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男三人ぶらり飲み

第百十三話 俺の戦いはこれからだ

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「やってられるかっ」
 憤懣やるせない気持ちを吐き出す怒りの感情を込めた声と共に俺は今まさに呑み込んだ牌の洗牌を行っている全自動卓を蹴った。
「ちょっと辞めなさいよ、みっともないわよ」
「おいおい、八つ当たりか」
 弓流が俺を姉が弟を窘めるように、卯場が優越感に浸るように、二人の俺を見る目に猜疑の色は無い。
「お客さん、気持ちは分かりますが台は蹴らないで下さいよ」
 店長は本当に困ったように言う。申し訳ないが、壊れたら理系の誇りに賭けて修理するので許して欲しい。
「うるせえっ、可笑しいだろ、幾ら何でも。
 弓流に卯場、お前等いかさましてんだろ?」
「言い掛かりは辞めて、本当にみっともないわよ」
 弓流は男だったら足下に縋り付いて許しを乞いたくなる呆れ果て恋人を切り捨てるがような顔と視線を俺に向けてくる。
 演技なのか俺との同盟を破棄するのを健闘しているのか俺には見分けがつかない。
「おいおい因縁付ける以上は証拠はあるのか? ええっ。無いのに因縁を付けるってんなら、代償払って貰うぞ」
 卯場はついさっきまでは俺を畏怖していたのに俺を見下し脅しを掛けてくる。まあ麻雀で勝っている上に俺のこのみっともない姿に優越感を取り戻したのだろう。
 俺の陽動が上手くいったのか二人に俺が卓を蹴った意図を探ろうとする様子は無い。
「ちっ」
 会話はこれまでと、ふて腐れた舌打ちをして会話を断ち切り、俺は実験結果を心待ちにするエンジニアの気持ちで俺の目の前に揃った配牌を一斉オープンした。
 普通だ。
 今までと全く違う、ちょっとは悪いくらいの普通の配牌だ。
 ちらっと三人の表情を盗み見れば。
 弓流、全く変わらない。
 卯場、しかめっつら。
 店長、俺同様驚いているって事は。
 そうかそうなのか。
 台を蹴った効果があったと見て間違いないだろう。
 だが偶然かも知れない。
 理系は用心深いんだぜ。
 検証実験を行って再現出来るかどうか、出来れば俺の仮説は証明される。
 次の局を楽しみにしつつ、まずはこの局での勝利をもぎ取るとはいかず、久しぶりに店長が上がった。

「おっとご免よ。牌が一個掌に張り付いていた」
 弓流と卯場が牌を穴に落とし込んで一仕事感のタイミングで俺は掌に隠し持っていた牌を一個穴の中に放り投げた。
「おっお前」
「なんだよ。いかさまどころかいかさまをしないように投げ込んだんだぜ。
 何か問題あるのかよ?」
「くっ紛らわしいことするな」
 そして配牌が終わった。
 さあエンジニアのお楽しみ実験結果の確認だ。
 オープン。
 普通よりちょっと悪い、腕があれば勝てないことも無い。
 決まりだな。
 弓流や卯場の流れを引き寄せる力は、バタフライ効果。
 南米でのチョウの羽ばたきが北米で竜巻を引き起こすっていう、カオス理論に基づく小さな切っ掛けからその後の流れに大きく影響するというアレだ。まあ日本風なら風が吹けば桶屋が儲かるかな。
 弓流は他のメンバーのクセなどを掴み。どのように牌を流し込めば自分にいい配牌になるか計算してやがる。
 バタフライ効果を計算する超感覚計算。
 それを多分だが弓流は無自覚に行い、無自覚に実行して自分を運を奪うサゲ○んだと思い込んでいる。
 最初の切っ掛けは俺には分からない。
 本当に好きだった男がたまたま不幸になったんだろう。
 それが続いたのかそのショックが大きすぎたのか、自らをサゲ○ンだと思い込みその思い込みが共通認識を破り魔人となった。
 抱かれるのは、男の肌の張り息遣いそして睦言などを生で感じ膨大な情報を得るため。後は何処をどう連鎖させていけば男が破滅していくか超感覚計算して無自覚に実行している。
 つまり此奴は、無自覚だろうが男を意図して破滅させている。卯場のような男に抱かれるのは悪党を破滅させたいというこの女の正義か、生理的嫌悪感か。
 惜しいな、切っ掛けが逆なら男を幸せにするアゲ○ンに成れて幸せな一生を過ごせたかも知れないのに。
 俺は心が壊され、弓流は男に運命を狂わされた。人はつくづく周りの人次第で変わってしまう。俺もクラス替えであんなクラスにならなければ、普通の人の道を歩む人生もあったのかもな。
っと後悔してもしょうが無い、もはやあったことはあったことで成ってしまったものは成ってしまったのだ。
 さて卯場に関してだが、そんな能力があるようにはとても見えない。だが弓流と同様の力は使っている。
 鍵はあの人形か? あの人形が卯場に弓流と似たような能力を付加しているのか。っとなると是非手に入れてあの人形の出所なり由来を調べたいところだな。
 結論として今までの勝負、弓流と卯場、二人の超感覚計算が勝った方が上がっているだけのこと。まあ全てを計算し尽くせるわけでは無いようで、出来たら神だし、二人の超感覚計算の斜め上を行く攪乱要因カオスを加えてやれば崩せる。
 しかしいじけそうになっていた自分を殴りたい気分だ。二人が牌を配られる前から熱い前哨戦をしているというのに俺は暢気に漫然と牌を配られるのを餌を待つ犬のように待っていたんじゃ、勝てるわけがない。
 運が悪いなんて言って逃げていたなんてダセえぜ。
 さあ、ここからが本当の勝負だ。
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