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序章

第8話 浪漫ある男

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「ふう~」
 深呼吸をしバールを棄てた。
 右手を前に突き出し、引いた左手でトンファーを構える。
「思ったのですが、トンファーは両手で扱う武器じゃないんですか?」
 白童子の質問に俺は右拳を前にぐっと突き出す。
「それじゃ自由が死ぬ。
 この突きだした右手は無限の可能性」
 拳手刀掴む、新たな武器を持つ。俺ですら予想が付かない未来がある。
「ロマンチックな大人ですね」
「浪漫が無い男なんてクソだぜ」
「なら僕も浪漫を見せてあげましょう」
 心なしか白童子の掌がぼんやりと暗闇に光り出したような気がする。
 なんだ?
 まやかしか?
 まあいずれにしろ戦えば分かる。
 トントントン。
 俺はタップを刻む。
 ゆらゆら流され揺れる船。
 白童子の呼吸。
 三つのハーモニーを調律し合わせ込んでいく。
 対して白童子は静かに摺り足で間合いを詰めてくる。
 静と動。
 リズムに乗った瞬間俺は飛び上がった。
「ひょううううううううう」
「なっ」
 飛び上がる自由、空で回り、トンファーが回り。
 攻撃が繰り出される。
「そんな虚仮威し」
 白童子はしゃがんで躱すが、俺は着地と同時にくるんと回った足払い。
「乗ってきたぜ」
「年を考えろ」
 白童子はこれにも反応してしゃがんだばかりなのに飛び上がって、俺に空中右回し蹴りを放ってくる。
 見事な体術、がっ軽い。
 空中回し蹴りを体を回転させて右手で受け止め、左のトンファーを繰り出す。
 タイミングは完璧、白童子に避ける選択はない。
 可哀想だが、骨の一本は覚悟して貰おう。
「なっ」
 何処に当たっても白童子にダメージを送り込むはずだったトンファーが白童子の光る手刀によってすっぱり両断された。
「なんじゃそりゃ、謎の中国拳法かよ」
 漫画やアニメなら手刀で切り裂くなんて当たり前だが、現実でやられると驚くしか無い。
「違いますよ。古来より和の国に伝わる鬼道です」
「くそがっ」
 迫り来る白童子にトンファーを投げ付け俺は後ろに後退する。
「悪足掻きです。狭い船上では逃げ切れませんよ」
 俺が後退した分だけ白童子が倍迫ってくる。
「はっ」
 白童子の掌底が逃げ切れない俺の胸に炸裂した。
「がはっ」
 特殊カーボン製の鎖帷子が砕けるのを感じた。だが鎖帷子が無かったら俺の肋が砕けていただろう。
 吹っ飛ばされ何かに躓いた俺は尻餅を付いてしまう。これで完全に逃げる足を失った。白童子がチャンスとばかりに一気に間合いを詰めてきた。
「覚悟」
 能力はある竜、だが強い竜も狡猾な蛇に負けるのさ。
「これだから脳筋はやりやすい」
「なに!?」
 俺は右手で網を白童子に向かって投げた。どんなに体術が優れた奴だろうと天から拡がって襲い掛かってくる網を避けられやしない。
「この程度でっ」
 白童子は光る手を振り払い襲い掛かる網を一刀両断した。
 すげっ。固体と違う空で押せば撓んでしまうような網を両断するとは、それにトンファーの時には気付かなかったが刃物で切断するのとは違う。切るというより光る手に触れたところから引き千切れる?いや結合が弱まって崩れ墜ちていくように感じた。
 まっどっちにしろ、俺の勝ちだがな。
「よっ」
 投網を破った白童子だが大技の後は隙が出来るのが必然、手を振り切ったその瞬間を狙って舫い縄が足下から白童子に蜷局を巻いて襲い掛かる。
 ここに追い込まれたんじゃ無い、投網と舫い縄があるここに誘い込んだんだよ。本当はもっとスマートに誘い込むはずだったが、思わず迫真の演技になった。
 右手で縄を掴み意のままに操る白童子の鬼道のような神秘性は無いが実用性はある捕縛術、伊達に俺も裏社会を渡っていない。
 蛇のように縄は白童子の体に絡みついていき、その動きを絡め取っていく。
 白童子が縄から逃れようと藻掻けば藻掻くほどに縄は体中を這い回り、ついには動きを完全に封じた。
 縄に縛られた少年。
 俺は美少女の方が好みだが、ふむこれはこれで倒錯的な美があるかもな。
「どうだ大人の怖さを思い知ったか」
 縄に縛られ床に転がる白童子を見下ろしながら俺は言う。
「負けました」
 俺が勝った瞬間であった。

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