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◇第1章
【65】マジックワーカー紹介所 - 残った四人
しおりを挟む「……さて、ここに残ってくれた君たちは先ほどの話を聞いた上で依頼を受けてもいいと思ってくれたんだよね?」
「はい、問題ありません」
「私もです」
「私も大丈夫です~」
「あっ、わっ私も! 大丈夫です! 公爵様!」
お父様の問いかけに彼女らは次々と返答した。
残った人で私が把握しているのはアナとレイラ。
あと二人は白いショートヘアの少女と、長いふわふわの栗毛の少女だった。
どちらも覚えがないということは、お父様が選ばれた人たちだろう。
「ありがとう。じゃああとは……リーシェ。彼女たちの中から誰かを選ぶかい? さっきの話を聞いても残ってくれた子たちだから、私としては四人全員でもいいと思っているのだが……」
こちらの様子を伺いつつ、お父様はそう尋ねてきた。
ふむ……割と納得されているご様子だし、そうしてしまうのが手っ取り早そうだ。
「では私も四人全員で構いませんわ」
「そうか、よかった。なら君たち、ここに掛けてくれ。すぐに契約を済ませてしまおう。支配人、用意しておいた契約書を頼めるかな?」
テキパキと指示を出すお父様に、周囲は黙々と従い行動を起こす。
アナは周囲の様子を伺いつつ、それに合わせて行動しているようだったが、他の者と一緒にその後も指示された通りに契約を結んでいた。
とりあえず、当初の目的だったアナを無事に私の侍女にすることができそうで一安心だ。
彼女が侍女として私の側にいてくれるのであれば、彼女との信頼関係を築き、各イベント攻略で協力を仰ぐことも可能になる。
つまりそれは、彼女の固有スキル「異空間収納」を利用させてもらうことができるだろうということだ。
名前から想像できる通り、彼女は彼女にしか扱えない異空間に生物以外のものを収納することができる。
一体どこまでを「生物」と定義付けるのかは定かではないが、ゲーム内のヒロインも彼女のその能力のおかげで多くのアイテムを持ち運ぶことが可能だという設定になっていた。
チート級の光属性魔法を使えるヒロインならまだしも、魔物や手練と戦わなければならないメインイベントに関しては正直私では荷が重すぎる。
何とか私がやってのけようとする場合、多くのポーションやレアアイテムを適宜使っていかないと到底太刀打ちできないだろうことは容易に想像できた。
けれど、自身でアイテムを所持して戦うのには限界がある……そこで一番最初に思いついたのが彼女を私の味方につけるという案だった。
アナの能力を使えばアイテムの上限数を気にする必要はなくなり、おまけに大量のアイテムを運ぶ手段を考える必要もなくなる。
まさにヒロインに期待しないと決めた私にとっては欠かせない人物というわけだ。
……まあ、こうして無事侍女にできたとしても信頼関係を築けなければ彼女が私に協力してくれるかはわからないのだけれど……そこはなんとか頑張ってみるしかない。
(ルナ対して少しは気が引けてしまうところもあるけれど……将来別の侍女を見つけてその人と一緒に楽しく過ごしてね)
「……よし。契約自体はこれですべて終わりだ。だが……最後にリーシェに自己紹介だけしてもらっていいかな? リーシェにも明日から来る君たちの顔と名前を少しでも覚えておいてもらいたいしね」
いつの間にか手続きは終わっていたようで、お父様が私の背中にそっと手を当てながら、彼女らの方を見るように促した。
私は落ちていた視界を上げ、彼女たちの顔をしっかりと見つめる。
「じゃあ……そうだね、右側の子から順にお願いできるかな?」
「畏まりました」
返事をしたのはレイラというあの女性だった。
「レイラです。姓はありません。年は十九歳、どうやらこの中だと最年長のようです。得意なのは護衛ですが、お嬢様に気に入っていただけるよう誠心誠意勤めさせていただきます。以後よろしくお願いします」
スッと頭を下げると、長い黒髪がさらりと流れた。
あまり表情が動くタイプの人ではないようだが、きつい感じはなく、かなり真面目そうだという印象を得た。
「は~い。じゃあ次は私ですね~。モネ・レーフェルと申します。ほぼ没落していますが、一応男爵家の三女です~。年齢は十七歳、お料理とお裁縫が大好きです~。お掃除は少し苦手なのですが、お給金分は精一杯頑張らせていただきますね~」
栗毛で緑目の少女、モネは両手を胸の前でぐっと握り、力強くそう言った。
所作が一番綺麗だと思ったら……なるほど、没落寸前とは言えちゃんとした貴族だったのか。
おっとりとした性格のようだが、それなりに身の回りのことはやってくれそうだ。
「私はメリル・ミケットです。年齢は十二歳。父は魔塔の名誉研究者、母は元人気マジックワーカーで、私自身も魔力が高く、魔法もかなり使えます。貴族ではありませんが母から知識としては教わりましたので、お役に立てることも多いはずだと思います。至らぬところはご指摘いただければ改善致しますので、何卒よろしくお願いします!」
青色の目を真っすぐにこちらに向けて白いショートヘアの少女、メリルはハキハキと口にした。
親が魔塔に勤めていると大抵子供も魔塔に勤めたがるらしいが、母親の影響だろうか、その姿勢からはマジックワーカーとして働くことに誇りや希望を持っているように思えた。
(こうして見るとアナ以外もいい人材が残ってくれている感じがするわね……)
現実をつきつけられはしたものの、お父様が最初にノインの件で線引きしたのは正解だったかもしれない。
正直、この三人は予想以上の収穫かもしれない。
「あっ、アナ・クルールでしっ! 年は十歳で……えっ、えーっと……まっマジックワーカーとしてのお仕事はまだあまり行ったことはないのですが、精一杯頑張らせていただきますのであのっ……よっよろしくお願ひしましゅっ!!」
かなり緊張しているのかアナは終始噛み噛みだった。
思わずくすっと笑うと、つられたようにレイラとモネも笑った。
お父様は微笑んでいたけれどアナの顔はみるみるうちに赤くなり、隣のメリルが彼女の肩にポンッと手を置き、その後彼女の頭を数度撫でてあげていた。
そんな和やかな雰囲気が続き、残ってくれた四人は私に対しての恐怖心や嫌悪感があまりないように思え、内心ほっとした。
もちろんこちらが不快に感じるような態度を取るようであれば辞めさせればいいと割り切ってはいたが、こうして普通に接してもらえるとやはり胸の中が温かく、どこか嬉しい気持ちになった。
明日は週に一度のアレクセイ殿下と顔を合わせる日であるため、ちゃんとした者が周りにいた方がいいだろうというお父様のご判断から、少々無理を言ってモネとアナが来てくれることになった。
あとの二人は明後日から働いてもらうという形で話をつけた。
その後すぐに彼女らと別れ、私たちは紹介所を後にした。
当初の目的はアナだけだったけれど、こうしてお父様と一緒に紹介所に来られて結果的にはよかったなと思いつつ、帰りの馬車に揺られた。
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