女の中の炎が滾っているのを感じる。
「その怒りを糧に契約は成った」
この言葉と共に俺もまた人の道理から一歩踏み出した。
「さてと」
もう寝てしまいたい。だがそんな楽を許してはいけない。俺はもう無力な子供じゃ無いんだ、自分で始めたことのけじめは付けないといけない。
俺は軋む体を引きづりバーホの方に向かっていく。
「まっまて」
バーホは片手を突き出し俺に止まってくれと嘆願する。その姿に王の権力と言っていた尊大さは無く恐慌一歩手前である。
「しっ親衛隊は何をしている」
バーホが思い出したように親衛隊に命令を出しつつ周りを見れば、親衛隊はそれどころでは無かった。
フロート車を護衛していた親衛隊に戦いを挑む者が表れたのだ。
右側からはスティンガーが表れ、その銃でカーネイジーの頭を吹っ飛ばしていく。
左側からはレーネが表れ、その長刀を存分に振り回しカーネイジーを切り裂いていく。
彼等には俺がフロート車まで辿り着けたら手を貸してくれと約束していた。彼等はその約束を果たそうとしている。しかしレーネは分かるが、スティンガーは意外だった。彼奴なら俺とバーホがとことん潰し合うまで動かないと思っていたんだがな。意外といい奴ではないが、約束は守るなら今後も仕事は共に出来るかも知れない。
二人が親衛隊の相手をしている内に、ティラとヴィオーラが磔にされたヴァドネーレ達に近寄りその拘束を解いていく。
計画ではそのまま脱出する手筈になっている。プスィッタの正体を暴いてやったが、この後どうなるかはノープランで予測してない。命令を厳守して今の小康状態の内に逃げてくれと祈る。
俺のことを気にせず見捨てられるように、俺は出来るだけ胸を張って歩く。
「ひい~くっくるなっ。そうだ俺に仕えることを許してやるぞ」
何やら喚いているバーホの一歩手前、蹲るアーリアの前で俺は跪く。
「大丈夫か?」
アーリアの顔は真っ青で下半身はずぶ濡れになっている。腹を蹴られたときにどこか内蔵が破れたのかも知れない。だがあれでバーホも加減を知っているはず、まさか。
俺の所為なのか? 思い当たる節に血の気が引いた。
「へへっ、あんたならきっと来ると信じていたぜ。でもあたいがドジッちまった。バーホに腹蹴られたときにキューブが子宮を破っちまったぜ」
予想通りか。女が物を隠す常套手段。アーリアは姫としてのはプライドを捨てて、あの夜に交わした俺との約束を果たそうとしてくれた。そしてそれが仇になった。
「気にしないでくれ」
激痛だろうにアーリアは沈んだ顔をしてしまった俺に向かって笑って見せた。
「でも、やっぱあんたはすげえよ。キューブなんか無く立って、バーホに一泡吹かせてみせたんだからな」
「すま・・・」
言いかけた俺の口を震えるアーリアの人差し指が抑えた。そう無いはずの腕、なのに俺には見えて感じてしまった。アーリアの意思がなす幻視なのか。
「あたいは仕事は果たしたぜ」
アーリアが誇りある瞳で俺を見つめる。そうか、結果的に必要なくなったとしても、それは結果でしか過ぎない。こういうときに言う言葉は違う。
俺は幻視の中アーリアの指を握りしめて再度口を開く。
「ああ、見事だよ」
「へへっ、その言葉聞けて良かった。
約束なんかしなければ良かったなんて思わないでくれよ。こんな達磨になっちまったあたいを信じて仕事を託してくれた。それだけで嬉しかったんだ。命を賭けても答えたかったんだ。それが女の心意気ってもんよ」
「ああ、お前はいい女だよ」
俺は優しくアーリアの頬を摩った。
この顔色、それに呼吸が弱くなっている、もう長くは無いか。こんな時に冷静に観察できる自分が嫌になる。嫌になるがこれも俺が起こした結果、見届ける。
「心残りは、せめて父さんや母さんの仇を自分で手で討ちたかったことだけだ。それは代わりにあんたが果たしてくれ」
分かったと言いかけた言葉を呑み込む。その言葉を吐いたときこの少女は終わる。それでいいのか?
この少女の怒り、叶えさせてやりたい。
少女の内、透き通るように赤く綺麗に燃えさかる炎、この炎なら出来るかも知れない。
「俺の眷属にならないか?」
俺の心臓が言わせるのか自然と言葉が出た。
「眷属?」
「そうだ。仲間でも同士でも無い眷属だ。
お前が俺の眷属になるというならお前の最後の望み果たさせてやる」
「まるで悪魔みてえだな」
「そうだ悪魔に魂を売る気はあるか?
断っておくが比喩でじゃないぜ。本当に悪魔に魂を売るんだ。
このまま人として終わり、俺にその炎を託すか。
悪魔となって自分でその炎を滾らせるか。
今決めろ」
「いいぜ。仇が自分の手で討てるなら、眷属にでもなんにでもなってやるよ」
即答だった。少女の中の炎が滾っているのを感じる。
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