流れる川

連鎖

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トヨトミ②

芽吹き⑩

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女が外に出ると、あの温かい日中とは違い、
「ビュー。。。。ビュー。。」
凍えるような風が街を吹き、
部屋から追い出された男達を凍えさせていた。

「おい」「アレって」「あはは」「おいおい」「いたよ」
男達を凍えさせていた風も、女の奇妙な格好が忘れさせていた。

女も男達に、
「ごめんなさい。ありがとう。」
嬉しそうに笑って、男達に謝っていた。

男達は映像で見ていた女が、
嬉しそうに笑いかえしてくれたので、安心して見ていた。

時間が経つと男達は、
「行こう」「エリカさーん」「そっち行くね」「ちょっと待って」
嬉しそうにしているエリカを近くで見ようとして、
取り囲むように移動してきた。

(「あいつ、どれだけ撒いたのよ。」「マスター。時間。時間。」)

増えていく男達に戸惑っていたエリカは、
「あっははは。ありがとう。本当にごめんなさいね。」
次つぎと増えてくる男達を見つめて、ビックリしていた。

(「やっぱり。そうよね。うふふ。あんな子より。。」
「いいんですが、大丈夫ですか?」(この生地だと。。でも。))

増えていく男達の視線がいつもと違っていて、
優しかったり、憧れだったり、嬉しそうにしていて、
エリカは気分よく笑い返していた。

「エリカさん次回は?」「次はいつ?」「握手していいですか?」
「いつまでいますか?」「はあ、良い匂い」「ぅぅぅ」
エリカの魅力に陶酔した男達が、エリカを取り囲んでいった。



「そうね」「じゃあ今度」「今回は短いの」「あは、ありがとう」
嬉しそうに笑っているエリカと、男達のたわい無い談笑が続いていた。



(何かに焦っていたのか、「マスターすみません」)

「ワン。グリュウウ。グワン。。ブワン。」
真っ赤なモコモコの中型犬が、男達を威嚇し初めていた。

「可愛い」「あはは」「おそろいなんだ」「モコモコ」
「エリカさんのかな」「いい子だねえ」「あっははは」

男達は犬の登場にホッコリとしていたが、
「うおおおおぉ」「おいおい」「すっげえ」「あそこ。あっちも。」
目の前。エリカを見つめて固まっていた。

映像とは違う生の迫力に、男達は喜んで見つめていた。

真っ赤なワンピースも全裸がわかるように薄かったが、
今の状態は、
乳首幅の紐が左右の布を食い止めるように何度も交差して、
胸の膨らみ、下腹部の膨らみも、男達に見えていた。
全裸ではなく微妙に隠されているので、男達の妄想を掻き立てていた。
側面は幅広く残っているが、
背面も同じように、左右の布を幅の広い紐で縫い止めていた。
背中も丸見え。お尻は主張して、食い込むように紐を押し上げていた。

「すごいいい」「うわあ」「これも似合います」「かっこいい」
男達が、もっと近づいてエリカを見ようとしていた。

さっきまでの残り香が漏れ出し、
「あはは。ごめんなさいね。ありがとう。パチン。」
エリカは男達の視線が変わってきたのを感じて、慌てて指を鳴らした。

音がしたと思ったら突然、
男達が紐が切られた操り人形にように、崩れ落ちていた。

エリカは、いつもと同じ琥珀色の笑顔で、
「うふふふふ。ありがとう。いい夢を見てね。また会いましょう。」
眠ったように崩れ落ちていた男達を見て笑っていた。
「。。。。」
「あー。。。大丈夫よ。時間でしょ。大丈夫だから。
ありがとう。気にしてないわ。」
「。。。」
「あはは。じゃあ、戻りましょうね。てん。。い。」



エリカは小屋?小さな家の前に転移していた。
「ごめんなさい。誰かいますう?。。入っちゃうよお。。。ギイイ。。」
家主に断りを入れるように、ゆっくり丁寧にドアを開けていた。

部屋の中は、昔は誰か住んでいたであろう感じで、小物が散乱していた。
色々な物が、家主がズボラ?ゴミ屋敷?独特の感性の人だと主張していた。

「いませんか?」
部屋の明かりは有るが、
誰かを迎え入れる感じには、部屋を明るく照らしていなかった。

エリカは部屋に一箇所だけ汚れていない場所を見つけて、
嬉しそうに飛び乗っていた。

「ギイ。ギチギチ。シイイイ。。あっははは、ベットね。
眠いし、ここで寝ちゃおうかなあ。よく眠れそう。」
嬉しそうにベットで遊びながら、何か残って無いか確認していた。

ベットに温もりも。最近は使った感触も無く、
「うーん、やっぱりか。。あーあ、やっぱり私のせいかな。
じゃあ、急ぐわね。転移。」
エリカの顔が、残念そうに笑っていた。



