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世界救済委員会

第二百十九話 挑戦状

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 陽気なカラーの店内には若い男女で混み合っている。ここはイタリアン酒場でお値段の方は中の上と大学生や若い会社員達が気合いを入れたときに取る店。ピザ専用の釜があるなど料理もおいしいとの人気店の一つ。普通ならなかなか予約が取れないのだが大野はどういうツテかあっさりと予約を取ってきた。
 部屋の角に設置された大テーブルに男性陣は少し早めに全員着席していた。俺、西野、大野の他、性欲をぎらつかせ脂ぎった男三名を大野が連れてきた。何かで鍛えているの肩から剥き出しにされた腕や首はかなり太い。
「呼んで頂いて嬉しいっす。今日はバッチリ任せて下さい」
 三人の中一番頭が軽そうなソフトモヒカンが意外と下手に出てくる。オラオラ系でインテリっぽい俺など威嚇してくるとタイプだと思ったんだが。
「三人とも強そうだが、何かやっているのか?」
「総合やってんだぜ。寝技なら任せとけ、一度組み付いたらとろんとろんにしてやるぜ」
 三人の中一番体格のいい丸太のような男が得意気に下品に下ネタを言う。
 総合か、特化型じゃない分穴も無い。相手の弱点を突くのがスタイルの俺とは相性が悪そうだな。
「兄貴の寝技に敵う女なんかいないぜ」
 唇にピアスをした男がそんなに受けたのか笑いながら言う。
「それは期待出来そうだが、分かっていると思うが飲み会の席ではあまりハメを外すなよ」
「分かっているっす」
「途中で逃げられたら馬鹿らしいもんな。俺達は大人しく盛り上げ役のサポートに回ってるから安心してくれ」
 一応自重してくれるつもりはあるようで一安心。此奴等が悪酔いして合コン自体が潰されたら目も当てられないからな。
「頼むぜ本番はこの後なんだからな」
「おうおう任せとけって」
 不安だ。酔って暴れ出したら手が付けられそうに無いが、そこは大野が上手く抑えてくれると信じるしか無いか。何せ自分の一生が懸かってるんだしな。
 俺達はざっと自己紹介を済ませ、今日の段取りについての打ち合わせも終わった。後は女性陣が揃うのを待つだけ。
 各人スマフォをしたり雑談しながら時間を潰していき開始時間10分ほど前になると、女性陣もぽつぽつと集まり出す。男性陣と違い下膳が個別に集めたメンバーなのでどこかで待ち合わせて一緒に来るということはないのだろう。
 四人ほど順調に集まった。確かに下膳がAランクと言うだけあって、どれも可愛い。見ているだけで良ければ旨い料理の肴に悪くない。しかし今日は一人浮かないように周りに合わせないといけないと思うと気が重い。
「こんばんわっ」
 跳ね上がったような髪型をした女性が明るい元気な挨拶をしてくる。
「千賀地 さくっていいます。今日は合コンにお呼ばれしちゃいました~。
 あっ席どこでもいいの?」
「ここに、どうぞ」
 女性を出迎えては巧みに予め決めておいた席に誘導していた西野が俺のサインを読み取り千賀地を真ん中の席に誘導する。彼女はターゲットになる仕込みの女性、みんなから酒を勧めやすいようにとの配置だ。
 本来ならそこにはキョウが座るはずだった。だが決定的な決裂は回避されたので一応契約通りに作戦概要を波柴に伝えにいったところ、拒否された。
 理由は未成年に飲酒させることは容認出来ないとのこと。今更何を言っているんだこのオッサンはと呆れ気味に抗議しても頑として受け付けず。代わりの成人女性は波柴達が用意すると言われた。なるほどね事ここに到ってもまだ俺に首輪を付けようとするかと呆れ果てた。これを理由に今度こそ決裂しても良かったが、レイプされる寸前まで追い込まれる役をキョウに頼むのは若干心苦しかったし、遠慮無く使い潰してやれると思い直し了承した。
 もしかしたら海千山千の波柴のことだ、そんな俺の心の揺らぎを見抜いての提案だったのかもな。
 中央に座った千賀地は若く女子大生に無理なく見え明るそうでリスのように可愛い。二十歳を越えたかどうかくらい、この局面で流石に短大卒で配属されたての新米を寄越すとは思えないから、高卒の警官なのか? だが警察幹部にまでなった波柴が準キャリアなら兎も角何万と居る下っ端の巡査とどんな接点があるというのだ? 波柴の愛人だったんじゃ無いかと勘ぐってしまう。
 まあ、今のところ違和感なく溶け込めているし役に立つようなので良しとする。後日にキッチリ調べよう。上手くいけば波柴派の弱みをもう一つ握ることになる。
 これであと一人来ればメンバー全員が揃う。あまりこういった波にうまく乗れない俺が盛り下げ要因にならない様に俺はテーブルの端に位置していて、まだその前の席は空いている。千賀地以外は何処に座られても良かったので、たまたまである。
「少し遅れました」
 驚くほど肌が白く髪を切り揃えた女性が現れた。
 誰? 今回出席する女性メンバーは予め知っている。メンバー変更の連絡も下膳から来ていない。
 ならこの女性がそうなのか?
 どこか普通の人と違う香りがする。
 だがポニーテールじゃ無い。だがそんなものウィッグでどうにでも成るもの。
 俺が大野に顔を向ければ、大野は違うと顔を小さく振る。
 まあ、そうだよな。ここまで堂々と乗り込んできたのなら、めんどくさい後の段取りなど放棄して、応援の部隊を今すぐ呼んでこの場で捕まえてしまえばいいだけのこと。
 だがメンバーとすり替わる前回と同じ方法をとったこの女がポニーテールの女と無関係とは思えない。
 これは俺への挑戦状ということか。
 今一気が乗らない仕事だったが、少し燃えてきた。

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