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シザク王の死

初めての出張

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 しばらくルウクの仕事は雑用に塗れていた。それというのもセレンがナイキ侯爵に呼ばれ、歳入や歳出の財政のあれこれや、地方に配分する予算などのあり方などを勉強させられていたからである。

 主人であるセレンが勉強中では、セレン独自の仕事が派生しないので、ルウクはあちらこちらから雑用を言いつけられる羽目に陥っていた。

(動くのは好きだからいいんだけどね)

 一人、自分の部屋でボーッと過ごすよりは、やはり体を動かしている方が性に合っているので、ルウクはそれなりに楽しく日々を過ごしていた。


「ルウク!」

 庭師の手伝いで鋏をいくつか持って脚立の下で待機していると、城の方からハイドが駆けて来た。

「セレン様がお呼びだ! ルーファス行きの許可が下りたから、準備をするようにとの仰せだ」
「はい、わかりました! あ、すみません。セレン様に呼ばれたので行かなくてはなりませんが」
「ああ。ありがとよ、兄ちゃん。セレン様のために頑張ってこい」
「はい。ありがとうございます」

 ルウクはぺこりと挨拶をして鋏をその場に置き、ハイドの許へと走って行った。
 セレンの部屋へと急ぐと、ナイキ侯爵も傍にいた。

「あの、よろしいでしょうか? もしお邪魔でしたら、また出直して参りますが」

「いや、いい。ルーファスにはサントー伯爵と話が付いて、ナイキ侯爵にもついて来てもらう事になった。侯爵の配下のマルコとダンジーも一緒で、総勢五名での旅になる」

「あ、はい。分かりました」

 ルウクは改めて緊張した。ナイキ侯爵は苦手だが、そんな事も言ってはいられない。

 このルーファスへの訪問が、今後の国の資源の在りように重大な意味を持つことになるのだ。自分の仕事は、セレンが気持ちよく仕事が出来る様に手助けをすること。本当はナイキ侯爵のように色々助言とかできる立場になりたいと思ってはいるのだが、なかなかそれは一朝一夕に出来るほど易い事ではない。

「ルーファスには午前中に出れば夕方には着きます。翌日は朝からサントー伯爵も交えて技術者たちと話し合う事になっています。その時に色々と詰めていきましょう」

「ああ。……三泊四日の日程だ。荷物の準備もしておいてもらえるか? 出発は明後日だ」
「かしこまりました。日程は会議のみですか? 華やかな場においでになる事は……?」

「ないな。今回はバツアーヌをいかに開発し、補助していくかを検討することが優先事項だ。色気もそっけもない会議室が舞台になる。退屈かもしれないが、ルウクも勉強するつもりでしっかり参加してくれ」

「はいっ」

 セレンもナイキ侯爵も、背筋をピンと伸ばして畏まるルウクに初々しさを感じて思わず微笑んだ。だがこの生真面目なセレンの従者は主人らの思いなどつゆ知らず、旅支度の為のあれこれに思いを馳せている。

「それでは荷物の準備の前に、洗濯物などを片付けてまいります。出ている物のほかに洗ってもらいたいものはございますか?」

「……いや、大丈夫だ」
「そうですか。では、洗濯してきます」

 ルウクは衣服の入っている洗濯籠に、シーツなどを剥いで詰め込む。よいしょと持ち上げて、ランドリールームへと向かった。

 運のいいことに今日は洗濯機を使っている者も待っている者もいなかった。おまけに、しばらく壊れたままになっていた洗濯機が新品の物に変わっていて、二つ同時に回せるようだ。

 ルウクはセレンの洗濯物を新品の洗濯機に入れて、備え付けの洗剤を入れた後、自分の部屋へと向かった。ベッドのシーツを剥ぎ、未だ洗わずに置かれている洗濯物をかごに入れ、ランドリールームへと戻って行く。空いている洗濯機に自分の洗濯物を入れ、終わるまで待機しようと腰かけた。

 誰もいないしすることも特にないので、ルウクはぼんやりと窓から空を見上げる。ふわふわと浮かぶ雲が気持ちよさそうに風でゆっくりと流れていく。そんな様子を眺めていたら、不意に故郷の弟の事を思い出した。

 弟とはシエイ王の葬儀の際に会ったきりだ。セレンに会いたいと楽しそうに言っていた事も思い出し、自然と笑みが浮かぶ。母もそうだが、兄弟揃ってセレンのファンだなんて笑ってしまう。

 兄弟といえば、腹違いとはいえセレンもシザク王もれっきとした兄弟だ。生まれのせいで微妙な関係になってしまってはいるけれど、きっと本音としてはもっと忌憚なく仲良くしたいと思っているに違いないのだ。

(シザク王が国を盤石なものにした時には、もっとお互いの事を語り合って理解できるようになると良いな)


 ぷかぷかと空に浮かぶ真っ白な雲を見ながら、ルウクは彼らの前途に思いを馳せていた。
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