流れる川

連鎖

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シズナイ

花見⑧

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それは。それは。白が舞い散る世界。
一人の子供が見た夢の続き、夢の続き。
私の願い、夢の続き。

小さい頃に見つめていた真っ赤に染まった夢。
あの時の続きを願う夢の話。

酒場で聞いた。
「昔死んだ。。。。の声が聞こえたんだよ。」
「消えた街の。。。の声が聞こえるんだよ。」
「。。。って聞こえた。」「ああ。俺は。。って。」
「そう。おれは。。。だとよ。」「そうなの?私も。。。」

その話を聞いた夜から、私は夢の中で昔を見つめていた。

毎回起きるのは、目の前が真っ赤に染まった瞬間。

その夢が、子供の頃に見た事だと知っていた。
もう、忘れたかった罪の記憶だと知っていた。

忘れたかった記憶だと、思い知らされていた。

もう、忘れさせてくれ。俺が何をした。
俺は、俺は言われただけだ。
やったのは、あいつだ。あいつが渡してきた。
だから、もうやめてくれ。
頼むから。もうやめて。。忘れさせてくれ。

必死に忘れようと懺悔していた。

それでも、何も変わらない。
真っ赤な世界を見つめてから、また朝を迎えていた。

。。

「私の。私達の罪を、私を救ってくれたあの人に、罪を償わせて下さい。
あの日、あの時の続きを見せて下さい。
その続きを、私を救ってくれた声の続きを聞かせてください。」
男は道の入口に跪き、
目をつぶったまま、両手を組んで一心に願った。

それを見つめてるように、両脇の木々からハラハラと白が降ってきた。

「私を救ってくれた。あの人に会わせて下さい。」

良くあること。
そう、温かい日々が壊れていく世界の事だった。

太陽のような温かい二人が、世界を救っていた。

もちろん、僕は冷たい世界から温かい世界を呪っていた。
その時の僕は、温かい世界を呪っていた。

「プレゼント?ありがとうね。
気にしないでいいのよ。ありがとう。」
私は、あの人に箱を渡してしていた。

「あの男に渡してこい。わかったな。」
冷たい世界。私の支配者からの声だった。

私は、あなたを。あなたの全てを奪いました。
冷たい世界からの贈り物を、あの人に渡していました。

今も、プレゼントを受け取った。
受け入れてくれた。
あの人の嬉しそうな笑顔を思い出します。

突然プレゼントから、激しい力と光が世界を満たしました。
僕も一緒に、激しい力の渦に包まれていました。

もちろん、あの人に渡してしまった箱からの力です。

そんな僕を何も知らないあなたが、
あなたの温もりが、僕を守ってくれました。
「大丈夫か?」
あなたの温もりを感じながら、
僕はお礼も。
もちろん、謝りもせずに、泣いていました。
ただ。ただ。泣いていました。

あなたの全てを奪ったのは、私なんです。

泣いている僕にあなたは、
あの人とも混ざりあった真っ赤な顔で、話しかけてくれました。
「男は泣くな。笑ってろ。」
力強く、私を励ましてくれました。
この時に、あなたから温もりを受け取りました。

その力強い笑顔を凍らせてしまったのは、私なんです。
あの温かい光を消してしまったのは、私のせいなんです。

「お願いします。あの日。あなたの温もりを。
あなたの温もりを、私に返させて貰えませんでしょうか?
あなたから分けて貰った温もりを、返させて貰えませんか?
それで、私を許して貰えませんか。
お願いします。すみません。
許して。許して貰えませんか。」
私は木々に向かって祈っていた。

呆然とあの人を見つめていたあなたは、あの後。
世界を壊した罪を受け入れて、この街を去りましたよね。

あれは、あなたでは有りません。
あの惨劇をしたのは、私の箱が悪いのです。
あなたではなく、冷たい世界の住人が原因です。



「ズル。。」
少し離れた木の根元に、何か気になる黒い塊が蠢くのが見えた。
「ポタ。。。ポタ。。」
よく見ると、上の方から黒い雫が落ちていた。

「。。」
不思議とこの塊が私の願いを聞いてくれたように感じて、
その気味の悪い塊に近づいた。
「あの人なんですか?」「。。。ブル。」
「すみません。許して。」「あ゛。が。。あ゛」
「ごめんなさい。」「ご。。す。」
塊は少し遠いのに、声が周りから響いていた。



