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あの人
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中学3年生の秋
幸助とテツと3人で下見も兼ねて
いろんな高校の文化祭に行っていた
だけどテツは女の子にしか興味がないし
オレもまだ自分の進路を真剣にまだ考えられなくて
まじめにその目的をこなしているのは幸助ぐらいだった
あの日も
生徒会がやっていた受験生向けのブースで
2人が高校クイズのVTRに熱くなっていて
なんだかオレは自由で退屈していて
ふらっと外へ出た
外では軽音部がライブをしていて人も多く
あの音が聞こえたのは奇跡だった
ーパンッー
雑踏の中
オレがいた場所でないと聞こえなかった
足を止めてもう一度耳を澄ます
周りの人たちがいぶかしそうに横を通りすぎてもそのままじっとしていた
なんだ、勘違いかと思って肩の力を抜いたとき
ーパンッー
同じ音がした
今度はさっきよりも大きく聞こえた
自然と音がした方に目を向けると
ススキが茂った向こうに木造の建物が見えた
入っていいのかなんて気にしなかった
一歩、一歩近づくたびに
凛とした雰囲気が伝わってきた
遠目で見たよりはしっかりとした建物に近づく
さっきの音は一定の間隔で1、2度聞こえてきた
中をのぞけるような窓を探すと左端に通路があるのか見えた
一歩踏み込むと
一瞬光が眩しかった
ネットに囲われた芝生
整われている土の壁
そこに遠慮ぎみに置かれた的
彼女が一人
舞台の上で
神棚の前に神聖なたたずまいの姿で
ーパンッー
弓を引いていた
矢に激しいエネルギーを与えた彼女にその激しさは見えず
時間が止まっているみたいに
両手を広げた状態で感じ入っているようだった
ネット越しでも
そんな彼女を鮮明に覚えている
結局12本ひいて2本しか外さなかった
「君、どうしてこんなところに?」
後ろを振り向くと
先ほどの彼女がそこにはいた
しばしお互い固まった
先に口火を切ったのは彼女だった
「迷っちゃったのかな」
「あ…えーっと。大丈夫でーす…」
ヘラッと笑いながら彼女の横を通り抜ける
そしらぬ顔で背を向け駆け足で逃げた
「ねえ!!!」
思わず振り向いた
弓を引いてるときには見られなかった笑顔があった
「来年の春、道場で待ってるよ!!!」
?!
意外だった
たいていいつも実年齢より下に見られるのに
彼女は受験生と認識してくれた
オレは軽く頭を下げて急ぎ足で来た道を戻った
「いたー!幸助!祐希いたー!」
「放送かけてもらうところだったんだから」
「ご、こめんごめん!2人とも…」
それが彼女との出会いだった
以来オレは
弓道場のある高校だけを志望校にした
彼女がいた高校は
一生懸命有り得ないぐらい説得をしたけれど
遠すぎることが理由で親に反対され
受験さえできなかった
結局3人揃って同じ高校へ進学した
そこの弓道場は冴えなかったけど
先輩は誠意を持って指導にあたってくれたし
師範もかっこいい人で毎日が楽しかった
あの高校には行けなかったけれど
約束をせめて守るためために練習に励んだ
たぶん彼女との再会を夢見て…
幸助とテツと3人で下見も兼ねて
いろんな高校の文化祭に行っていた
だけどテツは女の子にしか興味がないし
オレもまだ自分の進路を真剣にまだ考えられなくて
まじめにその目的をこなしているのは幸助ぐらいだった
あの日も
生徒会がやっていた受験生向けのブースで
2人が高校クイズのVTRに熱くなっていて
なんだかオレは自由で退屈していて
ふらっと外へ出た
外では軽音部がライブをしていて人も多く
あの音が聞こえたのは奇跡だった
ーパンッー
雑踏の中
オレがいた場所でないと聞こえなかった
足を止めてもう一度耳を澄ます
周りの人たちがいぶかしそうに横を通りすぎてもそのままじっとしていた
なんだ、勘違いかと思って肩の力を抜いたとき
ーパンッー
同じ音がした
今度はさっきよりも大きく聞こえた
自然と音がした方に目を向けると
ススキが茂った向こうに木造の建物が見えた
入っていいのかなんて気にしなかった
一歩、一歩近づくたびに
凛とした雰囲気が伝わってきた
遠目で見たよりはしっかりとした建物に近づく
さっきの音は一定の間隔で1、2度聞こえてきた
中をのぞけるような窓を探すと左端に通路があるのか見えた
一歩踏み込むと
一瞬光が眩しかった
ネットに囲われた芝生
整われている土の壁
そこに遠慮ぎみに置かれた的
彼女が一人
舞台の上で
神棚の前に神聖なたたずまいの姿で
ーパンッー
弓を引いていた
矢に激しいエネルギーを与えた彼女にその激しさは見えず
時間が止まっているみたいに
両手を広げた状態で感じ入っているようだった
ネット越しでも
そんな彼女を鮮明に覚えている
結局12本ひいて2本しか外さなかった
「君、どうしてこんなところに?」
後ろを振り向くと
先ほどの彼女がそこにはいた
しばしお互い固まった
先に口火を切ったのは彼女だった
「迷っちゃったのかな」
「あ…えーっと。大丈夫でーす…」
ヘラッと笑いながら彼女の横を通り抜ける
そしらぬ顔で背を向け駆け足で逃げた
「ねえ!!!」
思わず振り向いた
弓を引いてるときには見られなかった笑顔があった
「来年の春、道場で待ってるよ!!!」
?!
意外だった
たいていいつも実年齢より下に見られるのに
彼女は受験生と認識してくれた
オレは軽く頭を下げて急ぎ足で来た道を戻った
「いたー!幸助!祐希いたー!」
「放送かけてもらうところだったんだから」
「ご、こめんごめん!2人とも…」
それが彼女との出会いだった
以来オレは
弓道場のある高校だけを志望校にした
彼女がいた高校は
一生懸命有り得ないぐらい説得をしたけれど
遠すぎることが理由で親に反対され
受験さえできなかった
結局3人揃って同じ高校へ進学した
そこの弓道場は冴えなかったけど
先輩は誠意を持って指導にあたってくれたし
師範もかっこいい人で毎日が楽しかった
あの高校には行けなかったけれど
約束をせめて守るためために練習に励んだ
たぶん彼女との再会を夢見て…
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