あなただったら、いいなあ

らいち

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佇む男

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 美希は七時前には帰っていった。その時アパートの下まで送って行ったんだけど、健司らしき人はもう既にそこにはいなかった。
 背格好だけはすごく似てたんだよね。……健司だったらいいなあ。

「さてと、急いでご飯の支度をするかな」

 遅い時間になってしまったので面倒で、簡単に野菜炒めで済ませた。
 バイトをせず家からの仕送りでやり繰りしている桃子は、贅沢なんて出来ない。自炊は必須だ。

 食事を適当に済ませて風呂に入り、明日の準備を済ませくつろぐ。桃子はスマホを手に取りお気に入りの大きなクッションに腰を下ろして、カーテンが開けっ放しになっているのに気が付いた。

「中途半端に開いてる。閉めなきゃ」

 窓に近づきカーテンを手にして息を呑んだ。
 桃子の視界に入ってきたのは、街灯にボーッと映し出された人影。目深に被ったフード。そして白地に赤いラインのスニーカー。

 さっきの人だ。
 顔、顔を上げてくれない? 私に確認させて。そして中に入って来てよ。

 桃子はじっと男を見つめる。だが男は数分微動だにしないまま、結局顔を見せることなく帰って行ってしまった。



――もうそんな状況が一週間も続いている。
 これはもはや日課よね。いい加減にもう少し、ステップアップする気はないのかしら?
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