目の前に来てみると、黒い塊が不規則に蠢いているのが見えた。
「ボタボタ。ボドボド。。ボダ。。。ボダ。」
何故かさっきよりも大きな雫が、塊に降り注いでいた。

「すみません。助けて貰ったのに、申し訳ございません。
あなたの全てを、私は奪いました。
でも。。私じゃなくて。。。ごめんなさい。」
何故かそうするのが普通に感じて、
私は黒い塊に向かって懺悔していた。

「ゆ゛るざない゛。おまえも、恨め。
憎め。壊せ。世界を憎め。俺たちと一緒に。
この苦しみの世界を壊せ。全てを終わらせろ。」
懺悔していた男を包むように、周り中から声が響いた。

「ビジュ。。。ブジャアア。。
グチュ。グッチュ。クッチャ。クチャ。」
蠢く塊が懺悔した男を包み込んで、咀嚼し初めた。
「クチャ。グチャ。ズリュ。ジュルル。」
塊は食事を楽しむように蠢いていた。

「うふふ。。知ってますよ。あはは、僕は泣きません。
だって、男ですから。

僕のヒーローは、絶対に諦めないから。
どんな困難にも立ち向かう、僕のヒーロー。
あなたの思いは忘れてません。
絶対に諦めない。僕のヒーロー。

この思いは、あなたから引き受けた思いは。
あなたに、お返します。
僕は、私は。もう十分に助けて貰えました。
だから、あなたにお返します。
そして、また。ヒーロー。」

「クチャ。グチャ。クジュ。ズルルル。ジュルル。」


男の願いを聞き入れたのか、真っ白い天使が空から舞い降りた。
「美味しそうねえ。楽しそうで良かったわ。
お仲間?」

「いあ゛う。あああ。うがう。」
声にならない音が、塊から発せられた。

「やっと来たか。待ってたぞ。マイ。さあ、お前を。お前を。
お前を食べてやる。壊してやる。あはは。」

マイが見上げると、木にとまった怪物がヨダレを垂らして見つめていた。

「あー、いたのね。孵って良かったわ。
逃げると思ったけど、こんなとこで何してるの?」
不思議そうな顔で、怪物を見つめていた。

「腹が空いたから。お前を待っていたんだよ。

ここは、いいなあ。いい場所だ。
すごく、いい声が。
怨みの声が聞こえて最高なんだよ。

ここなら、お前を喰えるんだよ。
マイ。あはは。ここは最高だよ。」
怪物は機嫌が良さそうに答えていた。

「ちょっと待ってて。あなたは後でね。うふふ。」
怪物を無視して、ヨダレの先を見つめていた。

「で。どうするの?
止まるの?それとも地獄を進むの?」
琥珀色の笑顔で、塊を見つめていた。

「あ。。。う。ヒ。ロー。ご。。。。い。」
「ああああ。があああ。」
塊の奥の方から音がした。

「そう。。。ビュン。。バキ。」
マイが手を振って、枝を切った。
「ズル。。バキバキ。バキバキ。。
ドーン。。バッシャーン。。」
切られた枝が落ちて、塊を切り裂き地面に突き刺さった。
「ゴホ。ゴホゴホ 。ヒーロー。ご。。。。い゛。」
切り裂かれた場所から、半分溶かされた男が出てきた。

「あはは、当たらねえよ。マイ。ハズレだよ。ハズレだ。
不意を着いても、俺の目からは逃げられないんだよ。」
嬉しそうに、怪物が笑っていた。

「進むんでしょ。後は、あなたの意思よ。」
塊に目線を合わせて話していた。
「キラキラ。。君は戻って、いい夢を見ているのよ。」
マイは、溶かされていた男を治して転移させていた。

バサ。。。バサバサ。。バサバサ。
ビューン。。。ガッシイ。

「あはは、捕まえたぞ。
あはは。マイ。こうなれば何も出来ないよな。」

男を転移させるのに止まっていたマイを、嬉しそうに抱き抱えていた。


花見⑧
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