転移すると、エリカは真っ黒な闇。闇の中にいた。
もちろん、いつも嗅ぎ慣れた臭いも一緒に、闇に溶け込んでいた。

「誰かいませんか?」
闇に恐れが無いのだろうか、
いつものように、何処か知っているように話しかけていた。

静まり返った闇の中にも、微かな音がしているのを感じ初めていた。

音を、よく聞いてみると、
「クチャ。。クチャクチャ。。。ギャ。ギャギャ。」
話し声なのか、何かの儀式の音色がハッキリと聞こえてきた。

女は少しだけ諦めたように指を鳴らした。
「パチン。。ボ。。ボッ。ボボボ。」
エリカの指に合わせて、暗闇から光が生まれていた。

光は、闇に包まれていた光景を映し出していた。

無数の白骨。肉の破片。壊れた衣服。何処か虚ろな目。
身体を流れていただろう体液。こびりついた残滓。

何処が何処とか、解らない物が部屋に散乱していた。

さっきの部屋のように。。

部屋の隅に女と子供がいるのが見えて、
「ああ、来たんだね。。こ。。」「パチン」
何処か懐かしい顔をして話しかけてきた女が、
もう解ったと言うように、エリカの音で崩れ落ちていた。

子供のように小さくなった
「ギャギャ。ギャ。。。」
何を話しているか解らない物を、エリカは近寄って抱き締めていた。

優しく。愛しい子供を両手で包み込み愛していた。

「ダメだったのね。ごめんなさい。」
ボロボロに泣きながら、子供が許されるのを願っていた。

。。。

よくある話。
女が帰ってきてから、沢山の人達が女の生活に干渉してきた。
「どうだった」「なにを」「そうなの」「大変ね」
「可哀想に」「で、何が」「俺なら」「嫌ねえ」

すぐに
「俺でも」「あの子って」「実はさ」「あいつなら」
「どうなってる」「変わってるんじゃ」「へえー」

軽蔑 隔離 嘲笑 侮蔑 奇異

それでも女は耐えていた。あれを見るまでは。
自分を包んでいる物達が、話しかけて来るまでは。

もう少しで雪が解けて、春を迎え入れる感じには温かい日。

いつものように、女は買い物に出かけていた。

「こっち来いよ」「あっははは、俺が清めてやるよ」
「どうせ、アソコも」「あっああ、ガキは自分で何とかしろよ」
いつものように、違う男達が女の身体を求めて男達の家に連れ込んでいた。

男達が、自分の身体に興味を無くすまで、
いつものように、じっと。ただ耐えていた。

でも、その日は違っていた。その日だけは、

何故か、
それを見ると救われるような気がして、
この悪夢のような世界から連れ出してくれる気がして、
見つめていた。

そう、
嬉しそうに笑いかけて、男達を蹂躙している女の目を
見つめてしまった。

。。。

「エリカさん。あのね。美味しかったんだ。」
「そうね。」
「口の中にね。沢山のジュースがね。すごく美味しんだよ。」
「ああ、そうね。」
「硬いのもあるんだけど、柔らかいのもいいんだ。
ジュワーって口の中に、広がって行くんだよ。」
「柔らかいのも、そうね。」
「硬いのは、よく噛まないと食べられないんだ。」
「ちゃんと噛まないと、いけないわね。」
「最初に食べる時に、口に残っちゃうのは、ペってすればいいんだって。」
「食べられないなら仕方ないわね。」

。。

「エリカさん。美味しそうだから、食べていい?」
「いいわよ。お腹空いた?沢山食べていいわよ。」

子供が目の前にあったエリカの身体に、歯を突き刺した。
子供が甘えるように、無心でエリカを甘えていた。

「ガブ。。クチャクチャ。ガブ。クチャクチャ。
あはは。おいしい。アハハ。美味しい。クチャクチャ。あっははは。
とっても甘くて、美味しんですね。」
泣きたいのか、泣けない顔で笑っていた。



「エリカさん。私ってなんですか?」
「あなたは、あなたよ。他の何でも無く。世界で一人だけのあなたよ。」

「じゃあ、この子達は?」
「それも、あなたよ。世界で一人だけ。」

「それって、謎掛けですか?」
「バカが言うには、究極生物らしいわね。究極だって。。」
すごく、どうでもいいような顔で答えていた。

「あっははは、ありがとうございます。私って。
ばけもの。化け物なんですね。もう、化け物。。
あっははは、ありがとうございます 。」
嬉しそうに、天井を見つめて泣こうとしていた。



「そうだ。エリカさん。両親って美味しいですか?」
「そうね。」
「多分、よくいる人で、よく見る人がいるんですよ。
食べちゃダメって思うんですが、とても美味しそうなんですよね。」
「そう。。。とても美味しそうね。」
「そうですよね。わかってもらえて。あっは。あはは。アハハハハ。
そっか、両親って美味しいんだね。ありがとう。エリカさん。」



「もういいですか?」
「別に、お肉は美味しいんだから食べても大丈夫よ。」
「もういいですよね。」
「大丈夫よ。元の姿は戻してあげるわよ。」
「もう。」
「じゃあ、忘れさせてあげてもいいわよ。全部。全部忘れさせて。。」
「それだと、もう。。。」



「私は、私です。誰がなんと言おうと、私です。
だから、私が。私。わたし?。わ。。。」
自分が誰かも解らない位に、意識が混じっているのを感じていた。


芽吹き⑩
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