ゆうでつながるあの人は

悠布

文字の大きさ
上 下
4 / 5

大学初日

しおりを挟む
四月になった

テツと待ち合わせて
入学式は武道館で盛大に行われた

次の日
新歓説明会が行われるため、これから通うキャンパスにみんなで向かう


「あ、弓道部だ」

清家康夫、通称イエヤスが耳打ちしてきた
イエヤスとは高校から弓道部でずっと一緒だった


「オレ、入んないよ」

「そうなの?意外」

「ゆうを人混みの中連れ回せないからに決まってるし」

「あー地元でも引くなら持ち運び不便か」


イエヤスはオレのこんな言い回しも慣れっこ
それがイエヤスだ


一通りのサークル、部活の紹介が終わって外に出ると
もう入学式のすんだ幸助から聞いていた通りの状態だった

…勧誘の嵐

チラシをめちゃくちゃ渡されて
オレは嫌になった


弓を引く大事な時間をこんなところで費やしている場合じゃない


「オレ、帰るわー…」


女子と話すのに夢中になっているテツ達に聞こえるか聞こえないか微妙なトーンで言ったはずだった


「っておい!今日はそーゆー日なんだよ!」

「…人多すぎじゃん」


どこにも所属する気のないオレには不要なイベントだ


「ちゅうぼんの意気地無し!」

「ちゅうぼんって呼ぶなっつうの!カケルのばか!」

「じゃあ弓道場行かない?人少ないと思うよちゅうぼん」

「前みたいに祐希って呼んでよ!イエヤス!」

「わかったわかったごめんて」

笑いながら落ち込んだ風を装うオレに
イエヤスは笑顔の質をあげて言う

「で、行かない?」


弓道場は体育館の横にあった
ネット越しに見える道場は清潔な印象を受けた
日差しが入るとそれは袴姿を引き立てた


やっぱり弓道っていいな…


一度やらないと決めた決意が揺るぎそうになる

矢道の真ん中辺りで人がたわむれていてちょっと変な感じがした
それはきっといつもは矢が通る道…
人がいるのが不自然だった


「試し引きできるって入口に書いてあったな」


水分をたっぷりと含まされた安土から
ほんの2、3m離れたところで
同じ新入生が部員にあれこれ言われながら
弓矢を触らしてもらっている


「やる?」

「ウワキするとすぐいじけるからな~」

「あれって10キロないだろ?射形崩れるわけないって」


新入生がはにかみながら矢をちょこんと飛ばす
安全のためか胸の前くらいまでしか引かせてもらえないようだった


「つかあれじゃあアーチェリーじゃんかー」


「まあね。じゃあテツ達のところ戻るか」


そうイエヤスが言ってオレも踵を返そうとしたときだった


「君たち経験者だね?」


話を聞きながら矢を吹いていたのか
道場の入り口のすぐ脇の扉から人が出てきた


「せっかくだから道場見ていかない?まだ新しいんだけど広くて気持ちがいいよ」



なんとなく断りづらくてイエヤスがお言葉に甘えてって弓道場を見せてもらうことにした



「こんにちわ」


イエヤスもオレも神棚に礼をする
気持ちいい風が吹いた


「で、なにか質問はあるかな??」

一通りの説明を受けて女性部員の沢谷さんがそう言うとイエヤスが何個か質問をしていた
オレはあまり興味がなく矢道を見ていた


「あとはそうですね…練習はいつでもできるんですか」

「えっとね。概ねイエス!ただ体育館の施錠時間の22時まで。朝は6時から空いてるよ」

「えっそんなに?!」

「え…あ、うん?的前に上がったら誰でも自由だよ」


オレが急に話しに入ってきて沢谷さんが驚いてしまった


「コイツ、無類の練習好きなんですよ…それなのに高校では通常練しかできなかったもんですから…」


イエヤスは流したけど
できなかったんじゃない
オレらが一年の頃は早朝練だって居残り練だってできたんだ
顧問が変わったとたんに…できなくなったんだ

それからオレは地元の道場に通うようになって
潰された先輩達の悲願をゆうと成し遂げた


「じゃあ向こういこっか!」


看的や安土を見せてもらう
沢谷さんがにやついて試し引きするかと聞いてきたが2人とも丁重にお断りをした



「それからこの後、新歓食事会やるんだ!」


チラシを渡される


「タダだし来るだけでいいからきっと来て!」


無操作にジャケットのポケットにつっこむと沢谷さんと別れた


そのあと連絡を取りテツ達と合流した
テツとカケルはサッカーのサークルの新歓の食事会に行くらしい
イエヤスはカケルと他のサークルについて情報交換をしていた


「祐希~大学では弓道しないんじゃなかったっけ~?」


テツは幸助やオレといるときはちゅうぼんと呼ばない
わざとじゃないらしくむかしのがつい出ちゃうそうだ


「それと食事会行くのは…別!あ…!!」


持っていたチラシをうっかり落とした


「幸助はケジメ大事!って言うけどさ…」


テツがチラシを拾い
真面目な顔をして言う


「オレは追いかけ続けるべきだと今でも思う」


チラシをバシッとたたきつけ
テツはニカッと笑った


「じゃまた明日な~」


テツ達と別れイエヤスと弓道場に向かう
道場の前には何人かの新入生っぽい数人が見えた


「あ!きたきた!」

沢谷さんが大きく手をふってくれて
よろしくお願いしますとイエヤスと2人で頭を軽く下げて言うと
来てくれないかと思ったと笑顔で言われた


「沢谷、そろそろ行くか」


背の高い人が沢谷さんに声をかけゾロソロと店に行くこととなった


席順は沢谷さんの指揮の下
あっさりとオレはイエヤスとは別れた

席に着くとおとなしそうな新入生が近くに座った
挨拶すべきか迷っているとオレの前に部員の人が座った


「今日は弓道部の食事会に来てくれてありがとう!よろしく!」


礼儀正しい雰囲気を醸し出す人だなと思った



「じゃあ最後に君!」

「中山祐希です。神奈川出身で経験者です」


同じ机についたメンバーで
まずは自己紹介から食事会はスタートした


「神奈川出身?!鏑木が喜ぶな!」

「そうですね!新入生で神奈川出身の子いたら逃がすなってすごかったですもんね!」


きょとんとするオレを見て
慌ててフォローが入った


「今日は来てないんだけど同じ神奈川出身で鏑木さんって先輩がいるんだよ」


横に座る浜永さんが教えてくれた


「明後日の稽古には来ると思うから会うだけあってあげてよ」


前に座る坂井さんが付け加えた


2個上でカブラギさんという知り合いはいない
たぶん人違いだなと思うとなんだか少し寂しく感じた


「明後日は稽古の見学ができまーす!是非来てください!…解散!」


本当にタダだ
大学生って凄い


「祐希、かえろ」


イエヤスもカブラギさんのことを聞いたらしい
カブラギさんはとにかく弓道のセンスが凄い人らしい


イエヤスと別れた帰り道
決心したあの時を思い出す


せっかく踏ん切りつけるって決めたのに
彼女を追い求めないって

ただゆうと弓道を続ける

それなら彼女をいい思い出として
無理に忘れなくていい
てもまた弓道で人と関わり続けていったら
オレは同じことを繰り返してしまうから


あの時、幸助に言われた

「その人をいつまでも追い求めてることは祐希にとってよくないと思う」


確かにオレはそのことである人を傷つけた
だから彼女意外とは懇意にしないって決めた
それでいいって本気で思った


彼女の高校は練習試合を滅多に組むことがなく
県大会で勝ち進むことでしか会えないとわかり
なんとか県大会で優勝した日

限界に気づいた

彼女はもう弓道をしていないんじゃないか


名前も知らない彼女と再会なんて無理と思い知らされた

弓道が嫌になってなった


だけど幸助に、テツに言われたんだ


「きっかけはどーあれ!弓道続けてきてそんなに悔いが残るのかよ!」


…悔いなんてないよ
弓道には感謝してる
背が低いことを気にしてたオレだけど
大きな自信をもらったんだ

オレは弓道を嫌になった自分が恥ずかしかった

彼女のためだけに
弓道を続けてきたわけじゃないってわかった

だから大学では彼女の影を追わないように弓道部に入らないと決めた




だけどごめん…これが最後だ

2日後、イエヤスと一緒にオレは道場にいた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...